電車やバスといった公共交通機関は、時に体調不良の乗客の対応などで遅延が発生するが、それは誰も責められない、仕方のないことだろう。
だが、そんな遅延の状況に対して、周囲に苛立ちをぶつける理不尽な乗客がいる。今回は、そんな乗客を目撃したという
岡田直人さん(仮名・30代)
に話を聞いた。
突然、車内で倒れた女性
都内某所の寒い冬の日、岡田さんは仕事が終わってバスで帰路についていた。平日の夕方ごろ、退勤ラッシュの混み合う時間帯だったため、「座席は空いていなかったのでつり革につかまって立っていた」という。
そして岡田さんが乗車してから2つ先のバス停で、30歳前後の女性が乗車してきた。
「ショートカットでパンツスーツ姿の華奢な女性だったのですが、バスが発車してからしばらくして、その女性が運転席付近でいきなり倒れてしまったんです。
明らかに体調が悪そうで、苦しそうに顔をゆがめていました。私は最初は何が起きたのか気づかなかったんですが、バスの運転手さんが車内放送で状況を知らせてくれました」
ベテラン感のある40代ほどとみられる運転手は冷静に次のようにアナウンスしたそうだ。
「こちらの車内で体調不良を訴える方がいらっしゃいます。救急車を手配しますので、このバスはしばらく停車いたします。大変申し訳ありませんが、ご理解いただきますようお願いいたします」
運転手の毅然とした対応
突然停車したバス内で、倒れた女性を心配そうに見つめる乗客が多いなか、車内の中ほどに座っていたとみられる買い物袋を提げた中年女性2人組が不満げな表情を浮かべていたという。
「主婦のような2人組は、周りに聞こえるような大きな声で『遅れるのに運賃はそのままなの?』や『こんな対応、普通じゃありえないわよね!』などと怒鳴り散らかしていました。体調不良の人が優先されることは当たり前ですし、仕方のないことなので、非常識な人だなと思いましたね」
ほかの乗客たちも怪訝そうにその主婦2人組を見つめていて、主婦たちは明らかに周囲から浮いていたそうだ。
しかし、この2人組の文句を聞いた運転手は毅然とした態度を変えることはなかったという。
「運転手さんはその女性2人組に『乗車賃は結構です。この場でお降りいただいて構いません』とピシャリ。運転手さん、よく言った!と思いましたね(笑)。その2人のせいで車内の雰囲気が悪くなっていたので、運転手さんのこの言葉ですごくスッキリしました」
主婦二人組が降車して空気が一変
運転手の言葉を聞いた2人は、ムッとした表情で何も言わずにバスを降りていったそう。
「運転手さんが主婦たちを降車させてくれたおかげで、車内の雰囲気も一気に変わりました。
20代と思われる若い男女2人が、倒れた女性のもとに駆け寄って、『無理しないでくださいね。楽な姿勢になりましょう』と声掛けをし、カバンから未開封の水やタオルを取り出して倒れた女性を介抱し始めました」
岡田さんによると、この男女は対応に手慣れた様子だったことから看護学生のようだったという。
そしてバスが停車してからおよそ20分後、無事に救急隊が到着し、女性は病院へ搬送された。バスは再び動き始め、車内は安堵と一体感に包まれた。
毅然とした態度が求められる時代
公共交通機関を利用するなかで、誰しもが予期せぬ状況に遭遇する可能性はある。そういった場で周囲の迷惑を鑑みない乗客が現れた場合、今回のエピソードの運転手のように、毅然とした態度が求められるのかもしれない。
(取材・文=瑠璃光丸凪/A4studio)
【瑠璃光丸凪】
編集プロダクションA4studio(エーヨンスタジオ)所属のライター。興味のあるジャンルは、アングラ・音楽・ファッションなどサブカルチャー全般と、ジェンダー問題、政治経済問題について。趣味はレコード集め。
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