第75回ベルリン国際映画祭が2月22日に閉幕し、ノルウェーのダグ・ヨハン・ハウゲルート監督による「Dreams(Sex Love)」に金熊賞が授与された。審査員長のトッド・ヘインズ監督は授賞理由を、「愛に関するメディテーションであり、とても個性的でありながら皮肉な普遍的インパクトがある。知的で鋭い観察力で人間の欲望の原動力を探究し、突然驚くべき覚醒をもたらす」と評価した。
本作はハウゲルート監督の前作「Sex」(24)、「Love」(24)に続く3部作の最後を飾る作品。ティーンエイジャーの少女がフランス語の女性教師に恋をし、その気持ちをノートに綴り始める。監督によれば「読むことと書くことについてのメディテーションでもある」とのこと。ナレーションを駆使したスタイルは、観客にとって聴くこと、観ることのメディテーションとも言える。
審査員グランプリは、ブラジルのガブリエル・マスカロ監督が高齢化社会の老人問題を扱い評価の高かった「The Blue Trail」へ、審査員賞はアルゼンチンのイバン・ファンド監督が、動物と意思の疎通ができる不思議な能力を持った少女を描いたモノクロ映画「The Message」へと、ともに南米組にわたった。
主演俳優賞は、A24制作、メアリー・ブロンスタイン監督の「If I Had Legs I’d Kick you」で精神的に追い詰められた母親に扮したローズ・バーンにわたり、助演俳優賞はリチャード・リンクレイター監督の「Blue Moon」で少ない出番ながらも印象的な演技を見せたアンドリュー・スコットに与えられた。もっとも、本作では全編出ずっぱりのイーサン・ホークの演技が際立っており、主演俳優の呼び声も高かっただけに、予想外の結果と言えなくもない。またジェシカ・チャステインが愛憎入り混じった圧巻の演技を見せるミシェル・フランコ監督の「Dreams」が無冠に終わったのも意外だった。
ルシール・アザリロビック監督とマリオン・コティヤールが組んだダーク・ファンタジー「The Ice Tower」は、映像美と全体的な芸術的完成度から芸術貢献賞を受賞。監督賞はこちらも評価の高かった、フオ・メン監督の中国映画「Living the Land」へ、脚本賞はラドゥ・ジューデの「Kontinental '25」へ授与された。ジューデは授賞式でもっとも政治的なスピーチを展開。「EUの『ナンセンスな連帯』が減り、ハーグが『残忍なくそったれ』に対してきちんと役目を果たしてくれますように」と語ったあと、授賞式翌日にドイツで総選挙が控えていることに掛けて、「来年のベルリンはレニ・リーフェンシュタールの『意思の勝利」(1934)と共に開幕するなんてことにならないことを望みます」と、ドイツ国内で極右政党が台頭していることへの皮肉を込めた大胆な発言で締め括った。
イスラエルとパレスチナの監督が共同で監督した「ノー・アザー・ランド故郷は他にない」の受賞スピーチが炎上した昨年に比べると、新ディレクターに変わった今年は慎重でおとなしめだったと言える。もっとも、作品的なクオリティという面では、いまひとつという声が多く聞かれた。傑出した作品がなく、悪くはないが小粒、中にはなぜこれがコンペティション?と思える作品も含まれ、セレクションにおける難しさを感じさせた。(佐藤久理子)
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ノー・アザー・ランド故郷は他にない
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(C)Dirk Michael Deckbar Berlinale 2025