3月8日は、「国際女性デー」。女性のエンパワーメントをテーマに、世界中でイベントがたくさん開催されています。
その中で、1995年に世界189カ国が採択した、「北京宣言」と、貧困、教育、健康、暴力など、女性の地位向上とエンパワーメントを達成するために優先的に取り組むべき12の重大問題領域が「行動綱領」として採択され、今年でちょうど30年。この宣言と行動綱領が採択された「第4回世界女性会議」に当時、衆議院議員として出席していた小池百合子東京都知事に、日本における女性のエンパワーメントの30年、そしてこれからについて、お話をお聞きしました。
お話を聞いたのは…
小池百合子 東京都知事
1952年兵庫県生まれ。92年参議院議員初当選、93年衆議院議員初当選。以降、環境大臣、内閣総理大臣補佐官(国家安全保障問題担当)、防衛大臣、自民党総務会長など歴任後、2016年東京都知事当選(現在、3期目)
>>都庁総合HP「知事の部屋」
―1995年の「北京宣言」から30年となりましたが、当時、会議に出席されていた小池都知事として、日本、そして世界の変化をどうご覧になっていますか。
小池百合子都知事
:はい、この会議に出席していました。日本の政府代表が、当時の官房長官で、代表が男性でいいのか、と議論になったのをよく覚えています。この会議の成果としては、日本が世界の流れに取り残されないように、日本もやっとお尻に火がついた、やっと一歩前に進める、そんな節目の会議になったように思います。
―今の世界の女性リーダーのラインナップを見ていると、この30年の間に、きちんとキャリアパスを作ってきたんだなと思うんです。リーダーとして登用されるための経験を当たり前のようにできている。その点、日本はどうなんだろうと思います。
小池百合子都知事
:意思決定の場に女性が存在すること、そしてそれが当たり前になれば、女性が社会の中で活躍する舞台も格段に広がっていきます。日本の場合は残念ながら、ジェンダーギャップ指数も146カ国中118位。「去年(125位)よりいく分上がって、下がらなくてよかったね」といった反応はどうかと思いますね。日本は国会をはじめ、多くの会議で、景色は真っ黒な背広ばっかり。この光景は、世界から見たら、非常に特殊に見えますね。
国内にいると、こうした光景が当たり前になっています。1人女性がそこに加わっただけでニュースになり、しかも、ああよかったねというゆるい反応で終わってしまう。こういう状況が、残念ながら長年繰り返されています。
―ジェンダーギャップ指数を押し下げている要因の一つが経済と政治分野です。経済ですと企業での管理職、役員の登用率が低いということですが、政治も女性の政治家が残念ながら少ないですね。昨年の衆議院選で少し増えて15.7%、参議院の方は25.4%となりましたが、政治分野のジェンダーギャップ指数を改善しない限り、この順位が上がらないのですが、どういうことが必要だと思われますか。
小池百合子都知事
:女性自身もリーダーシップはもちろん、同時にフォロワーシップの両方を学んでいく必要があると思います。昔から、意思決定の立場である女性閣僚をもっと抜本的に増やすべきと考えているのですが、なかなか相応しい人はいないと思われているみたいなんですよね。
―いないですか?
小池百合子都知事
:チャンスが与えられれば、しっかり活躍する方はたくさんいます。でも、間違いを起こしてはいけないからと、女性を選ぶことがリスクになると考える人がいるみたいで。
―リスクですか?
小池百合子都知事
:むしろ女性が登用されない方がリスクだと思いますね。
―その通りです。その中で、小池都知事は、「女性初」と言う冠がつくようなご経験を多数されてこられましたけれども、そのことについてはご自身ではどう思われていましたか。
小池百合子都知事
:私は、自分が選ぶというより、周りの方に認めていただいて選ばれるケースが多いですね。閣僚にしてもトップが選ぶわけで。選ばれた時はとてもありがたかったですし、いただいたチャンスですから、思い切ってやりたいことをやろうと。環境大臣の時に始めたクールビズも、キャッチコピーまで自分で考えたんですよ。当時の新聞の全面広告で「夏、男性がネクタイをはずせば、女性のひざ掛けがいらないオフィスになります。」と呼びかけました。
―クールビズは、夏場、男性が軽装になることによって、女子はエアコンで過度に体を冷やすことがなくなるという効果は、やはり女性大臣だからこそ気づくことなのかなと思っていました。
小池百合子都知事
:省エネのため、ももちろんありますが、私、もともとエアコンが苦手でして。今でも、エアコンの向きを考えて座る席を選んだりするくらいです。でも、これは環境大臣だからこそだと思います。繊維産業を管轄している経産省では、ネクタイ業界などから反対されてしまい、前に進むのが難しかったと思います。
―省エネにも、女性にも、そして軽装になって楽なのは、男性もですよね。「よかった」と思う人は、意外に多かったと言うことでもありますよね。
小池百合子都知事
:やはり「共感」ですね。大義ある政策を進めるには、受け手となる方の「共感」を得ることが大切です。ネクタイ業界にはだいぶ怒られましたが(笑)
―こうして女性が活躍して色々な視点から政策が考えられることは、すごくいいなと思うのですが、そもそも女性活躍の目標は、私は「自立」ということだと思うんです。経済的自立が精神的自立にもつながる。その観点から、都庁で取り組まれていることはありますか。
小池百合子都知事
:都庁の職員も、男女で昇進のチャンスは同じ。いま女性管理職の比率は約2割ですが、これを2035年までに30%に引き上げる目標を掲げています。まずは、女性職員にできるだけ管理職試験を受けてほしいと思っています。家庭と仕事の両立に悩む職員も少なくありません。こうした職員が気軽に利用できるキャリア・メンター制度もつくりました。
また、東京都では、「Women in Action」の頭文字をとり「女性活躍の輪(WA)」を掲げていて、企業の経営層と女性経営者、女性首長など、多様な主体を一つにつなげる取組を行っています。その一つに、政治分野の女性参画を進めるための「女性首長によるびじょんネットワーク」があり、全国の女性首長に参画いただいています。風向きは確実に変わっていて、知事就任時、東京23区の女性区長はお一人だけでしたが、現在は7名にまで増えました。
今日は記念に色紙に文字を書いてきました。「わ」は、リングの「輪」と和をもって尊しとなす、を意味する「和」の2つをイメージしています。
落款印は東京の象徴とも言える渋谷スクランブル交差点をモチーフに
―小池都知事はもともと、女性の自立ということを目指して人生の選択をされてきたのですか?
