昨今SNSで「#ドカ食い気絶部」のハッシュタグが流行中。いわゆる暴飲暴食とは違い、食後に急激な眠気を得ることを目的としてドカ食いをする行為だ。「気持ちよく寝るために食いまくる」という女性たちが抱える“心の闇”とは……?
就活でドカ食いループに突入
都内のOL・鹿島結さん(仮名・26歳)もドカ食い気絶にハマっていた一人だ。
「両親から『どんなにつらいときでも3食しっかり食べなさい』と育てられ、ややポチャ体形のまま大学進学で上京しました。でも、そこでできた同世代の友達はみんな細身で。体形を比較して、自己嫌悪に悩まされてたんです」
ダイエットを試みたものの、学業やバイトが忙しくなったことで挫折。やばいと思いつつも親の教えが頭をよぎったといい、「ストレスがたまるたびに3食しっかり食べてしまった」と語る。
不採用に思い詰め…「酒と下剤も乱用しました」
「特に過食が悪化したのは就活期。スタイルのいい子はバンバン通過するのに、私はまったくダメで。『見た目のせいもあるんだろうな……』とふさぎ込んでしまった。不採用の連絡がくるたびに、コンビニで焼き肉弁当やチョコチップメロンパン、冷凍食品などを買い込み、甘いチューハイで流し込んでいました」
そのとき同時に始めたのが、下剤の大量服用だ。
「過食したらすぐ、10錠ほどを酒で流し込んでいました。30分ほどで腹痛が走るので、トイレで吐いたり、下から出したり。脳内は満腹感と痛みと気持ち悪さで麻痺していて、最後は疲れ果てて気絶するように眠っていました」
下剤の効果はあったようで、結果的に9㎏の減量。「社会人になった今は過食は落ち着いた」と語るが、その代わりやけ酒でストレスを解消するようになったそうだ。
ドカ食いはなぜ中毒化する? メンタル&体に及ぼす危険性
暴食を続ける彼女たちはどのような健康リスクに晒されているのだろうか。精神科医の益田裕介氏は「ドカ食い気絶は神経性過食症という、摂食障害という病気の一種」と警鐘を鳴らす。
「摂食障害は依存症と似ていて、暴食をコントロールできなくなったら危険。週に1回から3回、その行為が1年近く続くなら完全な病気です」
ストレスのはけ口や、依存の対象がアルコールや薬ならおのずとその危険性に気がつきそうだが、食事は違う。
「お酒や薬物に比べ、一見すると暴食は“ヤバさ”が伝わりにくい。ただ、ストレスが溜まるから暴食に走り、すると今度は血糖値が乱高下して頭が真っ白になる。そして、『暴食をするとリラックスできる』『嫌なことを忘れられる』と繰り返す。この『苦しみから一時的にでも解放してくれた』という事実が脳に刷り込まれると、どんどんやめられない状態に。薬の過剰摂取と変わらない状態です」
暴食依存者が求める“気絶状態”の危うさ
心の穴を埋めるために、食べ続ける彼女たち。繰り返すことで、体に相当なダメージが蓄積する。糖尿病の専門医の矢野宏行氏に話を聞いた。
「大量の糖質を摂取すると血糖値が急上昇し、下げるためにインスリンが過剰に分泌されます。糖質や脂質を多く取ると満腹感や幸福感を伝える神経伝達成分のセロトニンが活性化する。つかの間、幸せな気持ちになり、その後血糖値が急激に下がるため、眠気や倦怠感を引き起こす。これが“気絶”の正体です」
ドカ食いは、年齢問わず確実に体を蝕むという。
「彼女たちが“気絶”と言っているのは、医学的には反応性低血糖という状態。糖尿病を発症する危険性のほか、体へのダメージが蓄積すると、腎臓の上にある副腎が疲れてしまう。すると、朝起きたいのに起きられない、体がだるく、疲れが抜けないなどの症状が出てきます」
副腎疲労の症状は、自覚するのはかなり難しい。
「さらに血糖値が下がると、体は本能的に脳を守ろうとして、ほかの活動をやめたがる。やる気が出ない、動きたくなくなり、精神状態や感情が不安定になって“うつ病”に似た症状も出る。衝動的な行動をとったり、表情が険しくなったりすることもあります。最近では20代の若い糖尿病の患者さんも多く、同時に精神科に通っているという人も少なくありません」
ドカ食い気絶には、精神と体両方からのSOSが隠されているようだ。
【精神科医・益田裕介氏】
心の病気を解説するYouTubeチャンネルを運営しており、登録者60万人超え。著書に『心の病はこうして治る』(扶桑社)ほか多数
【糖尿病専門医・矢野宏行氏】
やのメディカルクリニック勝どき院長。著書に『ミスター血糖値が教える7日間でひとりでに血糖値が下がるすごい方法』(アスコム)ほか多数
取材・文/週刊SPA!編集部
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