コーヒーで旅する日本/四国編|“はっきり甘い”フレーバーでコーヒーの醍醐味を発信。進取の気性で拓いた浅煎りオンリーのスタイル。「CORSICA COFFEE DEVELOPMENT」

焙煎後の経時変化への影響を考えて、豆はボトル詰めで販売

コーヒーで旅する日本/四国編|“はっきり甘い”フレーバーでコーヒーの醍醐味を発信。進取の気性で拓いた浅煎りオンリーのスタイル。「CORSICA COFFEE DEVELOPMENT」

2月12日(水) 0:00

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全国的に盛り上がりを見せるコーヒーシーン。飲食店という枠を超え、さまざまなライフスタイルやカルチャーと溶け合っている。瀬戸内海を挟んで、4つの県が独自のカラーを競う四国は、県ごとの喫茶文化にも個性を発揮。気鋭のロースターやバリスタが、各地で新たなコーヒーカルチャーを生み出している。そんな四国で注目のショップを紹介する当連載。店主や店長たちが推す店へと数珠つなぎで回を重ねていく。
【写真を見る】カウンターや照明、ミントグリーンの壁など、元カラオケ喫茶の内装をほぼそのまま残している
焙煎後の経時変化への影響を考えて、豆はボトル詰めで販売


四国編の第21回は、香川県高松市の「CORSICA COFFEE DEVELOPMENT」。幼いころから喫茶店に憧れ、まさに初志貫徹でコーヒーの道を進んできた店主の吉村さんは、2011年の開店以来、2度の移転を挟んで現在にいたるが、その間、コーヒーシーンの波や嗜好の変化を体感し、店のスタイルも時々に変化を重ねてきた。常に研鑽を重ねるなかで、たどり着いた自店のコーヒーの個性、「はっきり甘いと感じられる味わい」を追求。高松でいち早く浅煎りを打ち出しながらも、蘊蓄なしのフラットな提案で、新たなコーヒーとの出会いを演出している。「あくまで日常の飲み物として楽しんでほしい」という吉村さんが目指す、四国コーヒーシーンの新たな変化とは。
店主の吉村さん


Profile|吉村誠(よしむら・まこと)
1981(昭和56)年、香川県高松市生まれ。幼少時からコーヒーや喫茶店に憧れを持ち、専門学校卒業あとから大手コーヒーチェーンなどで経験を積み、2011年に「コルシカ珈琲」として創業。その後、アメリカのサードウェーブとスペシャルティコーヒーに刺激を受け、浅煎りのシングルオリジン主体のスタイルにシフトし、焙煎の競技会へも積極的に参加。2018年に北浜アリーに移り、約1年の営業を経て、2019年に「CORSICA COFFEE DEVELOPMENT」と改称して現在地に移転オープン。JAC Roast Competitionで2019年4位、2021年2位など競技会の入賞も多数。

■子供のころから憧れを抱いた喫茶店の開業
大通りから少し外れたビルにある隠れ家的な店構え

「子供のころに、脱サラして喫茶店を開くということに魅力を感じていました。漫画『タッチ』に出てくる店みたいな(笑)。完全に昭和の発想ですね」という店主の吉村さん。言われてみれば、元カラオケ喫茶の居抜きという店内は、確かに純喫茶の趣があるが、実は高松でいち早く浅煎りに特化したスペシャルティコーヒー専門店だ。とはいえ、創業当初は、喫茶店としてスタートしたという吉村さん。現在のスタイルは、コーヒーシーンの大きな変化の中で、紆余曲折を経た末にたどり着いたものだ。

「昔から、コーヒーは大人の飲みものというイメージで、かっこいいなと思っていました」という吉村さんだが、後々になって、実は祖父がかつて喫茶店に勤めていたことを知ったそうで、家にサイフォンなどの器具がそろっているのを不思議に思っていたとか。三つ子の魂ではないが、喫茶店への憧れは、気づかぬうちに身に染みていたのかもしれない。長じて、学生時代を喫茶店王国・大阪で過ごしたことも刺激となり、開業への思いは膨らんでいった。大手コーヒーチェーンのアルバイトを始めて以来、ずっとコーヒー店の仕事に携わるなかで、「当初から早く自分の店を持ちたいとの思いは強かったですね」と振り返る。
カウンターや照明、ミントグリーンの壁など、元カラオケ喫茶の内装をほぼそのまま残している


