新たな時代のホラー映画作家の発掘と育成を目的に、2021年からスタートした「日本ホラー映画大賞」。現在その第1回と第2回の受賞作品が『「第1回日本ホラー映画大賞」受賞作品』、『「第2回日本ホラー映画大賞」受賞作品』としてAmazonプライムビデオにて見放題配信されている。本年度開催された第3回では、選考委員長の清水崇監督をはじめとした選考委員たちの論戦の末、片桐絵梨子監督の『夏の午後、おるすばんをしているの』が大賞を受賞。片桐監督は、現在KADOKAWAで商業映画監督デビュー作の制作準備を進めている。
【写真を見る】新時代を担うホラー映画作家たちが、恐怖表現や今後の展望を語り合う!
「日本ホラー映画大賞」で「観客が怖さを“楽しめる”、映画ファンに広く愛される作品」に贈られるのが「PRESS HORROR賞(第1回、第2回ではMOVIE WALKER PRESS賞)」。第1回受賞者である近藤亮太監督の商業映画監督デビュー作『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』(公開中)の公開にあわせ、PRESS HORROR編集部では第1回から第3回までの同賞受賞監督3名による座談会を開催。そのトークの模様をお届けしていこう。
■「日本ホラー映画大賞は、全体のレベルが格段に上がっていると思います」(近藤)
座談会に参加したのは、『その音がきこえたら』で第1回のMOVIE WALKER PRESS賞を受賞し、続く第2回では短編版『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』で大賞を受賞。その後TXQ FICTIONの「イシナガキクエを探しています」「飯沼一家に謝罪します」で演出を務めた近藤監督。
『笑顔の町』で第2回のMOVIE WALKER PRESS賞を受賞し、第3回では『異星人回鍋肉』(エイリアンホイコーロー)が「映画好きが思わず感想を語りたくなるような短編作品」に贈られる「シネマンション賞」を受賞した小泉雄也監督。そして『闇の経絡』で第3回のPRESS HORROR賞を受賞した及川玲音監督。
――まずは第1回、第2回と「日本ホラー映画大賞」に応募者として参加し、今回は客観的に作品をご覧になった近藤監督にお訊きします。第3回の入選作品を観て感じたことは?
近藤「選考委員のみなさんもおっしゃっていましたが、全体のレベルが格段に上がっているように感じました。みなさんが確実に勝てるパンチを出していて、音も画も、俳優さんの芝居も良くて、そのぶん演出やシナリオ自体の強度が受賞の決め手になっていると感じました。自分の応募している回じゃなくて本当に良かったなと思います…」
――小泉監督は、スプラッターとコメディを融合させた“SFカニバリズムホラー”『異星人回鍋肉』で2回目の受賞。授賞式では選考委員の堀未央奈さんとゆりやんレトリィバァさんから直々に感想をいただいていましたね。
小泉「やはり観ていただいた方に直接評価してもらえるのはうれしいですね。前回の授賞式後の選考委員講評で、堀さんは『臓物が足りない』とおっしゃっていて、自分も確かに足りていないなと感じていたので、今年はそれを目標にしました(笑)。ああいうところで出てきた一言は、作る側にすごく影響があると思います」
■「撮影の時は本当につらかったけれど、やってよかった」(及川)
――今回初めて「日本ホラー映画大賞」に参加された及川監督。『闇の経絡』は東日本大震災の被災地を舞台に、謎の暴走車に襲われ夫を失った女性を描いた物語でした。選考委員の方々から作品の感想をもらっていかがでしたか?
及川「いままであまりこういう機会がなかったので、作品の見方をはじめ自分が思っていたのとは違う感想を抱かれる方が多くて発見になりました。講評の時に宇野維正さんが『震災要素はなくていいんじゃないか』とおっしゃっていたのは特に発見でした。僕自身が宮城県出身で被災者であったことから、違和感を持たず物語に取り入れていたので」
近藤「応募される時にはみなさん過去の受賞作から傾向と対策を立てて臨まれると思いますが、お二人はどうだったんですか?」
小泉「僕は逆に外しにいくというか、大賞受賞作も下津優太監督の『みなに幸あれ』が因習やヒトコワで、『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』が正統派Jホラーだったので、次は“宇宙”でどうだろうかという感じでした(笑)」
近藤「外しにいくのも傾向を読んでいるというか、流れに逆らう生き方も流れのなかにありますよね(笑)。及川さんはどうだったんですか?」
及川「『闇の経絡』は映画美学校の卒業制作として作りあげた作品だったので、完成後に応募を決めたんです。そもそもホラー映画が大好きだったので、やってみたい気持ちはあったんですが、実際に撮ってみたらホラーよりもアクション寄りの脳みそで撮ってしまった感じがしていて。だから自分でもこれはどっちなんだろうと不安の方が優っていました。映画美学校の先輩として、近藤監督はどうご覧になりましたか…?」
近藤「自信をもって大丈夫です。ちゃんとホラー映画になっていましたよ!」
――『闇の経絡』の見せ場は、なんといってもクライマックスの雨のシーンですよね。
小泉「あれは雨降らし(放水用の装置等を使い、雨のシーンを撮影する技術)をやったんですか?」
及川「実はあれ、自然な雨なんです」
近藤・小泉「えー!」
及川「クライマックスシーンの撮影に入ったら急に雨が降って、風も強くなってきて…」
近藤「もうそれで撮るしかないと?」
小泉「奇跡じゃないですか!」
及川「偶然撮れたんですけど、スタッフは全員びしょ濡れになってしまいました」
近藤「雨のなかでの撮影はスタッフからしたらたまったもんじゃないですよね(笑)」
小泉「あの量はたしかに人工的な雨降らしじゃできないですね」
近藤「ちゃんとシーンが進むまで降りつづけていましたし、かなり映画の神様に愛されてますねえ」
及川「撮影の時は本当に辛かったですが、いまになってみるとやってよかったと思っています」
■「“人ならざるもの”、本格的なモンスター映画をやってみたい」(小泉)
――小泉監督と及川監督は商業映画監督デビューを目指していくとのことですが、今後挑戦してみたいことは?
