話題作への出演を重ね、みずみずしい存在感と確かな演技力でメキメキと頭角を現している俳優の木戸大聖。柔らかな笑顔が印象的な彼だが、映画『ゆきてかへらぬ』では、無邪気さと狂気を放ちながら、今もなおファンを生み出し続けている天才詩人・中原中也の生き様を体現。見事に新境地を開いている。「悔しかったり、うまくいかない時期があったからこそ、“当たって砕けろ精神”が身についた」という木戸が、本作で果たした数々のチャレンジや、30代への展望を明かした。
【写真】横顔も素敵!木戸大聖の撮り下ろしカット(全5枚)
■実在した人を演じる覚悟「まずは知ることから始めました」
“文化の百花繚乱(りょうらん)”を極めた大正時代から昭和初期を舞台に、実在した男女3人の壮絶な愛と青春を描く本作。『ツィゴイネルワイゼン』や『セーラー服と機関銃』の田中陽造が40年以上前に書いた幻の脚本を、この脚本に焦がれ続けていた根岸吉太郎監督が16年ぶりにメガホンを取り、映像化した。
2人の男性に愛されるヒロインの泰子(広瀬すず)。泰子を愛しながらも、お互いに友情や尊敬の念を抱いている中也(木戸)と小林(岡田将生)。中也と小林にしか分からない世界に入り込めず、嫉妬する泰子…。本作は、3人の男女による奇妙な三角関係が魅惑的に描かれる。
広瀬すず&岡田将生という実力派俳優が顔をそろえる中、中也という大役を担った木戸。オファーが舞い込んだ時の心情について、「最初はとてもプレッシャーを感じていました」と苦笑いで振り返る。
劇中に登場したのは、狂気や純粋さ、孤独をたたえた眼差しが見る者の心を奪いつつ、大正時代の空気もしっかりとまとった中也だ。木戸は「実在する人物を演じること自体、初めてのこと」だそうで、中也について徹底的に調べることから役作りをスタートさせた。「現代を生きている自分が、大正時代を生きた天才詩人である中也を理解するためには、まず知るところから始めて、距離を縮めていかなければいけないと思っていました。山口県にある中原中也記念館に行って、いろいろな資料を読ませていただきました」。調べていく中で発見したのは、「中也はいい家庭に生まれ、小さい頃から“神童”と呼ばれていて。そういった環境に対する反骨精神から家を飛び出して、それこそが彼が詩を捕まえようとする原動力になっていたのではないか」ということ。「マイナスの感情が詩に活かされていて、中也の詩には、彼の中で生まれた感情が正直に投影されているんだと感じました」と発見したことをキャラクターへと注いだ。
颯爽(さっそう)とローラースケートで走り抜けたり、けん玉をしたり、フランス語を話したりする中也を演じる上では、「練習しなければいけないことがたくさんあった」という。「ローラースケートもゼロの状態から、よちよち歩きの状態から始めました」と目尻を下げながら、「フランス語も多少なりとも勉強した上で、あえて下手に読む必要のあるシーンもあって。いろいろなことに挑戦させていただきました」と語る。
■広瀬すず&岡田将生に「120%の力でぶつかった」
撮影は、ほぼ物語の順番通りに撮影される“順撮り”で行われたという本作。中也について調べ、独特の語り口やローラースケートなどあらゆる特訓を経て臨んだ撮影では、三角関係を表現する共演者の広瀬と岡田に「とにかく、ぶつかっていった」と笑顔を見せる。
木戸は「3人を中心に描かれる映画。大きな三角形の軸として自分がもしブレてしまったとしたら、三角が三角にならなくなってしまう。それはこの映画をダメにしてしまうことになります。この作品では細かい小細工をしたらすぐにバレてしまうし、通らないだろうとも思った」と切り出し、「広瀬さん、岡田さんのお芝居はこれまでもたくさん見させていただいていました。その中で、経験値の少ない僕を中也役に抜てきしていただけた。お2人が100%の力で来るならば、こちらは120%で返して、それでも足りるかな?というくらい。毎シーン全てを出し切って、ぶつかっていくという意気込みで撮影に臨みました」と本作におけるモットーは、“体当たり”だったとのこと。
