【海がきこえる】作画監督・近藤勝也が貴重なイベントで明かした制作の裏側

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【海がきこえる】作画監督・近藤勝也が貴重なイベントで明かした制作の裏側

2月7日(金) 9:00

書籍『海がきこえる THE VISUAL COLLECTION』刊行を記念したトークベントが、1月18日(土)に紀伊国屋書店新宿本店9Fイベントスペースにて開催された。
スタジオジブリ制作のアニメーション作品『海がきこえる』(1993)のキャラクターデザイン・作画監督を務めた近藤勝也さんと同作のプロデューサー・高橋望さんが登壇し、チケットが即完売した本イベントでは、人気作の裏側が余すことなく披露されただけではなく、予定外の関係者もサプライズ登場。そんな貴重なイベント現場の模様をお伝えしよう。

>>>サイン会などイベント会場での様子を見る!(画像8点)

『海がきこえる』は、「月刊アニメージュ」に連載された氷室冴子の同名小説を原作に、当時のスタジオジブリ若手スタッフを中心に制作された、望月智充監督の長編アニメーション。高知から東京の大学へ進学した杜崎拓が、ふとしたきっかけから高校時代の同級生・武藤里伽子との思い出を回想していく青春ストーリーが描かれていく。
1993年にテレビスペシャルとして放送後、長らく注目される機会が少なかった本作だったが、2024年3月にBunkamuraル・シネマ渋谷宮下で限定公開されたところ、ロングランヒットを記録。当時からの根強いファン、そしてZ世代を中心とした若い観客がその色あせない魅力を再発見する機会となった。そんな人々の期待に応える形で31年を経て登場した書籍が、当時の貴重なイラストや資料・新規インタビューなどを収録した『海がきこえる THE VISUAL COLLECTION』(トゥーヴァージンズ刊)だ。

本書の企画・編集、そして本イベントの司会を務めた森遊机さんは、冒頭、「近藤さんがこうした場に登壇されるのは本当に珍しい」と紹介。近藤さんも「このように作品を愛してくれる人たちと30年越しに面と向かうなんて、考えたこともありませんでした。ありがとうございます」と感謝の言葉を述べた。

「『海がきこえる』に関する最も古い記憶」について問われた近藤さんは、「(作画監督とキャラクターデザインを担当した)『魔女の宅急便』が終わってすぐに、アニメージュ編集部の三ツ木早苗さんから打診があり、氷室冴子さんの名前を知っていたことや、挿絵に対する興味が決め手となって、オファーを受けることになりました」と、原作版の挿絵を担当することになった経緯について振り返った。

続いて森さんは、自転車に乗った拓が橋を渡った先で右折するシーンなど、原作版の挿絵に使われている高知の風景が、かなりの確率でそのままアニメに引用されていることを指摘。挿絵執筆前に行われた高知でのロケハンについて尋ねられた近藤さんは、「短い時間ではあったが、三ツ木さんが事前に調べた場所や、タクシーの運転手さんに聞いたところを片っ端から撮っていった」と述べたあと、「夜はディスコにも行きました、人生最初でおそらく最後です(笑)」と告白し、会場を湧かせた。

話題は原作小説からアニメ版の話へ。「テレビ作品でこれほど等身の高いキャラクターを、ファンタジーやSFではなくリアルな日常芝居で入念に動かすのは、当時は非常に珍しかった」という森さんの言葉に「挿絵を描いてる時点ではアニメにするなんて考えられなかった。それを簡単に『やろう』と言った高橋プロデューサーに腹が立った(笑)」と近藤さんが返すと、高橋プロデューサーは「挿絵が先行していることにより、作品制作時にまずイメージボードを描く宮崎駿の作品と似た作り方ができると感じた」と自身の思惑を明かし、「その結果として、『海がきこえる』は最初から最後まで近藤勝也のフィルムになっている」と語った。

※「宮崎駿」の崎は大の部分が「立」が正式表記。
※「高橋望」の高は、はしごたかが正しい表記。

(C)1993 Saeko Himuro/Keiko Niwa/Studio Ghibli, N

トークイベントも中盤に差し掛かったところで、司会の森さんは里伽子役を演じた坂本洋子さんのコメント音声を流すことに。これは昨年11月の凱旋上映時のイベントでも一部が流されたもののフルバージョンで、改めて会場の観客にその貴重な語りがシェアされることになった。
「とにかく里伽子の口の動きに合わせるのに苦労しました」と初体験だらけのアフレコを振り返った坂本さんは、本作の一番好きな場面を「拓と一緒に飛行機に乗っているとき、珍しく里伽子が素直になるシーン。素の自分に似て、力が抜けているのが好きです」と明かした。また、『海がきこえる THE VISUAL COLLECTION』については、「スタッフの真摯な思いが伝わりました。一番感動したのは、カバーを外すと青い色の教室のスケッチが現れたことです」と、手にした際の思いを語っていた。

サプライズはまだ続く。会場の観客席にトークで名前が何度も挙がった三ツ木早苗さんと望月智充監督の姿があったのだ。

森さんに促される形で挨拶することになった望月監督は「(近藤)勝也さんとは去年15年ぶりくらいに会って、『なんだ、全然変わってないじゃん』と思って、時間がずっと繋がっているような気持ちです」と述べ、それを聞いた近藤さんは照れくさそうに笑う。
そして三ツ木さんは「30数年経って、これだけの人が再公開に集まる作品になったということに、旅立たれてしまった氷室さんも喜んでいると思います」と語り、多忙でなかなかオファーを受けてくれない人気作家をいかに口説き連載まで導いたのか、当時の苦労や思い出を観客に打ち明けた。

三ツ木さんの発言を受けて、高橋プロデューサーは「当時のアニメージュ編集部には、映画を作りたいと考えていたひとたちがいて、彼らの暴走が結果として『風の谷のナウシカ』を生みだした。そうした伝統の正統的な後継者が三ツ木さんであり、そういう意味で『海がきこえる』は『ナウシカ』的な映画でもあった」と、本作の立ち位置を振り返った。

そしてトークは「本作の続編は作られないのか?」という話題に。「実は10数年前に話が持ち上がったんですが、結局、実現しなかったですね」と語る高橋プロデューサーに、近藤さんは「自分も考えてはみたけど、原作の持ち味とアニメ版の整合性を取ることが難しい」、そして森さんも「アニメ版のラストは潔く終わっているので、そのあとがなかなか作りにくいとは思いますね」と、それぞれの思いを明らかにした。

楽しい時間はあっという間にすぎ、トークイベントはいよいよフィナーレへ。最後に近藤さんは「こんなに嬉しいことはない、と心の底から思いました。本当にありがとうございます」と改めて観客に感謝を伝え、観客は大きな拍手でその言葉に応えた。
さらにイベント後には近藤さん・高橋プロデューサーのサイン会も開かれ、会場の熱気と興奮は冷めやらぬままだった。

※「高橋望」の高は、はしごたかが正しい表記。
(C)1993 Saeko Himuro/Keiko Niwa/Studio Ghibli, N
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