吉村さんの地元は、高松の繁華街のど真ん中。勝手知ったる中央商店街のそばで、「コルシカ珈琲」をオープンしたのは2011年のこと。当時は、コーヒーへのこだわりよりも、店のしつらえや入りやすさを重視し、界隈の会社員や商店主が毎日訪れるような場を想定していた。「開店するまでは、単に働きに行っていたという感覚だったので、抽出・焙煎などはあとから独学で始めました」という吉村さん。開店からほどなくして自家焙煎に着手したが、当時は地元の嗜好に合わせた深煎りのコーヒーが主体だった。

そんな、いかにも街の喫茶店といったスタイルを一変させたのが、海の向こうのアメリカで起こったサードウェーブのインパクト。雑誌の特集で紹介されていた現地の動向に初めて触れて、スペシャルティコーヒーの世界に魅了された。さらに同時期の2015年に、東京のGLITCH COFFEE & ROASTERSとの出会いが、その後の吉村さんの方向性を決定的なものにした。「東京のコーヒーフェスで初めて飲んだ時に“何だこれは!?”と驚きました。浅煎りの風味の表現の仕方、感覚がまるきり違ったんです。特にその時に選んだケニアは、当時不勉強だった僕には、生焼けにも見える浅煎りでしたが、飲んだ時の甘いフレーバーにびっくり。すぐに、自分でもこの味を作りたいと思いました」と、一念発起した吉村さん。GLITCH COFFEE & ROASTERSで体感した味を目標に据えて、焙煎を一から見直し、2,3年かけて試行錯誤を重ねていった。
 豆はボトル入りで販売。オリジナルのラベルも目を引く


■競技会を通して確信した自らのコーヒーの個性
「競技会にも数々参加していますが、お店で出すコーヒーのおいしさをすべての基本に置いています」と吉村さん

焙煎の改良に取り組みながら、2018年には港に近い倉庫街の商業施設・北浜アリーに移転し、屋号を「コルシカ珈琲 KITAHAMAロースティングワークス」と改称。それまで使ってきた、手回しの器具やサンプルロースターからステップアップして、念願の大型焙煎機も導入した。さらに、ロースターの競技会やイベント出店にも積極的に参加し、腕試しをするなかで技術を磨いていった。

「なかでも、GLITCH COFFEE & ROASTERS主催の競技会・COFFEE COLLECTIONで入賞できたことで、ここまでのアプローチが間違ってなかったことを確認できたのはうれしかったですね。やがて自分の店でも、“このコーヒー甘いですね”と言われることが増えて、自信につながりました」と吉村さん。以来、自分のストロングポイントとして、「はっきり甘いと感じられる味わい」に振り切ることだと確信。余韻に漂う、クリーンな甘さにフォーカスした焙煎を追求している。
コーヒーの果実本来の甘みと、その風味のルーツを感じる、Fruit&Roots600円は、エチオピア産ナチュラルを使用。とろりとした質感と濃醇な甘味が印象的


当時を振り返って、「香川は保守的な土地柄で、内側から嗜好を変えるのはなかなか難しいと感じていました。ならば、県外で存在感を高めて、逆輸入の形で関心を持ってもらおうと考えたんです」という吉村さん。そのため、機会があれば方々に出向いたが、街中にある店をたびたび休むと困るお客も出てくる。営業スタイルがフィットしなくなったのを感じた吉村さんは、2度目の移転を決断。2019年に店名も「CORSICA COFFEE DEVELOPMENT」と改め、再スタートしたのが現在の店だ。繁華街から離れた目立たないロケーションも、あえて狙ったものだという。

「競技会やイベント出店が多いから、集客を狙ってなかったがゆえの立地。喫茶よりも焙煎所をメインにできる場所を考えていました」と、心機一転を図ったが好事魔多し。折しも移転後にコロナ禍に見舞われ競技会やイベントがことごとく中止になった。全くの想定外だったが、逆に豆の通販のニーズが高まったことで軌道修正を図った。「数少ないお客さんをつなぎとめるために、サブスクによる会員制販売を新たに始めました。月1回の定期便で豆を届ける仕組みで、来店の機会が減ったお客さんの記憶に留めてもらおうと考えたんです」

現在、豆の品ぞろえはシングルオリジンが常時10種ほど。高松でいち早く、浅煎りを打ち出した店として、デイリーから希少な銘柄まで、多彩な個性に触れられるよう幅広く紹介する役割を意識している。そのなかで、独自の工夫を凝らしているのが、豆のプレゼンテーションだ。メニューの表記は産地や農園の名前ではなく、風味を想像させるタイトルとイメージ画をリンクさせて提案する。「お客さんが豆を選ぶ時、スペックの情報を見ても分からないので、だいたいがお店任せになることが多いと感じていて。あくまで最後はお客さんに選んでほしいから、うちでは細かいプロファイルなどは入れないようにしています。フレーバーにしても表記通りに感じるわけではないので、迷われたら、“好きな絵柄で選んでください”と伝えています」。いわゆるレコードのジャケ買い感覚で、直感的に選べるように腐心している。
「これからコーヒー店を始める方たちにとって、ここが一つのモデルケースになればうれしい」と吉村さん


