高畑充希(撮影:藤田亜弓)
2月3日(月) 3:00
高畑充希が主演するミュージカル『ウェイトレス』が待望の再演を果たす。アメリカ映画『ウェイトレス~おいしい人生のつくりかた』をベースに制作されたブロードウェイミュージカルで、日本では2021年初演。本作のブロードウェイ公演、ウエストエンド公演を観劇した高畑自身が出演を熱望し、実現したという。
物語はダメ夫アールのモラハラを受けているジェナが主人公。ダイナーのウェイトレスとして働く彼女は、辛い生活から現実逃避するかのように、自分の頭にひらめくパイを作り続けている。ある日アールの子どもを妊娠していることに気付いたジェナは、産婦人科の若いポマター医師に「妊娠は嬉しくないけど産む」と正直に身の上を打ち明ける。そして身の上話を語るうちに、ジェナはポマター医師に惹かれはじめてしまい……。
妊娠・出産・離婚といった人生の岐路に立つ女性のそれぞれの決断を、温かい視点で描きながらも、笑いどころもたっぷりまぶされたミュージカルコメディ。ジェナを演じる高畑に本作の魅力や意気込みを聞いた。
――4年ぶり、待望の再演です。再演に対してのお気持ちは。
初演は2021年で、コロナ禍まっただ中でした。お客さまにも客席で声を出すことは控えていただいていましたし、私たちも稽古中はずっとマスクを着けるなど壁が多かった。今回はやっと普通の状況で上演できそうなのがすごく嬉しいですし、初演とはまた違う熱気が生まれるのかなと思うと楽しみです。
――『ウェイトレス』は高畑さんご自身が本作をやりたいと熱望したとか。ブロードウェイ、ウエストエンドで観劇された時のことを教えてください。
ブロードウェイの劇場は日本より小さいところも多く、その分、劇場内の一体感があります。本作も笑いどころでは爆笑が起き、ジェナにDVをする夫のアールが登場するとみんなブーイングをする(笑)。それに対してジェナが毅然とした態度をとると「イェーイ!」と盛り上がったりして、体験型アトラクションのようでした。私は積極的に声を出したりできないタイプではありますが、そういった環境の中で観ると2倍3倍楽しめたんです。プラス、楽曲に対しての感動がありました。私はわりとクラシックなミュージカルをよく観てきたのですが、この頃ポップシンガーが曲を書くようなタイプの作品をよく観るようになって。この時の渡米では『ウェイトレス』と『ディア・エヴァン・ハンセン』を観て、両方ともめちゃくちゃ好きになったのですが、自分がやるとしたら(男性主人公の)『ディア・エヴァン・ハンセン』は出来ないので(笑)、帰国してから『ウェイトレス』をやってみたい、日本でやる予定ないのかな、と聞いたんです。一度観て歌はほとんど覚えていたし、英語の内容が全部はわからなくても一緒になって楽しめる。ミュージカルは本当に国境を超えるな、すごいなと思いました。その後ロンドンでも観て、もう一度ニューヨークで観ました。
――改めて本作の魅力とは。
とにかく楽曲が良いところだと思います。最近またよく聴いていますが、4年前の印象と変わらず楽しく聴けるしキャッチー。まったく色褪せません。ポップスだということもあるとは思いますが、私のまわりの、普段ミュージカルを見慣れていない方たちも「聴きやすい音楽だね」と言っています。楽曲の魅力はとても大きいと思います。
また、本作は音楽のサラ・バレリスさんはじめ、脚本、作曲、演出、振付といった主要クリエイティブをすべて女性クリエイターが担当しています。これはブロードウェイ史上初だったそうなのですが、女性が集まって作った、女性のための……といった作品。私が海外で観た時はそれがすごく“新しい”と感じたのですが、ここ数年で日本も状況が変わり、新しくなくなっていることもいいことだなと思います。一方で、前回はおじさま世代の方なども気に入ってくださったりしていましたので、本当に性別、年齢問わず、楽しんでいただける作品だと感じています。
リアルな同世代の女性たちの気持ちに寄り添いたい――ジェナに共感するところや、演じる上での楽しさを教えてください。
ミュージカルのヒロインというと何か特別なところがあったりキラキラしている印象があるのですが、ジェナはそうではない。普通に働いて、夫からのDVに耐えながら、自分の人生を変えたいけれど変える勇気もない……という女性です。そういう人物が中心になって作品が動いていくところが素敵だなと思います。「こうじゃないはず、でも変えたいけれどどう変えていいかわからない、勇気が出ない」「こんなはずじゃなかった」という思いは私自身も抱くこともあるし、きっと多くの女性が……特に年齢を重ねるほど考えることがあると思うんです。そういうときに、ダイナーで働くひとりの女性が大きく人生の舵を切るこの話は身近に感じてもらえると思うし、勇気をもらえるはず。また、ジェナはそんなに個性が強い女性ではないのですが、彼女を取り巻く周りのキャラクターがとても個性的なので、バランスが良くて楽しいです。
