一般社団法人日本動画協会によれば、日本では1910年代~2022年7月末までに製作された商業アニメーションが1万4700タイトルを超えたという。まさに「アニメ大国」と呼ぶにふさわしいが、そんな日本の状況に間違いなく大きな影響を与えたのが、ウォルト・ディズニーが手掛けた世界初のカラー長編アニメーション『白雪姫』(37)だ。同作を実写化した『白雪姫』(3月20日公開)が控えるなか、改めてその功績を振り返ってみたい。
【写真を見る】ロトスコープやマルチプレーン・カメラといった画期的な手法も取られ、リアリティある映像が追求された
■誰もが無謀と反対した世界初の長編アニメーション『白雪姫』のプロジェクト
そもそもアニメーションは、映画館で上映されるコメディ要素の強い6~7分ほどの短編が中心だった。それらはカートゥーン(漫画映画)と呼ばれ、かのミッキーマウスもカートゥーンのキャラクターとして誕生したのである。ウォルトは1923年に兄のロイと共にディズニー・ブラザーズ・カートゥーン・スタジオを設立。ミッキーマウスを主人公にしたシリーズや「シリー・シンフォニー」シリーズなどで人気を獲得し、スタジオの名を押し上げていくことになる。
そんななかでしだいにウォルトは、アニメをヒットさせるには魅力的なキャラクターも大切だが、感情移入させるような素晴らしいストーリーも必要であることに気づいていく。そして1934年、ついにウォルトは数名のスタッフを集め、ある衝撃的な計画を発表する。それが長編アニメーション『白雪姫』の製作であった。しかしこれには社内からも反対の声が上がるほど、多くの人が戸惑いを見せることに。当時は誰もがアニメーション=短編、アニメーション=子ども向けのイメージを抱いており、長編など誰も想像したことがなかったからである。
■ロトスコープ、マルチプレーン・カメラなどで追求されたアニメーション表現
周囲が懸念を示すなか製作を決めたものの、ウォルト自身も『白雪姫』によって追い込まれていくことに。というのも、映像にカートゥーン以上の真実味を求め、アニメーション表現に対する並々ならぬこだわりがあったからだ。
まず本作には、モデルとなる生身の人間の動きをカメラで撮影し、それをトレースしてアニメーションにする“ロトスコープ”という手法が使われている。そのため、白雪姫や女王、王子らの動きは実写のように滑らかだ。しかし流麗な動きを作り上げるには恐ろしいほどの労力を要する。上映時間はわずか83分だが、作成されたセル画の枚数はなんと25万枚。例えば、宮崎駿監督が手掛けた作品のなかで最も多くのセル画を要したといわれる『崖の上のポニョ』(08)でも17万枚であり、いかにケタ違いの規模だったかがわかるだろう。
さらに、マルチプレーン・カメラという新システムも使用。これは異なる距離で配置された複数枚のセル画をカメラで撮影する手法で、本来は2次元である画をまるで3次元のような奥行きある映像として仕上げることができた。
■制作を進めながらアニメーターの育成にも尽力
ミッキーの短編などは、10名ほどのスタッフで制作できていたのだが、『白雪姫』のような長編となるとそうもいかない。結局は、おおよそ300人もの人間が雇われることとなる。さらにすごいのは、この『白雪姫』の製作当時は大恐慌中。そんななかでの制作は、仕事にあぶれていたアニメーターたちを救うことにもなった。しかもリアルな動きを学ばせるため、作業しながらアニメーターたちの訓練も同時に行っていたという。かくして腕を磨き上げたアニメーターたちを大量に育成したことで、のちのディズニー作品のクオリティをアップさせることにもつながっていった。300人で4年半もの歳月をかけながら、『白雪姫』はクリエイトされたのだ。
■歴史に名を刻む名作となった『白雪姫』
当然のことながら予算はとっくにオーバーし、ウォルトは映画業界から「道楽」などと揶揄されながら、銀行からも金を借り、自宅までも担保にして制作に没頭。当時のお金で170万ドル(いまの価値で換算すると約85億円ほど)の製作費を最終的に費やしてしまう。文字通り、ウォルトは『白雪姫』が成功するか否かにより、スタジオの倒産どころか人生が破滅するかもしれない状況に身を置くこととなっていた。
しかし結果は、最終的に6100万ドルの興収(約3000億円)を上げ、世界的大ヒットを記録。借金をすべて返し、本社をバーバンクに引っ越しさせ、『ピノキオ』(40)や『ファンタジア』(40)などの名作を次々と世に放っていく。さらに『白雪姫』は世界中にアニメーションの素晴らしさを伝え、手塚治虫は50回以上も鑑賞したという。多くの人々にアニメーション作りの道へ進むキッカケを促すことになり、まさにアニメーションの歴史に名を刻む、草分け的存在になったのだ。
文/横森文
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