賞レースを席巻する『ブルータリスト』エイドリアン・ブロディに単独インタビュー。「『戦場のピアニスト』での経験が本作に活かされた」

『ブルータリスト』主演、エイドリアン・ブロディに単独インタビュー/[c] DOYLESTOWN DESIGNS LIMITED 2024. ALL RIGHTS RESERVED.[c] Universal Pictures

賞レースを席巻する『ブルータリスト』エイドリアン・ブロディに単独インタビュー。「『戦場のピアニスト』での経験が本作に活かされた」

2月24日(月) 4:30

今年のアカデミー賞で10部門ノミネート。作品賞でも最有力のひとつとされる『ブルータリスト』(公開中)は、第二次世界大戦のホロコーストを逃れ、ハンガリーからアメリカへわたったユダヤ系の建築家、ラースロー・トートの物語。いとこを頼ってペンシルベニアに向かったラースローは、ある富豪との出会いをきっかけに、一大プロジェクトを任される。“ブルータリズム”という建築様式で、価値観の異なるアメリカ人を相手に斬新なデザインを提案するラースロー。一方で彼は、ヨーロッパに足止めされたままの妻と姪を、なんとかアメリカに呼び寄せようとする…。
【写真を見る】『戦場のピアニスト』以来、2つ目のオスカー獲得なるか?『ブルータリスト』エイドリアン・ブロディに単独インタビュー

30年におよぶ激動の運命で、ラースローを演じたのはエイドリアン・ブロディ。やはりホロコーストを生き延びる役の『戦場のピアニスト』(02)でアカデミー賞主演男優賞を史上最年少で受賞した彼が、22年の時を経て、再び俳優人生のハイライトというべき役に巡り合った。今回も主演男優賞にノミネートされたアカデミー賞授賞式を前に、『ブルータリスト』にかけた思いなどを単独インタビューで聞いた。「東京から(from Tokyo)のインタビューです」と伝えると、「僕はニューヨーク出身(from New York)のエイドリアンです」と、お茶目な答えが返ってくる。

■「俳優にとってこの役はすばらしい“旅”になると確信できた」
 エイドリアン・ブロディが演じるのは、ホロコーストを生き延びアメリカへわたった、ハンガリー系ユダヤ人建築家のラースロー・トート


上映時間が215分という壮大な作品ながら、インディペンデントなので製作費は1000万ドルという低予算の『ブルータリスト』。チャレンジングな企画にもかかわらず、ブロディが出演を決めたのは、脚本だったという。「初めて脚本を読んだのは、いまから5年くらい前です。心の底から感動しました。ラースローのキャラクターは複雑でありながら共感できる部分を発見でき、俳優にとってこの役はすばらしい“旅”になると確信できたんです。この仕事を続けていてわかるのですが、こうした複雑で意味深い作品に出会うチャンスは、じつに稀なケース。そのうえで傑作になる可能性も信じたので、是が非でも出演したいと思いました」。

 ラースローはアメリカで実業家のハリソンと出会い、礼拝堂の設計と建築を依頼される

「傑作になる」という確信はどこから生まれたのだろうか。そんな質問を投げかけると、ブロディは丁寧に言葉を選んで、次のように答える。「このような人生を送っていると、常に過剰な期待をかけられますが、僕はそうした期待に対して慎重になる傾向があります。そこで心がけるのは、常になにか意味のある作品を残そうとする努力。自分に託された役割を果たし、ほかのみんなも同様の姿勢を持つことで、完全な一体感が生まれる。その願いが叶った時に、傑作が誕生するのではないでしょうか。そして実際に『ブルータリスト』ではブラディが、成し遂げられると期待していたこと以上の成果を収め、とても美しく、かつユニークな作品を仕上げてくれました。そのことに僕は心から感銘を受け、彼の作品の一部になれたことに満足しているのです」

第81回ヴェネチア国際映画祭で銀獅子賞(最優秀監督賞)を受賞した、ブラディ・コーベット監督

「ブラディ」とは、監督のブラディ・コーベットのこと。ブロディが語るとおり『ブルータリスト』は監督の手腕が高く評価され、ヴェネチア国際映画祭の銀獅子賞(監督賞)に輝いた。コーベットは『シークレット・オブ・モンスター』(15)、『ポップスター』(18)に続き、本作が長編監督3本目。子役時代から俳優として活躍し、監督に転身して世界的巨匠の地位についたことになる。ブロディにとって、どんな監督だったのだろうか。「僕はブラディの過去の映画をすべて観ていました。そこで感じたのは、彼の“先見の明”です。常に新しいことにチャレンジする姿勢にリスペクトを感じました。彼の監督作の映像や俳優たちの演技も僕の好みでしたね。そんな過去の作品を経て『ブルータリスト』で、ブラディは新たな高みに到達したわけです。彼の“センシティビティ=感受性”が本作の核心で、そこに僕は共振しました。この共振が特別な作品を導いたのでしょう。ブラディは俳優経験も長いので、僕らにとても協力的。役に入り込めるスペースを十分に与えてもらった印象です。彼との仕事はすばらしい体験でしたね」。

