2月21日(金) 8:00
1994年『漫画ゴラク』にて連載を開始し、最新56巻が絶賛発売中!累計発行部数800万部を記録するラズウェル細木の長寿グルメマンガ『酒のほそ道』。主人公のとある企業の営業担当サラリーマン・岩間宗達が何よりも楽しみにしている仕事帰りのひとり酒や仕事仲間との一杯。連載30周年を記念し、『酒のほそ道』全巻から名言・名場面を、若手飲酒シーンのツートップ、パリッコとスズキナオが選んで解説する。酒についての医学的な見地がどうであっても……。たとえ二日酔いの苦しみが待っていても……。
「こちとらこの瞬間のために命かけてんだっ 誰にも文句は言わさ~ん!」
「酒は百薬の長」と言われていた時代は遠くなり、最近では、「結局のところ、飲酒は少量であっても健康を害する」というような研究結果が出たと聞いた。まあ、たぶんそうなのだろう。
ましてや、1杯目をできるだけ美味しく味わうために水分を摂取しないようにする……という行為など、医学的な見地からすれば愚か過ぎる行為であろう。しかし、そうやって我慢したあとに飲む酒は、生きる喜びに溢れるようにうまいのだ。
このエピソードでは、休日の宗達が極上のビールを味わうためにあくせくと頑張っている。ランニングをして、銭湯に入って喉を乾かし、餃子をテイクアウトして、缶ビールを氷水に漬けてキンキンに冷やしたりしている。そして、その行為の一つひとつに(おそらく架空の)専門家たちが、「入浴後は血液がドロドロになっていますのですみやかに水分補給が必要です」といったように的確なコメントを挟みつつ、ストーリーが進んでいく。
「ビールを美味しく飲むためには適温があります」「おつまみといえども栄養のバランスは考えたいものです」などといった数々の専門家の発言を、しかし宗達は「うるさ~~いっ!!」の一言で振り払う。そして「こちとらこの瞬間のために命かけてんだっ」と、至福の表情で自分なりの一杯を心ゆくまで堪能するのだ。
「な な なんだ この焼酎の量は…? これじゃウーロン茶の入る余地がぜんぜんないじゃないかーっ」
“濃い酒”をついついありがたがってしまうところが、酒好きにはある。もちろん、チューハイのグラスにどれだけ氷を入れるか、また、チューハイそのもののアルコール度数をどう設定するかはお店の采配による。
飲み物のオーダーが多く入るほどに客単価は上がり、そうやって地道に積み上げられた売り上げによってお店が運営されていくのだから、酒が濃いとか薄いとか、量が多いとか少ないとかは、客が思っている以上にお店にとっては重要な問題だろう。
しかし、それを踏まえたうえでも、やはり、薄い酒はちょっと寂しくて、濃い酒はなんだか嬉しいのだ。ホッピーやウーロンハイのように、焼酎を割り材で割って飲むようなスタイルのドリンクでは、焼酎の量が酒の濃さに直結する。ごくたまに、グラスになみなみと焼酎が注がれていて、割り材を加える余地がないほどの一杯に出会うことがある。
「多けりゃいいってもんじゃないぞーっ」「ったく困ったもんだっ」と、このエピソードにおける宗達のように、困りながらもニヤけてしまった経験が、多くの酒飲みにはあるのではないだろうか。嬉しいほどに濃い酒を飲んだ先には、記憶の薄い時間や二日酔いの苦しみが待っているというのに、やはりどうしてもニヤニヤしてしまうのだ。
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次回「小さなシアワセの見つけかた『酒のほそ道』の名言」(漫画:ラズウェル細木/選・文:パリッコ)は2月28日みんな大好き金曜日17時公開予定。
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