今冬の移籍マーケットでセルティック(スコットランド)からレンヌ(フランス)に移籍した古橋亨梧が、2月2日のストラスブール戦でリーグ・アンの舞台にデビュー。スタメンとしてピッチに立ち、61分までプレーした。
試合は89分にリュドヴィク・ブラスの決勝ゴールによってレンヌが1-0で勝利を収め、連敗を4でストップ。降格圏内を脱出することに成功したが、残念ながら、古橋個人としては満足のいくパフォーマンスを見せられなかったというのが実際のところだった。
古橋亨梧はフランスリーグでも成功を収められるかphoto by AFLO
3-4-2-1(3-4-3)の1トップで先発した古橋が初めて味方からボールを受けたのは、GKのロングキックをヘッドでフリックした29分のこと。22分に前線の守備でボールに触れたシーンもあったが、実質的なファーストタッチまでに約30分もかかってしまった。
最初に味方からパスをもらえたのは39分。ジャウイ・シセからの縦パスをレシーブしたが、ここではボールを収められず。42分にはハンス・ハテブールのクロスに対してニアに飛び込むも、ハテブールがオフサイドとなる。
初シュートはその1分後。アルノー・カリムエンドからのパスをボックス手前で受けてゴールを狙うが、ファーストタッチが乱れたことでボールは大きく枠を外れてしまった。後半に入っても、51分には左サイドでパスを出すも味方に反応してもらえず、56分に自陣で大きくクリアしたのを最後に、古橋のデビュー戦は幕を閉じることとなった。
ボールタッチは計7回で、相手ボックス内では1回ボールに触れたのみ。シュートは枠外1本で、パスは4本を記録し、そのうち成功は2本。古橋のプレースタイルからすれば一概に驚きとは言えないが、それでも約60分のプレータイムがあったことを考えると、物足りなさは否めない。
実際、フランス最大のスポーツ紙『レキップ』の採点では、勝利チームでは極めて異例と言える「2点」(合格点が6点で、最低が1点)と、酷評されてしまった。
【古橋にとって監督交代は青天の霹靂】もっとも、古橋の加入が発表された2月3日からデビュー戦までにチーム内で起こった超ドタバタ劇を考えれば、そのなかで即フィットすることなどほぼ不可能だったと言っても過言ではないだろう。それほど、今シーズンのレンヌは迷走中だ。
今シーズンのレンヌは、ヨーロッパカップ出場権獲得を目標としていた。だが、夏の移籍市場で大幅な戦力の入れ替えを断行し、流れが大きく変わった。
指揮を執っていたジュリアン・シュテファン監督はプレシーズンの準備期間を台無しにされた状態でチームの再構築を迫られ、なかなか最適解が見つけられずに昨年11月に解任の憂き目に。苦しい立場となったフロントは、かつてマルセイユで結果を残したこともあるアルゼンチンの名将ホルヘ・サンパオリを招聘した。
ところが、期待されたサンパオリもチームを改善させることができず、冬の移籍期間で再び戦力の入れ替えに着手し始めた。古橋も期待を寄せられて獲得した戦力のひとりだったわけだが、しかしそんな矢先、2月6日にサンパオリの解任とハビブ・ベイェ新監督の就任が決定したのである。
この一連の騒動は、サンパオリ前監督の下、新天地でトレーニングに励んでいた古橋にとって青天の霹靂だったに違いない。それはほかのチームメイトも同じで、今回のストラスブール戦はその混乱状態で迎えた試合だったことを考えれば、チーム全体が低調だったのも当然のこと。そんななか、勝ち点3を奪えたことは奇跡的だった。
今シーズンからスポーツ・ダイレクターに就任したフレデリック・マッサーラの補強戦略の問題は置いておくとして、現状、チームはこれからベイェ監督の下でゼロからのチーム作りがスタートする状況にある。それを考えれば、古橋のデビュー戦のパフォーマンスは、楽観できるものではないにせよ、必要以上に悲観することもないだろう。
現役時代はマルセイユの主軸DF(右SB)として当時ル・マンで活躍していた元日本代表の松井大輔とも対戦したベイェ監督も、古橋のパフォーマンスについては前線でボールを受けるための動きと、献身的な守備について一定の評価を与えていた。
【古橋は1トップの座をエースと争う】今後に向けた最大の注目は、再び大幅な戦力の入れ替えを行ない、冬のマーケットとしては異例とも言える大量10選手を補強した新チームのなかで、古橋がどのようにして生きる道を見つけるか、という点に尽きるだろう。
リーグ・アン初采配となるベイェ監督は2021-22シーズンから指揮を執ったレッドスターFC時代、4バックを基本布陣としながら2シーズン目の終盤から3バックに移行し、3-4-2-1と3-4-1-2を併用していた過去がある。初陣となったストラスブール戦では就任直後ということもり、サンパオリ前監督が採用していた3-4-2-1(3-4-3)を流用したが、今後どの布陣を基本とするのか。
この冬のマーケットでレンヌは、主力アタッカーのアミーヌ・グイリ(→マルセイユ)とアルベルト・グレンベーク(→サウサンプトン)を放出し、ほとんど活躍できなかったジョタも古橋とトレードのような格好でセルティックに移籍。代わって、移籍期限ギリギリでモンペリエからヨルダン代表のムサ・アル=タマリ、ベルギーのサークル・ブルッヘからカジム・オライグベを獲得し、前線の戦力を入れ替えた。
レンヌでエースの座を担うのは、現在8得点をマークするチーム得点王のカリムエンドになる。しかし、ストラスブール戦では本来1トップのカリムエンドを左シャドーで起用し、古橋を中央に配置した。そのことを考えると、おそらくベイェ監督は古橋の適性を確認したかったという狙いがあったと思われる。
ストラスブール戦では古橋がなかなかボールに触れなかったこともあって、カリムエンドとポジションを入れ替わる場面もあった。ウイングもしくはシャドーを主戦場とするアル=タマリとオライグベを補強したことを踏まえれば、古橋は1トップの座をカリムエンドと競い合う可能性が高いだろう。
もちろん、パリ・サンジェルマン出身のカリムエンドからポジションを奪うことは容易ではない。だが、カリムエンドは好不調の波が大きいため、古橋にもそれなりの出場機会が与えられるはずだ。
【勝負はフランスに慣れてきた2年目】ベイェ監督が「彼(古橋)にとっては新しい文化であり、新しいフットボールだ」とコメントしたように、古橋にとってはまず、リーグ・アンのスタイルに順応することが最初のハードルになるだろう。そのためには、古橋の得点力の源とも言えるチームメイトとのコンビネーションを構築することのみならず、リーグ・アンでは1対1の場面で優位に立つための工夫も避けられない。
いずれにしても、リーグ・アン初年度から活躍した伊東純也(ゲンク→スタッド・ランス/2022年)は別格として、南野拓実(リバプール→モナコ/2022年)や中村敬斗(LASKリンツ→スタッド・ランス/2023年)も本当の意味で順応できたのは2年目だった。そのことを考えれば、古橋も今から焦る必要はない。
今シーズンの残り14試合は、2年目に活躍するための準備期間として捉えてもいい。多くの課題を手にすることが、遠いように見えて実は活躍するための近道なのかもしれない。
ワールドカップ本大会は2026年6月。筋書きどおりにいけば、今回の移籍はタイミングとして最高だった、と言える日が来るはずだ。
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