新堂冬樹の同名恋愛小説を映画化し、内田英治監督がメガホンをとった『誰よりもつよく抱きしめて』が公開中だ。主人公は、鎌倉の海沿いの街で共に暮らす絵本作家の水島良城(三山凌輝)と、書店員の桐本月菜(久保史緒里)。2人は学生時代からの恋人で、お互いを大切に想い合っているが、強迫性障害による潔癖症を持つ良城は、月菜に触れることができずにいた。あることをきっかけに治療に向き合うことを決意した良城は、同じ症状を抱える女性、村山千春(穂志もえか)と出会う。悩みを共有できる相手に出会えたことで、距離を縮めていく良城と千春。そんな2人を目の当たりにし、思い悩む月菜の前に、恋人と触れあっても心が動かないという青年イ・ジェホン(ファン・チャンソン)が現れる。
【写真を見る】主演作で「その場で生きること」を貫いた、俳優・三山凌輝を撮りおろし!
MOVIE WALKER PRESSでは、俳優として活躍の場を広げ続ける三山への単独インタビューを実施。複雑なキャラクターを繊細に演じきった三山に“良城として生きる”ために行った役づくり、主題歌の歌詞に込めた想いまで語ってもらった。
■「見る人によって思い入れが偏る感覚があって、内田監督らしい作品」
脚本を読んで最初に感じたことについて、「決定づける展開がないことがおもしろいなと思った」と三山。「どちらかの心だけを映すのではなく、見る人によって思い入れが偏る感覚があって、内田監督らしい作品だなと思いました」と、その魅力を話す。三山が監督から求められたのは、「その場で生きること」。「『(役を)作らないでほしい』ということは何度も言われましたし、僕も、それがお芝居のあるべき姿だと思います。その場にいることの大切さと、そのシーンで生みださなきゃいけない本質こそが大事だと思っていました」と、演じるうえで大切にしたことを明かす。
そうして、インタビューの場で自らの意思を迷いなく言葉にする三山と、彼が本作で演じた良城とでは、声のトーンや話し方、佇まいまで、すべてが異なるように感じる。「その場で生きる」ためにも、良城という人物について、丹念に掘り下げ、解釈を深めたのではないだろうか。聞くと、最初の本読みの時点で、三山と監督の思う“良城像”はマッチしていた部分が多かったそうだ。そのことについて三山は、「自分の試行錯誤の方向性が合っていると思えた」と、独特の表現で振り返った。
「芝居でのわかりやすさで言うと、喋り方は工夫しました。良城は、あまり自信がなさそうな感じ。ハキハキせず、ゆっくりめで、ちょっとしどろもどろになる」と、良城の特徴を話す三山だが、それらは「直観的に出ている部分もあると思う」と分析する。「演技として考えて振舞っている部分もあると思うけど、『良城に寄り添うことによって、自然とそういうふうになっていった』というのが近いかなと思います」。
良城として生きるにあたって、特に探った表現を問うと、間髪入れずに「怒り」という答えが返ってきた。「すごく怒りをぶつけちゃうと、それは良城の怒り方ではなくなっちゃう。怒って、気持ちよくすっきりしちゃダメなんです。『怒っているけど、なんかはっきりしないな、こいつ』って、見ている人もイラっとするくらいが良城っぽいと思いました。本当は、『(声を張って)俺だってさ!』くらい叫びたいけれど、それができない不器用さがある。そういう怒りのバランスは、良城のポイントとして考えました」。
■「すべてを受け入れることが、愛するということだと僕は思います」
終盤には、本作で最も心打たれる雨のシーンがある。ある良城の行動が、月菜への愛を表現していた。それはもちろん、触れることでも抱きしめることでもなく、「愛している」と言葉にすることでもない。しかし、たしかにそこには、月菜への愛があった。果たしてこの作品における「愛」とは、相手になにをしてあげられることなのだろう。三山はきっぱりと「すべてを受け入れること」だと答えた。
「その人のすべてを受け入れる覚悟があるかどうかが、その人の人生を背負えるか、その人を幸せにできるかに繋がってくると思う。人間って、どれだけ相性が合ったとしても、一緒にいることによってずれを感じる部分もあれば、『あれ?なんか違うな』と思う部分もあると思うんです。でも、そう思いながらも『この人のことが好きだな、この人のことを守りたいな』と、“それすらも愛すること”、すべてを受け入れることが、愛するということだと僕は思います」。
その想いは、作中での良城と月菜の姿に重なり、さらに言えば、月菜が良城に抱いている想いにも近いように思う。「(月菜は良城を)受け入れようとすごく頑張っていると思います。だけど、そううまくはいかなくて、ずれが生まれていく。そのもどかしさが作品のテーマであり、人間同士の切ない部分として現れていると思います」。
■「子どものころよりも質の高い目線で、絵本に描かれていることを受け取れるようになった」