■スペシャルティコーヒーが当たり前にある日常を香川に
 2階はカッピングや抽出教室などのイベント、ワークショップにも使用

蘊蓄度外視でフラットな目線でコーヒーを提案するのは、あくまで日常の飲み物として楽しんでほしいから。「コーヒーを“情報”で飲んでほしくない。コーヒーの好みは浅煎り派、深煎り派など別れがちですが、自分自身は決して他の味を否定するわけではないし、どんなコーヒーでも、まず、飲み物としておいしいというのが前提。目の前の、ありのままコーヒーを味わってもらいたい」との思いがある。おもしろいのは、豆の名称に対して常に同じ豆が対応するわけではないところ。例えば、大地を思わせるどっしりした味わいのTerra Nova、花の芳香を感じるBloomin’など、それぞれのイメージに風味の特徴が合えば、時期によって全く違う豆になるが、その時々の偶然の出会いもまた、この店ならではの楽しみの一つだ。「奥が深いという表現を、できるだけお客さんに言わせないように心がけています。そう感じた時点で無意識に壁を感じているわけで、逆に、気づいたら深いところにいたと感じてもらうのが理想です」
豆のラベルに使う抽象画は、常連客の画家が描いた作品


高松にまだ浅煎りのコーヒーを打ち出す店がなかったころから、「誰もやってないからこそ、自分がやろうと思った」と、新たな試みを続けてきた吉村さん。今では高松で浅煎りと言えば名の上がる存在にまでなったが、このムーブメントを、さらに広げたいと考えている。その取り組みのはじめの一歩となるのが、本連載の前回登場したCOPOLI DOUGHNUTSの魚岸さんと吉村さんを中心に結成した、カガワコーヒーテーブルの活動だ。現在7店が参加して、2024年に第1回のイベントを開催。SCAJの展示会やデパートの催事などにも、このグループで出展している。

「(2025年)5月21日から26日には、KAGAWA COFFEE FES.というイベントの開催が決まっています。いずれは四国全体に盛り上がりを広げたい。全国のロースターが集うような大きなコーヒーイベントは四国ではいまだにないので、先々実現できればうれしい。自分もそういうお祭りは好きなので(笑)。そこで、コーヒーってかっこいいもの、おいしいものと伝えたいですね」

そう話す吉村さんが目指すのは、香川、四国でスペシャルティコーヒーが当たり前にある日常を作ること。その上で、さらに自店の存在感を高めていく。「今までは、誰にも影響を与えるほどの存在ではなかったですが、いずれは、この店のマネをしたいと思われるようになれたらいいなと思っています。元来が目立ちたがりな性格というのもありますが (笑)」と吉村さん。開店から10年を超えてもなお衰えない意気込みは、趣味の将棋を通して見つけたという座右の銘にも現れている。「将棋界のレジェンドの一人、升田幸三名人の“新手一生”という言葉に感銘を受けて。生涯で数々の新戦法を生み出した名人に倣って、コーヒー屋としても同じ気概を持って続けたいと思っています」。
吉川さんが座右の銘とする“新手一生”。店に棋士・升田幸三の揮毫入り扇子も飾っている


■吉村さんレコメンドのコーヒーショップは「LUSH LIFE COFFEE」
次回、紹介するのは、香川県高松市の「LUSH LIFE COFFEE」。「高松ではおそらく初めての、オセアニアスタイルのコーヒースタンドとして注目を集める一軒。店主の川染さんはメルボルンでの修業経験もあり、コーヒーへのこだわりを最大限に表現するエスプレッソの技術、妥協のない仕事ぶりはまさにプロフェッショナル。繁華街から離れた意外な立地にあって、新しいことにチャレンジしているお店として尊敬する存在です」(吉村さん)

【CORSICA COFFEE DEVELOPMENTのコーヒーデータ】
●焙煎機/東京産機 2キロ(半熱風式)
●抽出/ハンドドリップ(カリタウェーブ)、エスプレッソマシン(シモネリ)
●焙煎度合い/浅煎り
●テイクアウト/ あり(500円~)
●豆の販売/シングルオリジン約10種、150グラム1500円~


取材・文/田中慶一
撮影/直江泰治

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