登山好きが高じて長野に移住した、登山女子YouTuberのやぎちゃん。山の楽しみ方を伝えるYouTubeチャンネル「やまくっく・やぎちゃん」は、チャンネル登録者が11.6万人(2024年2月21日現在、以下同)にのぼるなど人気を博している。
いまや長野のローカルメディアでのテレビ出演や同県行政からの仕事の依頼など、YouTube以外にも活躍の場を広げているというやぎちゃんに、登山を始めたきっかけや長野に移住したきっかけ、これまでに印象的だった山などについて聞いた。
登山をはじめたのは大学の部活がきっかけ
――登山を始められたきっかけは?
やぎちゃん:
大学でワンダーフォーゲル部に入ったのがきっかけです。ずっと水泳をやっていたこともあって本当はスキューバダイビング部に入りたかったのですが、やんちゃな雰囲気がちょっと怖かったんです。それでワンダーフォーゲル部の部室をのぞいた時に、薄暗い部屋の奥の方で優しそうな先輩がたこ焼きを焼いていて、「食べる?」って声をかけてくれて(笑)。私は地味なタイプなのでそっちに惹かれました。
――それまでに登山の経験はあったのですか?
やぎちゃん:
ワンダーフォーゲル部に入るまでは一度もありませんでした。父親に連れられてキャンプや釣りに行くことはありましたが、登山はまったくしたことがなくて、部活に入っていろいろな山を登るうちにハマっていきました。
「住みたかった長野」に支社がある会社に就職した
――現在の活動エリアは長野がメインですか?
やぎちゃん:
野生動物の撮影で北海道に行くこともありますし、九州に行ったりもしていますが、本拠地はどこか?と聞かれたらやっぱり長野ですね。 以前、全国展開している東京の大手企業に在籍していたのですが、その会社の転勤がきっかけで長野に移住したんです。
――登山をするために長野に移住されたのだと思っていました。
やぎちゃん:
長野にはだいぶ前から住みたいと思っていたのですが、長野に移住してから職場を探すとなると、その土地に慣れていない状態で仕事や人間関係の構築など全てがゼロからのスタートになりますよね。それが不安だったので長野に支社がある会社にまず就職し、転勤で長野に行けるように頑張ったんです。
営業職だったのですが、課長と部長の間に自分の席を作ってもらい、お二人の仕事ぶりを常に観察してテレアポをしたり、営業資料を作る際には事前調査を徹底したり、とにかく数字を上げるためにやれることは全部やりました。
――その成果が報われて、異動がかなったわけですね?
やぎちゃん:
そうですね。「東京で結果を残せれば地方でもやっていけると思います!」などと常日頃からアピールしていましたし、「長野に転勤させてください。そうでなければ辞めます!」と直談判して…(笑)。その甲斐もあって希望が通り、長野支社に行かせてもらえました。
YouTubeを開設した背景には、大いなる野望が
――行動力がすごいですね。ちなみに会社は数年前に退職され、現在は個人事業主(2023年~)として活動されているそうですね。YouTubeチャンネル(2020年2月に初投稿)は会社勤めと平行して開始されたそうですが、はじめたきっかけは何だったのですか?
やぎちゃん:
山が好きな人たちが集まれる“アジト”を作りたいと思っていたんです。宿泊施設を作ってそこでイベントをやったり、知識を深めたり、交流を深めることができればいいなと思いますし、「山に行きたいけど仲間がいない」という方でも、そこに来れば自然と仲間ができるような場所が提供できればいいなと。
――YouTubeチャンネルは、アジトを告知するための発信基地のような役割?
やぎちゃん:
そうですね。いろいろなSNSがありますけど、私がYouTubeチャンネルを始めた頃はYouTubeの影響力が一番強かったですし、YouTubeチャンネルで自分の知名度が上がれば、いざアジトをオープンした時に視聴者さんたちを中心にたくさんの人が来てくれるんじゃないかと思ったんです。
例えば、「30代女子が山好きな方のためにアジトをオープンしました」よりも、「10万人の登録者がいる登山女子YouTuberがアジトをオープンしました」と告知する方が人は絶対集まるじゃないですか。2025年は夢であるアジトに向き合う年にしたいと思っていますし、進捗もYouTubeチャンネルで発信していくつもりです。
当初は「やらなきゃいけない」だったが…
――先ほどお聞きした長野への転勤の話もそうでしたが、明確な目的があって、それを達成するための戦略をしっかり考えていますよね。
やぎちゃん:
YouTubeチャンネルを始めるまではX(旧Twitter)やInstagramなどのSNSを一切やっていませんでした。山も自分のために登っていたので、SNSに投稿するために写真や動画を撮ることもなかったですし……。でもYouTubeチャンネルを広めるために「SNSはやらなきゃいけない」と思って始めたんです(笑)。当初は戦略の一環として運用を始めたSNSですが、今では視聴者さんとの交流が楽しくて投稿しています。
一人で長野へ移住し、新婚の旦那とは別居
――YouTubeチャンネルには旦那様「おまんじゅう君(愛称)」も登場されていますが、出会いのきっかけは?
やぎちゃん:
社会人の登山サークルに参加して秩父の両神山に登ったときがあったのですが、そこにおまんじゅう君も参加していたんです。それと、私が当時在籍していた食品メーカーの工場に導入されていた機械が、おまんじゅう君の会社で作っているものだった、という偶然も重なって仲良くなったんです。
――動画を観て知ったのですが、長野に転勤した時は新婚の時期だったそうですね。旦那と離れての単身赴任だったわけですが、周囲の反応はいかがでしたか?