――高畑さんのまわりの女性の方からも反響はありましたか。
再演をすると言った時に「初演も観たけど、もう一回観たい」と言ってくれる方が多くて。題材が重めの作品もやってきて、そういう作品たちも好きだけれど「もう一回観るのは辛い……」という作品もある中で、『ウェイトレス』のテーマはシビアだけど、楽曲のポップさと、パイが出てきてダイナーの衣裳も可愛くて……と、世界観のキュートさから観て楽しい気分になれる。私自身、海外で何度も観ていますが何度も観れます。「観て楽しい」と言われたのがすごく嬉しかったです。
――今おっしゃったとおり、とはいえテーマはシビア。結婚や妊娠の幻想を打ち砕くところもあります。高畑さんはそういった作品への出演も多いですね。
私は自分の年齢が上がるにつれ、リアルな同世代の女性たちの気持ち――自分も含めですが、そこに寄り添える役をやりたい思いが年々強くなってきている気がします。私の同世代やちょっと上の世代の女性って、仕事も生活も全部、大変じゃないですか。恋愛でドキドキする恋する乙女のようなヒロインよりも、女性が自分の足で立っていくような作品への出演が多いのは、自分がそれに憧れているからかもしれません。もちろん、現実逃避させてもらえる夢の世界も大好きなのですが。
――では初演から4年経ち、高畑さんも20代から30代になりジェナと同世代になって、さらに役への理解度は深まった感じでしょうか?
前回は「『ウェイトレス』を上演できる!」ことにウキウキしていたところもあったのですが(笑)、自分も年々良くも悪くも少し落ち着いてきたかとは思います。今回はもうちょっと、どこか世間を諦めているようなジェナになりたいですね。海外で観たジェナはそれぞれ全然違って、俳優さんの年齢も全然違った。ジェナの雰囲気が変わると、作品のメッセージ性も変わるんだなと思いました。今回は少し諦めているところから始まり、そこから奮闘していくという、スタート地点が変わるといいな。……私の実年齢も変わっていますので、普通にやってもそうなるのかもしれませんが。とにかく前回とは違ったジェナになるのだろうなとは思います。
カンパニー皆で作り上げた日本初演を経て、“『ウェイトレス』愛”溢れる新キャストと共に――初演はコロナ禍の創作でしたが、高畑さんにとってどんな経験でしたか。
コロナ禍の大変さはありましたが、(日本)初演の作品を作るのってこんなに大変で楽しいんだなという思い出です。今までは『ピーターパン』や『奇跡の人』など、綿々と続いてきた作品を“繋ぐ”ことが多く、歴史のピースのひとつになる嬉しさがあったのですが、『ウェイトレス』は自分たちが基盤を作る楽しさがありました。例えば日本語訳も俳優たちも頭を寄せ合い、特に前回ドーン役だった宮澤エマちゃんはバイリンガルですから、例えばジョークの感じは「文字で読むとこうだけど、アメリカ的にはこういう感覚だと思う」というようなことなどと意見してくれたりして。それによって台本の読み取り方が真逆になったりするんです。私も自分の英語の先生と一緒に、「ここはロングトーンだから“ア”の音の方が歌いやすいよね」と言葉を考えたり。大変でしたが、海外スタッフもリモートで参加してくださり、この日本初演版を成功させようという気持ちが強い、作品愛に溢れた現場だったなと思います。
――サラ・バレリスさんが日本語で開幕アナウンスを担当されていましたよね。とても驚きました。
まさかやってくださるとは! 皆さんとても親切で、一緒にどうしたら日本初演が盛り上がるか考えてくださった。海外スタッフはいつ帰国になるかわからなかったし、公演が中止になるかわからない中で、一度も止まらず最後まで上演できたことが嬉しかったです。今回は初演ではできなかった「劇場でパイを売る」ということもできるかもですし、よりパワーアップすると思います。やっぱりパイの匂いが漂う中でやりたいじゃないですか(笑)。私がブロードウェイで味わった観劇体験に近いものを、皆さんに経験してほしいなと思います。
――ちなみにジェナは悩みがあるとパイを作る女性です。高畑さんにとっての“ジェナのパイ”にあたるものは何ですか?