小泉「僕は怪獣とかお化けとか、“人ならざるもの”をやりたいですね。以前からギレルモ・デル・トロ監督が好きだと公言しているのに、結局ヒトコワになってしまうし、今回もエイリアンを出したけれどそっちの方向にいってしまいました。そろそろ本格的なモンスター映画をやってみたいです」
近藤「『シェイプ・オブ・ウォーター』みたいな感じですか?」
小泉「そうですね、『シェイプ・オブ・ウォーター』大好きなんです。あれもある意味ではヒトコワですけど、異形への愛があって、いかにもデル・トロ監督のスタイルじゃないですか。今回の作品で造形の方と仲良くなれたので、そっちの方向で勝負していきたいと思っています」
及川「僕は今回の映画でも不幸が次から次へとやってくる“地獄めぐり”みたいなものをやったので、次はもっと“地獄感”の強い映画を撮りたいなと思っています」
近藤「高橋洋さんの影響を感じる、美学校生らしい発言ですね(笑)。その地獄のなかでホラーを追求していくと」
及川「はい、まさに高橋さんの影響です(笑)。今回特に悩んだのは、幽霊表現だったんです。幽霊って描ける人と描けない人がいて、僕は後者なのではないかと感じたんです。だから幽霊表現でも“本当に怖い”と思えるものを目指していきたいです」
近藤「いいですね。僕は幽霊を映さない派ですけど、たしかに怖く撮れる人とそうでない人がいますよね。撮影のうまさとかテクニックもあると思いますが、あれはやっぱり感性なんでしょうね」
及川「『こいつ、わかってるな…』と観客に思わせるようなものを撮ってみたいですね」
近藤「本気で怖いと思って撮っている感じを観てみたいです。及川監督はジョン・カーペンター監督が好きだとおっしゃっていましたが、そのアグレッシブさをやりたいのかなとも感じたんですが」
及川「今回の作品の始まりも、まさに『クリスティーン』をやりたいというところからだったんです。最初はトラックにする予定はなかったんですが、ちょうど父親の車があれだったので…」
近藤「お父さん、めちゃくちゃイカつい車乗ってますね(笑)」
及川「おかげで主人公の車よりも大きくて威圧感があって、スティーブン・スピルバーグ監督の『激突!』っぽい要素も出てきました」
近藤「実際に殺傷能力が高そうで説得力がありますよね。宇野さんも講評で車の描写をすごく褒めてらっしゃいましたし」
――及川監督は、カーペンター監督以外に憧れや目標にしている監督はいるんですか?
及川「尊敬しているのはジョナサン・モストウ監督です」
近藤・小泉「!?」
及川「『ブレーキ・ダウン』とか『U-571』が大好きで。あと最近DVDを手に入れて、テレビ映画時代の『F-16 Flight of Black Angel』という戦闘機の作品を観たのですが、それもすごくおもしろかったです」
小泉「モストウ監督って最近撮ってるんですか?」
及川「近年はあまり大きい作品をやっていないのですが、サム・ワーシントン主演の『ザ・ボディガード』とか…あとはドラマシリーズも撮っているようです。もっと大作アクションを撮ってほしいのですが…」
近藤「こういうところでモストウ監督の名前を挙げる人は初めて見ました(笑)」
及川「あと2、3年前に観た『マンディ 地獄のロード・ウォリアー』のパノス・コスマトス監督も好きです。『ランボー怒りの脱出』のジョージ・P・コスマトス監督の息子さんなんですが、あの人の新作も早く観たいですね」
近藤「さすが映画美学校生…。チョイスが通すぎます(笑)」
文/久保田 和馬
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