実話に基づく夫婦の絆を描く映画『35年目のラブレター』が、3月7日(金)に公開となる。家庭環境から十分な教育を受けられず、読み書きができないまま大人になった西畑保と、そんな保を長年支え続けた妻・皎子(きょうこ)。定年退職を機に、保はどんな時も寄り添ってくれた皎子へ感謝のラブレターを書くことを目標に、夜間中学に通い始める。担任や同級生、子どもたちに見守られながらひたむきに努力を続ける保だが、満足のいく成果を得られないまま月日は流れ、夫妻は結婚35年目を迎える。ようやくラブレターも形になろうとしていたのだが、皎子が病魔に襲われてしまう。
【写真を見る】漫才のような掛け合いも?撮影中抜群のコンビネーションを見せた重岡大毅&上白石萌音
『ぼくたちと駐在さんの700日戦争』(08)、『今日も嫌がらせ弁当』(19)の塚本連平監督が、この実話に感銘を受け映画化を決意。現代の西畑夫妻を笑福亭鶴瓶と原田知世が、若かりしころの夫妻を重岡大毅と上白石萌音が好演し、人を想うことの尊さや、一途な愛の美しさが心に染みる感動作を生みだした。
歴史と情緒の香りが漂い、人情味あふれる人々が暮らす奈良が舞台であることも本作に深みを与えているが、MOVIE WALKER PRESSは昨年3月、初めて4人のメインキャストが集った奈良の撮影現場へ潜入する機会に恵まれた。作品同様、温かさに包みこまれた『35年目のラブレター』チームの現場の様子をレポートする。
■“それぞれの西畑夫妻”が醸しだす魅力を堪能!
この日撮影されたのは、一緒に分け合っていたたこ焼きの半分以上を保が食べてしまったと気づき、皎子が「食べ物の恨みは怖いで!」と怒りながらその場を去ってしまう…ほほえましい夫妻の日常シーンだ。劇中、同じシチュエーションが現代と過去の両方で描かれるため、本来であれば同じ場に居合わせることのない、“異なる時代の西畑夫妻”が集結する特別な日となった。
ロケ地・荒池園地は、荒池と木々に囲まれた自然豊かな公園で、園内では「これぞ奈良!」と思わずにはいられない、天然記念物の鹿たちがのんびり過ごしていた。春の気配を感じる日差しに照らされた絶好の撮影日和だったが、前日には雪もちらついていたそう。現場スタッフによると「原田さんがすごい晴れ女なんですよ」とのこと。そんな原田と鶴瓶は現場に入ると、興福寺の五重塔を臨めるベンチに並んで腰かけ、景色を指さしながら会話を弾ませていた。撮影スタッフは鹿たちがカメラの画角内に映りこむよう、鹿せんべいで巧みに誘導していくのだが、待機時間の合間に鶴瓶も鹿せんべいあげにトライ。そのそばに原田がそっと寄り添う場面もあり、2人の間に流れる雰囲気は長い時間を過ごしてきた夫婦そのもの。
いざ、たこ焼きを食べるシーンでは、たこ焼きにまつわるアクシデントがしばしば。最初のテイクで原田がたこ焼きを勢いよく頬張るも、口いっぱいに入れすぎセリフを言えなくなってしまい、鶴瓶も思わず笑ってしまうなど、現場はほっこりした空気に。またフードコーディネーターが現場で都度手作りしていたため、“たこ焼き待ち”の時間もあったが、「たこ焼きどこや~!」と鶴瓶が茶目っ気たっぷりに催促し、現場を和ませる場面もあった。
現代パートに続いて行われた、重岡、上白石による過去パートの撮影では、よく通る声で挨拶をしながら現場に入った重岡が、テスト撮影から持ち前の元気のよさを発揮。怒って立ち去ってしまう皎子に、保が「えー!?」と声を上げるのだが、その声量のすごさに鹿も顔を上げるほど。またたこ焼き待ちの際には「たこ焼きないやん!」と、同じ保を演じる鶴瓶とシンクロするリアクションを披露していた。
また、穏やかな夫婦像を体現していた鶴瓶と原田に対し、重岡と上白石はアップテンポな会話によるコンビネーションが光っていた。セッティング中、たこ焼き串を持ったままの上白石に「必殺仕事人の持ち方してるやん」と重岡がつっこんだり、ガスコンロが用意されたたこ焼き作りの現場を2人そろって見学しに行き、「ソロキャンプみたい!」とはしゃいだり。カメラが回っていないところでも、それぞれの“夫妻”が醸しだす空気感には魅力があり、その様は間違いなく作品にも反映されている。
■関西ネイティブも絶賛?原田&上白石の関西弁
同じ夫婦の異なる時代を演じた4人は、互いにどんな印象を受けたのだろうか。重岡と上白石は、撮影開始前、先にクランクインをした鶴瓶と原田の現場を見学する機会があったそうだ。「お2人の姿を想像しながら、そこに向かっていけるようにイメージできたので…今日お2人にお会いできて、『本物だ!』っていう感じです(笑)」という上白石に「そうそう、わかる!『本物だ』と思ってます」と同調した重岡だが、役作りのうえで一番に意識したのは鶴瓶に寄せすぎるのではなく、“西畑夫妻”を演じること。「西畑夫妻との共通項というか、あったかい感じを出すっていうのを自分たちなりに考えました。でもやっぱり鶴瓶さんも意識はしましたね。鶴瓶さんの喋っている感じが頭の中にポンっと出てきちゃって(笑)」という重岡に、上白石がすかさず「撮影のなかで、にやって笑った時の顔がすごく『うわ、いまの鶴瓶さんだ!』って思った時がありました。重岡さんらしさがありつつ、鶴瓶さんを彷彿とさせる瞬間が何度かあって。どきっとしたことが何回もありました」と重岡の表現力をたたえた。