小池百合子都知事
:私の場合は母が、結婚しても、いつ何が起こるかわからないから、自分で生きていけるようにしないといけない、と言われてきました。そのためには自分が好きなことをしなさい、好きなことじゃないと長続きしないから、と。好きなことで自立して、自分の人生を歩んできた、ということです。
―キャスターから国会議員になられて、その先に、都知事というお立場があって、これは想定されてきたことなのですか。
小池百合子都知事
:全然想定してなかったですね…。
―どのあたりまでを目標とされてこられたのですか?
小池百合子都知事
:目標という意味では、海外、世界でしょうか。視野を広く持つことを常に意識してきました。
―では具体的なキャリアは、何かご縁、みたいなものですか。
小池百合子都知事
:全部、ご縁ですね。節目、節目で声をかけていただいて。
―その時に、やってみよう、と思われるのは、どうしてなんですか。
小池百合子都知事
:面白そうだから(笑)。それに、人のご縁を大事にしてきた結果かなとも思います。
―なるほど。日本の女性は管理職にどう?と言われても、「いえ、私なんて」と奥ゆかしく遠慮する方が多いのですが、ここは、せっかく声をかけていただいたということに感謝しつつ、頑張ってみる、という意識も必要ですね。
小池百合子都知事
:私の場合、最初に声をかけていただいた時はテレビ番組のアシスタントとしてでした。生放送の番組で私が自分の考えを言うと、視聴者から「生意気だ」と苦情の電話がくるんです。実際に、自分でも抗議の電話を受けました。
―ご自身で?
小池百合子都知事
:そうです。当時、女性は、大体「は行」で返せばいいと言われました。「はい」って聞いて、「ひ」はないですが、「ふうん」「へえ」「ほう」。それでいいって(笑)。「は」行ですませる。今じゃ考えられませんよね。
―そんな経験を経て、メインのキャスターになられたときは、思いっきりご自分の色を出せる、って思われたのですね。女性の場合は、子育てを経て、新たなことにチャンレジして復職を目指すと言う人も多いのですが、それに限らず、女性だからこその自立へ向けた支援策は何かご検討されていますか。
小池百合子都知事
:再就職支援やリスキリング、最近では「年収の壁」問題への対応など、都の支援メニューを年々充実させています。根底にあるのは、女性のキャリア形成と、妊娠・出産といったライフイベントとの両立を支えたいという思いです。2年前に卵子凍結に向けた支援を始めました。説明会への申込者は累計1万5千人を超えるなど、大きな反響をいただいています。産みたい時期と産める時期にはギャップがあり、出産を遅らせている間に加齢をしてしまう現実があります。色々課題はあるのですが、ニーズにしっかりと応えていきたいと思っています。来年度の予算規模は今年度の倍の4,000件を予定しています。
―選択肢を増やすということですね。
小池百合子都知事
:自分のキャリアメイクと、出会い、そして妊娠・出産といったライフイベントの間で、何を優先するか、何とか両立できないか、悩まれる方が大勢います。そのために卵子凍結は一つの手段だと思います。加えて、プレコンセプションケアは、若いうちから、将来の妊娠・出産に関する正しい知識を身につける点で大事です。それぞれの年代に合わせた支援策や普及啓発を行うことで、皆さんの自己実現を支えていきます。
取材・文/政治ジャーナリスト細川珠生
政治ジャーナリスト細川珠生
聖心女子大学大学院文学研究科修了、人間科学修士(教育研究領域)。20代よりフリーランスのジャーナリストとして政治、教育、地方自治、エネルギーなどを取材。一男を育てながら、品川区教育委員会委員、千葉工業大学理事、三井住友建設(株)社外取締役などを歴任。現在は、内閣府男女共同参画会議議員、新しい地方経済・生活環境創生有識者会議委員、原子力発電環境整備機構評議員などを務める。Podcast「細川珠生の気になる珠手箱」に出演中。