本作には、キーアイテムとして絵本が登場する。絵本に紡がれている言葉が、良城と月菜の葛藤に重なり、観る者の心にも大切なことを訴えかけてくる。三山は、ロケ地となった鎌倉の絵本屋で数冊の絵本を購入したといい、その内容に衝撃を受けたと興奮ぎみに語った。「これ、本当に子どもが読むの?というくらい、考えさせられるような言葉が書いてあるんです。ある種、人間の本質を捉えていると思う」と、絵本が持つ力を再発見したという三山。
「大人が見たら“闇”だと感じるぐらい、“(衝撃を)食らう”という言葉が正解だと思います。人と関わるうえで大切なこと、優しさ、思いやりというものを、すごくきれいに描いているようで、実は奥深い表現をしている。でも、そう感じたということは、いろいろな経験や言葉を経たことで、僕自身が子どものころよりも質の高い目線で、絵本に描かれていることを受け取れるようになったからだと思う。自分が人としても成長していると、理解できた瞬間でもあった気がします」。絵本との再会は、自身の成長を実感する経験にもなったようだ。
「ある絵本では、これは“氷山の一角”を表しているんだなと僕は思ったんですけど」と、机上の資料を手に取って絵本に見立て、とくに印象深かった一冊について説明してくれた。「ページを開くと、地中海が描かれているんです。そこには、楽しんでいる人とか、魚釣りをしている人がいて。でも、そうして見えているのは実は全体の2割くらいで、さらに絵本を開いて海の下を覗いていくと、魚の骨があったり、サメがいたり、深く潜らなければわからなかったものがたくさん描いてある。『これ、恐ろしいな!』と思いました。目に見えているものだけがすべてじゃないと改めて思ったし、見えていないところにもちゃんと視点を当てること、“偏見”という言葉だけで終わらせないことの大切さを感じて、はっとしました」。
本作の結末とそこにいたるまでの過程は、明確には描かれず、まさに冒頭で三山が語った通り、観る者に委ねられる。演じるにあたって、三山はどういうストーリーを描き、なにを大事に演じたのだろうか。そこに、先ほどの絵本の話も繋がっていた。
「人生って、さっきの絵本の話と同じで、主観的になってしまうことが多いじゃないですか。目の前にある壁しか見えず、それに苦しめられて悩むこともある。同時に、大事なものは失ってから気付くっていいますよね。それらを解決してくれるものって、僕は時間だと思うんです。時間が過ぎたことによって忘れてしまったり、少し感覚が薄れたり、“風化する”と捉えるのも、意外と大事なことである気がしていて。そのなかでも、やっぱり忘れられないもの、こうしたかったと思う気持ち…そういうものと、なんとなく一緒に生きていることもあるなかで、“変わらないものを変えていきたい”という、良城の少しずつの成長があってのラストシーンかなと思います」。変わってしまうもの、変わらないもの、変えていきたいもの、そこに平等に流れる“時間”。三山はそのすべてを、客観的かつ優しい視点で捉えていた。
■「より作品に感情移入できる歌詞になったと思います」
ラストシーンの撮影は全体の後半だったというが、ラストカットではなかった。しかし三山は、「人間としての成長というか、ある種強くなった瞬間みたいなものが出ていたかなと思う」と、良城が見せた表情について振り返る。「きっと、一番苦しかった時よりも少し解き放たれて、いろいろなことを深く広く受け止めることができるようになったんだと思います。大人っぽく、少し落ち着いて見えるのは、それが理由かなと思うし、その背景にもやっぱり、時間の経過があったんじゃないかと思いますね」。
本作に、切なさや優しさ、ぬくもり――そうした余韻を残すのは、BE:FIRSTが歌う主題歌「誰よりも」。主演だけではなく、グループとして主題歌も担当することは、「芝居をやり切ったあと、最後のギリギリで決まった」という。三山は同曲の作詞にも参加しているが、演じ切ったタイミングだったからこそ書けたものだったと話す。
「自分が撮影を通して見たもの、感じたもの、感情をそのまま歌詞にすることで、より作品に感情移入できる歌詞になったと思います。そのうえで、心理的にも物理的にも、“触れられない”って、いろいろな人が経験していることだと思う。いい意味で抽象的な歌詞だし、“抱きしめたい”“触れられない”という言葉は、映画を観ていない方にも伝わるものだと思います」。
最後に、「正直、僕個人としては、この作品がハッピーエンドとは思わない」と付け加えた。「この先に、またいろいろなことがあるだろうし、不安はぬぐえないと思う。でも、うまくいってくれるといいな。演じていて、そう思いました」。良城と月菜を、優しく見守るように演じたラスト。スクリーンで、感じたままに受け取ってほしい。
取材・文/新亜希子
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