抜群のコミュニケーションで若き西畑夫妻像を完成させた2人の演技を早く観たいと、鶴瓶も期待を寄せる。「不思議ですよね。俺の若い時が重岡でしょう。こう(自分を示して)なるのかっていうね。だからどう演じてるのか、まだ見てないから楽しみですよ」。原田も「劇中のお2人の写真が本当に素敵で。いい雰囲気だと一瞬でわかったので、私もすごく楽しみです」とほほ笑む。
奈良が舞台の本作ということで、方言には苦労したという原田と上白石。実際、撮影中にはどちらも熱心に関西弁ネイティブである鶴瓶、重岡に発音を確認している場面が印象深かった。専門の方言監修者のほか、関西出身者のスタッフが多い現場だったため、周囲からもサポートを受けたそう。「先生がいっぱいいて、いろいろな言葉を教えてもらいました」と語る上白石。原田も、「みなさん助け船を、あっちこっちから出してくださって」と感謝の気持ちを明かす。「もちろん鶴瓶さんには何度も何度も、本番ギリギリまで『この発音でいいですか?』って繰り返し確認してしまいました。すごく心強かったです」とにっこり。
そんな2人を大阪出身の鶴瓶、兵庫出身の重岡が絶賛する。「2人とも歌うから耳がいいのか知らんけど、とてもうまいんですよ」と言いながら、「可愛いで、関西弁でしゃべりはると」と妻・原田の注目ポイントをしっかりアピールした鶴瓶。「萌音ちゃんもね、とても上手です。関西弁に憧れがあるそうで、ずっと聞かれます。『これ関西弁でなんていうの』と。いつ使うねんという関西弁とか(笑)」とエピソードを明かした重岡に、鶴瓶が「例えば?」と聞くと、「『“池に突き落とすよ”って関西弁でなんて言うの?』と。いつ使うの?(笑)」という回答に一同大笑い。一方で、関西地方でも地域や年代によって関西弁のイントネーションが異なるそうで、鶴瓶には関西出身者だからこその悩みもあった様子。「俺がもう関西弁わからなくなっていくねん、本当に。タイムキーパーの人にもイントネーションが違うって怒られた(笑)」。
■メインキャストたちが感じた『35年目のラブレター』という物語のぬくもり
撮影やキャストたちへのインタビュー中、その様子をにこやかに見守っていた男性がいた。その人こそ、本作のモデルである西畑保さんご本人だった。家族と共に現場を訪れていた保さんは、まるで久しぶりに会った親戚のようにキャストたちと打ち解け、会話や記念撮影を楽しんでいた。東京で行われたスタジオ撮影にも一人で見学にやってきたというほど、バイタリティに満ちあふれた保さんの“陽の気”が、現場の雰囲気をさらに温かくしているように感じた。
そんな保さんを前に、鶴瓶は改めて本作の見どころを語る。「実際にあったお話を演じて観ていただくという…その方がいまもお元気で。すごい素敵な話です。『35年目のラブレター』というタイトルどおり、ラブレターを書くというシーンがすごくいいので、ぜひ観ていただきたいと思います」。読み書きができない夫の“手”になることを、迷いなく決意する妻を演じた原田は、「心温まるご夫婦の話です。こんなに人のことを信じて、その人の幸せを自分のことのように思える。そういうことってなかなかできないと思います。この役を演じられてすごく幸せでした」と、笑顔で締めくくる。
オファーをもらった時から物語に魅了されたという重岡は、本作のメッセージ性について触れる。「最初に脚本を読ませて頂いた時、絶対に(この役を)やりたいと思いました。すごく温かい、本当に実在した西畑夫婦のお話で、 “何歳になっても、いつからでも遅くはない” “誰だってやろうと思ったらできる”。そんなメッセージを実在のストーリーと共にこのスタッフさん、キャストの皆さんと贈れるというのはすごく楽しみです」。最後に上白石は、改めて言葉の持つ力を感じてほしいと語った。「私も本当にこの作品の一部になれてすごく幸せなでした。文字とか言葉って本当にいとおしいな、あったかいなっていうのをずっと感じていて、そのぬくもりが観てくださる方に届くといいなって思っています」。
人と人との縁の大切さを感じることができる『35年目のラブレター』。あなたも大切な人の顔を思い浮かべながら、この春必見の感動作を映画館で味わってほしい。
取材・文/MOVIE WALKER PRESS編集部
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