編み物です。編み物をしていると(現実を)忘れます。最近はティッシュボックスを作りました。セーターも編みかけのものがあるのですが、ちょっと飽きてしまったので、また気が向いたら続きを編むことにします。でもジェナがパイを焼いて現実逃避をする気持ちはすごくよくわかります。私も何かあればすぐに現実逃避する人間なので。
――今回はソニンさんや森崎ウィンさんという新キャストが加わります。
おふたりの舞台はけっこう拝見しているので、おふたりとも素晴らしい俳優さんだなと思っています。ドーン役のソニンちゃんとは初共演ですがずいぶん前からの知り合いですし、私は『スウィーニー・トッド』のジョアンナ、『ミス・サイゴン』のキムと、ソニンちゃんの後に続いて同じ役をやらせてもらうことが多いので、初めてという感じがしません。ソニンちゃんのドーンはどういう感じになるのかワクワクしています。
ウィンくんは10代の時に一緒に映画に出たことがあって(『書道ガールズ!! わたしたちの甲子園』、2010年)、その時になんてハッピーな人なんだろうと思ったんです。超ポジティブで、陽気で、その雰囲気が羨ましいなと思っていました。時を経てまさかミュージカルで共演するとは、です。でもリズムの取り方が洋楽っぽい方なので、ウィンくんの声で『ウェイトレス』の楽曲を聴けるのは楽しみです。本人は「(初演で)宮野(真守)さんが素敵だったからプレッシャーだ」と言ってましたが、宮野さんとは全然違うポマター先生になるだろうなと思っています。ウィンくんも初演を観てくれているし、ソニンちゃんは本国で観て『ウェイトレス』が大好きだとおっしゃっていました。“『ウェイトレス』愛”がある方が新しく入ってくれるので、心強いです。初演の素敵さとはまた違うものが生まれるだろうし、続投の私たちもいい影響を受けると思うので、前以上に頑張らなければと思っています。
――ところで高畑さんは舞台自体が約2年ぶりです。高畑さんにとって舞台、ミュージカルとは。
私はもともとミュージカルの舞台がデビューでした(山口百恵トリビュートミュージカル『プレイバックpart2~屋上の天使』、2005年)。舞台はもちろん稽古が始まると悩むし「なんで出来ないんだろう」と思うことも多いけれど、舞台をやっていない時間が続くと、私は自分を見失うような感覚になる。失って気付く大切さみたいなものがすごくあるんです。「舞台って緊張するじゃない」と言う方もいらっしゃいますが、私は逆に、舞台に立っていないと息ができない感じがする。本当に好きな仕事なんだな、と思います。
取材・文:平野祥恵撮影:藤田亜弓
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<公演情報>
ミュージカル『ウェイトレス』
脚本:ジェシー・ネルソン
音楽・歌詞:サラ・バレリス
原作映画製作:エイドリアン・シェリー
オリジナルブロードウェイ振付:ロリン・ラッターロ
オリジナルブロードウェイ演出:ダイアン・パウルス
【出演】
高畑充希森崎ウィンソニンLiLiCo
水田航生おばたのお兄さん/西村ヒロチョ(Wキャスト)田中要次山西惇
【東京公演】
2025年4月9日(水)~4月30日(水)
会場:日生劇場
【愛知公演】
2025年5月5日(月・祝)~5月8日(木)
会場:Niterra日本特殊陶業市民会館フォレストホール
【大阪公演】
2025年5月15日(木)~5月18日(日)
会場:梅田芸術劇場メインホール
【福岡公演】
2025年5月22日(木)~5月29日(木)
会場:博多座