最後まで競り合う展開のなか、日本人学生記録を出した青学大・黒田photo by Jiji Press
2月24日に行なわれた大阪マラソンでは近藤亮太(三菱重工)が2時間05分39秒の初マラソン日本最高記録で2位(日本人トップ)に入るなど、日本勢上位6名が2時間6分30秒を切った。そのなかでも青山学院大のエース、黒田朝日(3年)は堂々たるレースを展開し、初マラソンながら日本人学生最高記録(2時間06分05秒)で6位(同3番手)に入り、存在感を発揮した。
箱根駅伝の総合優勝後、世界陸上のマラソン代表選考レースにおける青学勢の躍進はなぜ続くのか。黒田のレースぶりと本人のコメントからひも解いてみる。
【大阪でも外さなかった男】「外さない男」とは、青学大の黒田朝日のことだ。
トラックでも、駅伝でもいつでも実力を発揮する。インタビューをしても淡々としている。風呂敷を広げない。いつも、身の丈。大学三大駅伝の成績を見てほしい。
●2年時
出雲2区区間3位
全日本2区区間2位
箱根2区区間賞
●3年時
出雲3区区間賞
全日本4区区間賞(区間新)
箱根2区区間3位(区間賞)
区間賞3回、区間2位が1回、区間3位が3回。そんな黒田が大阪マラソンに出るというのだから、「絶対に外さないだろう」という予感がしていた。
当日の大阪は雪が舞う肌寒い天候。黒田はペースメーカーが先導している間は集団の中位から後方に位置し、消耗を避けるレース運び。駅伝の時と同様、時計をせず「黒田WAY」を貫いている。
3度目の折り返し地点での誘導ミスで、ほかの選手たちと同様、余分に走ってしまうアクシデントがあったが、余裕を持った走り。レースが動き始めたのは、30km過ぎの坂を超えたところからだ。
「集団の前の方で走っていたので、なんとしてもついていこうという気持ちでした。30km過ぎの上りを終えてからの下りでちょっと離されてしまったんですけど、なんとか食らいつけたのでよかったなと思います」
坂はうまく上ったが、そのあとにエチオピア勢がペースを上げたため、黒田はいったん離されてしまった。しかし、そこで粘ったことで、先頭集団のペースが落ち着いたところで再び集団に加わることができた。運も味方したし、黒田の実力も十分に備わっていたということだ。
39km過ぎからは、イフニリグ・アダン、アブティサ・トーラのエチオピア勢と近藤亮太(三菱重工)に離されてしまったものの、黒田の粘りは続いた。
「終盤の競り合いで、あそこからペースアップする体力はほとんど残っていませんでした。それでも、原(晋)監督から『30km以降が勝負だぞ』と言われていたので、そのとおりしっかり粘れたと思います」
黒田の強みは、離されたとしても自分の状態と対話しながら走っているので、気持ちが折れないことだ。勝てなくとも、自分のベストを尽くす。それは駅伝でもマラソンでも変わらなかった。
42.195kmの旅路の終わりが頭にちらついてくる40km過ぎからも、自らのペースで走り切り、ガッツポーズでフィニッシュ。
タイムは2時間06分05秒で、若林宏樹先輩の日本人学生記録を2秒上回っていた。もしも、折り返し地点でのロスがなければ......2時間5分台の可能性は、十分にあった。
「30km過ぎの坂を越えてから、今まで味わったことのないキツさでした。もう走りたくないです(笑)」
レース後、穏やかに話すあたり、いかにも黒田らしい。
「記録は全然、頭にはなくて。本当に走りきることだけという感じでした」と話したが、最後まで勝負に加わった実力は大いに評価したい。
【黒田の走りに太田は東京で応えるのか?】もともと、青学大の学生のなかで、黒田のマラソン志向はそこまで強くない。原監督が促さなかったら、そもそも走ってもいないだろう。練習も30kmまでが最長で、フルマラソンはぶっつけ本番のようなものだが、黒田と若林が2時間6分台を出し、別府大分毎日マラソンで若林とともに走った白石光星(4年)が2時間08分42秒で6位に入ったことから、防府、福岡国際、別府大分、そして大阪と今年の東京世界陸上の選考に絡むレースで、トップ10に複数の選手を送り込んだチームは、実業団ではスズキ、トヨタ自動車、NTT西日本などがあるが、優勝争いに絡んだインパクトでは青山学院大がナンバーワンと言っていいだろう。
「箱根駅伝優勝の青学の選手たちが、マラソンでも通用!」という見立ても出ているが、むしろ、逆ではないか?
2時間6分台で走れるエース級の選手が複数いて、チーム内で中位の選手であってもフルマラソンを2時間8分台で走れる「チーム総合力」を持った学校が、箱根駅伝を勝っている−−という見立てが出来るのではないか。
レース後、黒田が「世界にこだわってやりたいわけではなく、今回走った経験は4年生になってからの駅伝への自信になります」と話していたとおり、大阪で優勝したアダン、3位のトラ、5位のゲテラ・モラといったエチオピア勢とフルマラソンで互角に渡り合ったのだから、箱根駅伝で留学生と競ったとしても、なんら恐れることはないだろう。そして黒田の自信は、周りの選手たちにも伝播していくはずだ。
さて、3月2日の東京マラソンには箱根駅伝を4年連続で走った太田蒼生が登場する。4年間トータルで考えたとき、青学史上最高の駅伝ランナーと言っていいかもしれない。
4年間走った選手で思い出すのは小野田勇次(6区のスペシャリスト)、飯田貴之(8区、5区、9区、4区を走ったユーティリティ・プレーヤー)といった先輩たちだが、太田は3区、4区という往路の重要区間で、他校のエースと堂々と渡り合い、決定打、追い上げ弾を放つなど、レースに与えたインパクトとしては青学史上最大級のものがある。
当初からマラソン志向が強く、「影響を与えられる選手になりたいです」と太田は話していたが、ともに練習を積んできた若林、黒田が2時間6分台で走ったことから、太田も同等のタイムを出せる実力は十分にあるはずだ。
実際、黒田も「若林さんのタイムは、自分のなかで目安としていたタイムなので、超えられてよかったです」と話しており、太田とすれば「2時間6分切り」がターゲットとなるだろう。
ただ、気になるのはレース当日の気温だ。3月2日の東京は20度を超えるという予報も出ており、寒さが続いてきたなかで、いきなりの気温上昇はダメージになりかねない。また、原晋監督が今季の出雲、全日本のあとに、「太田は気温が低くなってから本領を発揮するのよ」と話していたことも気になる要素ではある。
私は勝手に、別大から大阪、東京へと至る2025年の3つのマラソンへ挑戦する青学大のアプローチのことを、「2025青学マラソン3連チャン」と勝手に呼んでいるが、トリとして登場する太田が真打にふさわしい走りを見せられるか。
ワクワクしながら見守りたい。
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