【公開稽古レポート】松尾スズキ×杉原邦生がフレッシュな俳優とつくり上げる『アンサンブルデイズ―彼らにも名前はある―』

松尾スズキ(中央右)、杉原邦生(中央左)とコクーンアクターズスタジオ1期生の面々

【公開稽古レポート】松尾スズキ×杉原邦生がフレッシュな俳優とつくり上げる『アンサンブルデイズ―彼らにも名前はある―』

3月14日(金) 3:30

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演劇の未来を拓く若手俳優の育成のために誕生した「コクーンアクターズスタジオ」の1期生による卒業公演「アンサンブルデイズ―彼らにも名前はある―」の稽古が公開され、シアターコクーンの芸術監督で、同スタジオの主任である松尾スズキと講師で本作の演出を担当する杉原邦生が取材に応じた。

松尾が本公演のために書き下ろしたオリジナルミュージカルで、役名のない“アンサンブル”キャストとして舞台に立つ若き俳優たちの奮闘や葛藤を描く青春群像劇。【朱雀】バージョンと【玄武】バージョンの2種類に分かれ、1期生24名全員が出演する。

杉原の「いつも通り稽古をやっていきましょう!」という言葉と共に稽古はスタート。杉原は稽古中、演出用のブースではなく、常に最前列に陣取り、若き俳優たちの芝居を見つめ、細かく修正点を洗い出していく。

この日、公開されたのは、若き演劇人たちが集うバーでのシーン。2.5次元俳優に元人気アイドルグループに所属していた女優、有名女優を母に持つ2世タレントという、“そこそこ売れっ子”な俳優たちと別のテーブルで飲んでいる売れない俳優たちが、それぞれに抱える悩みや苦悩を歌い上げるという流れ。

『アンサンブルデイズ―彼らにも名前はある―』公開稽古より 『アンサンブルデイズ―彼らにも名前はある―』公開稽古より 『アンサンブルデイズ―彼らにも名前はある―』公開稽古より

2.5次元俳優は「僕のファンは、僕のファンじゃなくて、僕が演じているアニメのキャラのファン」であると嘆きながらファンサービスのチェキ会の収入でタワマンに住んでいると自嘲気味に語り、元アイドルは、グループ時代の固定ファンの存在によって食っていけるも、「ストーカーばかりでプレゼントのぬいぐるみの9割から盗聴器が出てくる」と苦笑。2世タレントは、亡くなった母の莫大な遺産を相続するも「ホストに半分遣っちゃった」と語るなど、松尾らしいシニカルな視点や“毒”の散りばめられた会話が繰り広げられる。

『アンサンブルデイズ―彼らにも名前はある―』公開稽古より 『アンサンブルデイズ―彼らにも名前はある―』公開稽古より

それなりに売れている彼らは、役名を与えられ、スポットを浴びてソロで歌う機会もあるのだが「好きでソロで歌っているわけではない」と本心を明かし、ソロで歌って力量が問われることが「恐怖しかない!」と歌う。そんな彼らに「じゃあやめればいいんじゃないですか?」という真っ当な疑問が投げかけられるが、彼らは「でも、芝居が好きなんです」と語る。そんな売れっ子組に対し、売れない俳優たちが「その他大勢やっても好きって言えるかい?」と怒りの反撃を繰り出すとともに、“名もなき誰か“を演じ続ける悲哀を歌い上げる。短いやりとりながらも、普段、華やかなステージを見ているだけではわからない演劇の世界の“あるある”を感じさせるシーンとなっている。

「スベることも修行です(笑)」松尾スズキ・杉原邦生が語る本作への思い

稽古後には松尾と杉原が出席して質疑応答が行われた。松尾は卒業公演のためにオリジナルでミュージカルを書き下ろした理由について、24名の俳優それぞれに見せ場となるシーンを与え、なおかつレッスンで培った歌やダンスを披露する作品にしたいという思いもあり「自分で書くしかない(笑)」という決断に至ったと説明。さらに「自分の周りの俳優たちが、みな年老いてきているので(苦笑)、若い人たちに書きたいという思いがあった」とも明かす。

松尾スズキ(右)と杉原邦生(左)

アンサンブルキャストの無名の俳優たちの物語にした点については「自分たちが、まさにその立場に近い状況にいて別の人を演じるということで、キャラクターに共感を持ってくれるんじゃないか? お客さんに向けても『何者でもない俳優たちが、いま目の前でダイレクトで演じているんだ』というダイナミックな感じを受け取ってもらえたら。何者にもなれてない俳優を何者にもなれていない俳優が演じる“残酷さ”を自分たちで味わってほしいという思いもあった」とその意図を明かした。

演出の杉原は、松尾の戯曲について「すごい本だなと思いました。コクーンアクターズスタジオの生徒たちが、シアターコクーンという舞台で演じること――そういったいろんな要素が盛り込まれていて、その上にきちんと物語があり、それぞれに見せ場があり、計算されて書かれているなと思いました。それでいて、社会の不条理に真っ向からぶつかっていくところなど、松尾さんらしさがふんだんに入っていて魅力的だなと。劇場や演劇界、ミュージカル界の愛情を感じられる温かい本だと思ったし、その温かさをきちんとお届けする演出をしなくてはと思いました」と語る。一方で、演出に関しては「何も隠さずに言いますけど……すごく大変です(苦笑)」と語り、プロの俳優を演出するのに比べ「2倍から3倍の時間がかかった」と明かす。それでも「同時に俳優たちの成長も見えたし、レッスンでは見えなかった魅力が見えて、それを発見していく面白さがありました」と手応えも口にしていた。

劇中、松尾らしいコミカルなやり取りも散りばめられているが、松尾は多くの観客の前で“笑い”を演じるということについて「スベることを知らずに卒業するのは、面白くなりたい俳優にとって不幸なこと。スベることも修行です(笑)」と愛情をもって突き放す。

杉原は「フレッシュな俳優たちが、シアターコクーンの大舞台で暴れ回る青春群像劇です。売れていない俳優さんがメインになっている話ですが、一度でも『こういうことをやってみたい』と夢を持ったことある人、それに挫折したり、あきらめたりした人には届く作品になっていると思う」と本作の魅力を訴えた。

取材・文・撮影:黒豆直樹

<公演情報>
COCOON PRODUCTION 2025
Bunkamuraオフィシャルサプライヤースペシャル
『アンサンブルデイズ―彼らにも名前はある―』

作・音楽:松尾スズキ
演出・美術:杉原邦生
音楽:杉田未央

出演:コクーン アクターズ スタジオ第1期生
生田有我石川なつ美石田とねり伊島青羽衣大嵜逸生岡田絆奈川﨑志馬
小林宏樹佐織祥伍雜喉侑大嶋村連太郎芹なずな高橋卓臣田尻祥子等々力静香
富田康聖中野亜美新関峻原マリコ宮城優都村井友映森本彩日吉田ヤギ

2025年3月20日(木・祝)~23日(日)
会場:東京・Bunkamuraシアターコクーン

チケット情報:
https://w.pia.jp/t/ensembledays2025/

公式サイト:
https://www.bunkamura.co.jp/cocoon/lineup/25_ensembledays.html

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