■「僕にとって、ラースローの30年を演じ切るのは挑戦でした」
 【写真を見る】『戦場のピアニスト』以来、2つ目のオスカー獲得なるか?『ブルータリスト』エイドリアン・ブロディに単独インタビュー


『ブルータリスト』でブロディは、主人公ラースローの30年にもおよぶ人生を体現する。ここで彼が使った言葉が「Arc(アーク=弧)」だ。「僕にとっても30年を演じ切るのは挑戦でした。でも役を選ぶ時に、挑戦は重要なポイントで、要求されるものが大きいほうが自分の成長を実感できて楽しいんですよ。今回はこれまでにないほど長いアークを生きるチャンスであり、ラースローの人生の旅、その連続性を意識しました。彼がどのように年齢を重ね、進化するのか。それぞれの時点の特有の感情やセンス、身体性があるわけで、その変化を探究する醍醐味がありましたね」。

文化やルールも異なるアメリカでの設計作業に、多くの困難が立ちはだかる

ラースローの建築への野心、つまり仕事への情熱も本作の肝になっているので、そこにブロディの俳優としての野心が重なったのかを聞いてみる。すると彼は「その質問は予想外」という表情で少し考え、ゆっくりと自身の思いを吐露した。「たしかに僕の俳優としての野望は、ラースローのそれにオーバーラップしました。彼の野心に間違いなく共感しています。彼の創造性には深い部分で憧れますし、粘り強さも僕が常にリスペクトするもの。これらは(ラースローや僕のような)情熱を持つ人間の共通項でしょう。そうした要素があるから、芸術家の運命がおもしろくならないはずはないのです」。

 ラースロ―の妻エルジェーベトを演じたのはフェリシティ・ジョーンズ

『ブルータリスト』のブロディを観た多くの人が、ホロコーストを生き抜いた『戦場のピアニスト』のシュピルマン役を思い出すはず。彼はこの2つの作品の関係をどう捉えているのだろう。「『戦場のピアニスト』は僕の創作人生において、ひとつの“柱”になりました。600万人もの失われた命を背負い、ナチス占領下の人々の苦難や喪失感を表現するのは、当時若かった僕には重責でした。その状況を唯一無二の役として成立させるため、かなり没頭したわけです。あれから多くの役を演じ、キャリアを積んできても、『戦場のピアニスト』での記憶は、昨日のことのように僕の心に甦ります。あの経験が、若かった僕の視点とその後の前進を形成しました。それは演技だけではなく、人生の儚さを愛おしむこと、善良な心を保ち続けること、世界にはびこる残虐な行為の犠牲になる人への思いなどを“忘れずに生きていこう”という僕の原点にもなりました。その思いこそ、『ブルータリスト』で役立ったこと。ラースローが祖国に何を残し、どんな希望を持ってアメリカへ来たのか。そしてユダヤ系移民として何に直面し、周囲からの敵意と不寛容をどう受け止めたのか。これらを理解することができたのです」。

実業家ハリソンを演じたのはガイ・ピアース

その『戦場のピアニスト』以来、ブロディは『ブルータリスト』で2つ目のオスカーを獲得するかもしれない。そこに話を向けると、彼からは控えめなコメントが返ってきた。「正直に言って、僕はこの映画に対する賞賛や愛、そして自分が参加できたことにシンプルに感動しています。そして、それ(アカデミー賞)の結果は、なるようにしかならないわけで、謙虚な気持ちでいます。僕にとっての達成感は、本作を世界と共有できたこと。そこがゴールであり…ただもちろん、こうした(賞に関わる)会話に自分の名が出てくることにエキサイトしますけどね(笑)」。

俳優、エイドリアン・ブロディにとって重要なのは、身も心も本気で捧げた作品が、多くの人に届くことで、2つ目のオスカーはあくまでも“ご褒美”に過ぎない。この真摯な姿勢を貫くことで、数年後、また最高の作品と巡り合い、自身を進化させるチャレンジをこなせることを、彼は知っているのだろう。

取材・文/斉藤博昭


【関連記事】
『戦場のピアニスト』以来のオスカー受賞なるか?『キング・コング』『ダージリン急行』から『ブルータリスト』に至るエイドリアン・ブロディの独自の歩み
アートとしての映画に陶酔させる超大作『ブルータリスト』など週末観るならこの3本!
ホロコーストを生き延びた建築家の光と影の30年…『ブルータリスト』本予告、本ポスタービジュアルが解禁
第97回アカデミー賞10部門ノミネート!『ブルータリスト』先行&IMAX上映決定
ビル・マーレイにオーウェン・ウィルソン、ティルダ・スウィントン…ウェス・アンダーソン組の常連俳優まとめ
MOVIE WALKER PRESS

エンタメ 新着ニュース

エンタメ アクセスランキング

急上昇ランキング

注目トピックス

Ameba News

注目の芸能人ブログ