やぎちゃん:
うちの親は「好きに生きていけばいい」という感じですし、彼のご両親も基本的には応援してくれるのですが、「夫婦は一緒にいた方がいいんじゃない?」みたいなことも言われました。確かにそうですよね。長野に移住したいというのは以前から事あるごとに口にしていたのですが、「そんな現実離れしたことを言わないでよ」みたいな反応もされましたし……。
でも、長野に移住したいという思いは止まらず、準備は着々と進めていきましたね。おまんじゅう君に対して、「私は長野へ行くけど、君はついてくるのかい?それとも残るのかい?自分で決めたまえ」みたいなことを言ったら、「俺はすぐに行けないから東京に残るよ」と。それで、長野と東京で別居することなったんです。
「結婚式が現地集合」はさすがに…
――お二人の間では悲観視するようなことはなかった?
やぎちゃん:
「私は行きたいから行く。彼は残りたいから残る。お互いに好きなことができていいね」みたいな感じでした。あと、長野は二人で何度も行っていた思い出のある場所でしたし、私が移住することで長野が拠点になるわけで、彼はそのことを喜んでくれていたり。ただ、「結婚式が現地集合なのはどうなの?」とは言っていました(笑)。
「こういう生き方」もあると伝えたかった
――視聴者さんからの反応はいかがでしたか?
やぎちゃん:
「頑張れ」といった励ましの声が多かったのですが、中には「一緒にいるべきだよ」という意見もありました。印象的だったのは若い奥様の方々からの「勇気づけられました」という声です。結婚すると女性は「家にいなきゃいけない」とか「やりたいことをあきらめなきゃいけない」といった風潮って多少残っているじゃないですか。私自身そういうのが嫌だったんです。
なので、あえて動画を投稿することで「こういう生き方もあります」と伝えられたらいいなと。それが正解になる時代が来るんじゃないか、私は私なりの方法で大切にしたい人を大切にします、といったことを自信を持って発信していました。
――ちなみに、最初の動画の投稿(2020年2月)は時期的にコロナ禍の直前。以降コロナ禍になって、自宅で動画を観る人が増えた時期でもあったと思います。反響はどうでしたか?
やぎちゃん:
コロナ禍の時は全然伸びなかったんです。YouTubeチャンネルを始めて以降2年くらいは東京に住んでいたのですが、当時はチャンネル登録者が3万人くらいしかいませんでした。コツコツ動画を投稿し続けていたのに伸びないので、ちょっと捻りが足らないのかなと考えていました。そこで思い浮かんだのが長野への移住だったんです。
登録者数が10万人を超え、影響力を感じるように
――チャンネル登録者は徐々に増えていった?
やぎちゃん:
長野に移住したあたりから増えていきましたね。3万人から10万人にたどり着くまでの2年間は、自分のチャンネルでどんな内容の動画が登録者の増加につながっているか、どんな動画が視聴率が高いのかを調べたり、YouTubeのアルゴリズムとかもかなり調べて試行錯誤していました。最初の2年は手探りの段階でしたしくすぶっていましたが、次の2年で「伸ばすぞ」って決めて頑張って伸ばして……10万人を超えてからは、「10万人の目標まで頑張ったから、今年は好きなように登山の動画をたくさんあげちゃお」という感じでやっています(笑)
――10万人以上のチャンネル登録者がいると、ご自身の影響力を感じる場面も多いのでは?
やぎちゃん:
そうですね。山に登っている時に「YouTubeを観ていますよ!」「応援しています!」と声をかけていただいたり、私に会えたことに喜んでいただけたりすると嬉しいですね。それと、長野のいろいろな企業の方々にお世話になっているのですが、私が動画を作ったり何かを監修するとなった際に、「やぎちゃんが手掛けてくれるなんて嬉しい」と喜んでいただけたりもして。そういう時に影響力を感じますね。
やはり、今はいかにフォロワーが多いかが評価の基準だったりもしますし、数が多ければ多いほど喜んでいただけますから。
ローカル番組にも出演し、話しかけられることも増えた
――長野で放送されているテレビ番組『ずくだせテレビ』(SBC信越放送)に、コメンテーターとして出演されていたりもしますね。
やぎちゃん:
(2023年5月から)隔週で出演させていただいているのですが、私がおすすめする山を紹介するコーナー(やぎちゃんの推し山コーナー)もあるんです。ワイドショーでお昼に放送されていることもあって、「お昼見ているわよ~」みたいな感じでその辺を歩いている時に声をかけられたりもします(笑)。
――動画は300本近く投稿されていますし、これまでにいろいろな山に登られていると思いますが、一番印象的だったのは?
やぎちゃん:
YouTubeチャンネルを始めたばかりの頃でしたし、再生数も少なくて動画のクオリティという観点でみるとあまりいいとは言えませんが、南伊豆でのロングトレイルが印象に残っています。登山女子2人での旅でしたが、偶然出会ったおばあちゃんの家に泊めていただいたり、すごく楽しかった思い出があります。
それと、飛驒山脈北部の立山連峰にある剱岳(つるぎだけ)を登ったことも印象に残っています。険しい岩峰が連なっていて、日本でも登るのが難しい屈指の山と言われているのですが、偶然出会ったおじちゃん達と協力し合いながら登頂できたんです。剱岳のすぐ近くにある剱沢キャンプ場で出会ったのですが、すぐに打ち解けて一緒に登ろうとなって。動画は台本無しで撮影していますし予期せぬ出来事だったのですが、今も心に残っているシーンです。
今後も長野を拠点として山の楽しみ方を伝えていきたいですし、好きなことをあきらめない生き方を見せていきたいです。
<取材・文/浜田哲男>
【浜田哲男】
千葉県出身。専修大学を卒業後、広告業界を経て起業。「ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)」の取材をはじめ、複数のスポーツ・エンタメ・ニュース系メディアで連載企画・編集・取材・執筆に携わる。X(旧Twitter):@buhinton
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