「広瀬さん、岡田さん、お2人とも撮影の合間はとてもフラットでいてくださって、ものすごく話しやすい方なんです。それでいて本番に入った途端に目の色が変わって、その役が憑依していくようでした。そういった切り替えの速さや瞬発力は怖いほどでもあり、圧倒されましたが、そこで『負けちゃいけない』と思う自分もいました」と彼らの役者力をビシビシと浴びた様子だ。
中也は、衝動や熱情など、激しい感情をあふれさせる場面もある。インタビューで対峙していても穏やかな人柄を感じさせる木戸にとって、新たな表情をたくさん見せる役となった。「これまで演じてきた役は、どこか普段の自分のイメージと近い役をやらせていただくことが多かったように思います。本作では、ここまで感情を外に出すのかと思うような場面もあり、それはやはり大正時代の人ならではのことかもしれません。中也、泰子、小林はぶつかり合うようにして、思っているものを全て外に吐き出していく。僕自身、今まで以上に激しい感情を出した作品になったと思いますし、相当体力も使いました」と新境地に充実感もたっぷり。「1シーン、1シーンに全力で向き合う日々でした」と晴れやかな表情を浮かべる。
■困難な道のりを乗り越えた今後の目標は?
2017年に芸能活動を開始した木戸は、25歳の時に出演したNetflixドラマ『First Love 初恋』で佐藤健の若き日を演じて、鮮烈なインパクトを残した。月9ドラマ『海のはじまり』では目黒蓮演じる主人公の弟役、劇場アニメ『きみの色』では声優に初挑戦するなど、次々と話題作への出演を重ね、若手注目株の筆頭となった。本作の撮影は今から2年ほど前のことだというが、活躍の場を広げているタイミングで映画が公開されることに、「運命だなと思っていて。これまでのイメージとは全く違う役柄で、新しい一面を見せられると思うととてもうれしいです」としみじみ。
現在28歳となった彼がブレイクを果たすまでには、困難な道のりもあったそう。20代で手にした武器について「挫折があるからこそ、今の自分がある」と力強く語った木戸。「10代でお芝居を始めてもなかなかうまくいかず、現場に立つこともできずに『悔しい』『もっとやってやる』と思っていた時期もあります。『セリフがないけれど、頑張ってお芝居を続けてみよう』『いずれあそこに立ちたい』と思ったり…。でもそういった時間があったからこそ、“当たって砕けろ精神”が身についたというか。とにかくぶつかって、壊れて、また再生してということを繰り返していくうちに、無意識に強くなっていった気がします。そのようにして続けてきたことで、本作にも出会えたし、広瀬さん、岡田さんにお芝居でぶつかることもできた」。
子ども番組『おとうさんといっしょ』のレギュラーや、『日立 世界ふしぎ発見!』のミステリーハンターなど役者以外の経験も、「一つ一つ着実にやっていくと、必ず何かに繋がっていくものだなと感じています」と全てが宝物だ。「僕はストレートな役者ロードを歩んできたわけではないですが、いろいろなジャンルのお仕事をさせていただいたからこそ、今の僕がいる。同世代の役者さんがやってきていない経験をさせてもらったことこそ、僕の強みであり、自慢です」と大きな笑顔に。
30代への抱負を聞いてみると、「変わらずに、当たって砕けていくことにビビりたくないなと。経験値が積み重なっていくと、居心地の良い場所ができやすくなるもの。でもそこに落ち着かず、ちゃんと枠をはみ出して、挑戦を続けていきたいなと思っています」と清々しく宣言した彼。温かな笑顔の裏側には、こちらまでワクワクするような情熱を秘めていた。
(取材・文:成田おり枝写真:上野留加)
『ゆきてかへらぬ』は2月21日から全国公開。
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