もうひとつ、レトロモービルに合わせて開催されたオークションがある。それが、パリのルーヴル美術館地下に位置する「カルーセル・ドゥ・ルーヴル」で行われたRMサザビーズのクラシックカーオークションだ。

【画像】フェラーリ250LM、フェラーリ512M、ジャガーXJR-10、アストンマーティンDB6シューティングブレーク、ブガッティチェントディエチなど、眼福のモデルがずらり（写真25点）

この会場は、ルーヴル美術館に直結する広大な地下ホールであり、アートフェアやファッションショー、国際的なオークションなどが開催される格式高い空間として知られる。地上に広がるカルーセル広場は、もともと17世紀にルイ14世が騎馬競技（カロウセル）を催したことに由来し、後にナポレオンが「カルーセル凱旋門」を建設したことでその名が歴史に刻まれた。この歴史と文化の中心地で、今年も世界中のコレクターが集い、希少なクラシックカーを巡る静かで熱い戦いが繰り広げられた。

フェラーリ 250 LM、驚異の落札価格
今回最も注目を集めたのは、伝説的なフェラーリ 250 LMだった。このモデルはフェラーリの歴史において特別な存在であり、その希少性と輝かしいレース戦績から、驚異的な価格で落札された。

今回出品された個体は、1965年のル・マン24時間レースでマステン・グレゴリーとヨッヘン・リントが駆り、フェラーリにとって最後の総合優勝をもたらした車両として知られる。フェラーリがル・マンで再び総合優勝を果たしたのは、それから58年後の2023年であり、その歴史的意義が今回の落札価格に反映された。また、この250 LMは、エンツォ・フェラーリ時代（Enzo era）に3度もル・マンに参戦したわずか6台のフェラーリのうちの1台であり、その希少性が価値をさらに押し上げている。

この貴重な250 LMは、オークション前の落札予想価格が2,500万ユーロ（約40億円）と見積もられていたが、最終的には3,488万ユーロ（約55億円）という驚異的な価格で落札された。この結果、250 LMは公開オークション史上6番目に高額で落札された車両となり、またオークションで売却されたフェラーリとしては4番目に高価なモデルとなった。

ヴィンテージカー市場の新たな潮流
2月1日にシュトゥットガルトで行われたRMサザビーズの別オークションでは、メルセデス・ベンツ W196 R ストリームラインワーゲンが5,115万5,000ユーロ（約81億円）という驚異的な価格で落札された。これにより、ヴィンテージカーはもはや単なる「コレクターズアイテム」ではなく、「金融資産」としての側面をより強めていることが明確になった。今回のRMサザビーズによる5日間の総売上は1億2,022万8,275ユーロ（約190億円）に達し、クラシックカー市場が近年ますます活況を呈していることを裏付けている。

クラシックカー市場の未来——投資と文化の交差点
これらの取引は、単なる自動車愛好家の熱意によるものではない。現在、ヴィンテージカーはアートや不動産と並ぶ「オルタナティブ投資（代替投資）」の対象として、世界の富裕層から注目されている。経済の不透明感が増す中、クラシックカーの価値は安定しており、時には驚異的な上昇を見せるため、長期的な資産運用の選択肢としての魅力を増している。さらに、歴史的な背景を持つ名車は、単なる資産価値だけでなく、所有者にとってのステータスシンボルとしての意味合いも強い。

加えて、こうしたオークションの成功は、クラシックカー文化への世界的な関心の高まりを象徴するものでもある。昨今、ル・マン24時間レースやモンテカルロ・ヒストリック・ラリーといったヴィンテージカーが登場するイベントは世界中で注目を集めており、クラシックカーを「動態保存する文化」が広がりつつある。今回のRMサザビーズのオークションが、芸術と歴史の中心地であるルーヴル美術館の「カルーセル・ドゥ・ルーヴル」で開催されたことも、クラシックカーが単なる機械ではなく、文化的・歴史的価値を持つ「走る芸術作品」であることを再認識させる機会となった。

時代を超える名車の価値
2025年のRMサザビーズ・パリオークションは、クラシックカーが今後も世界の文化・経済の両面で大きな影響力を持ち続けることを示した。車を愛する人々、投資家、そして文化を支えるすべての人々にとって、歴史的名車の価値は時代を超えて輝き続ける。


写真・文：櫻井朋成Photography and Words: Tomonari SAKURAI
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