1月31日より劇場公開を迎えた『ベルサイユのばら』(公開中)。1972年から「週刊マーガレット」で連載され、ブルボン朝後期からフランス革命期までの王室や貴族たちのドラマを描いた作品で、当時の少女たちを熱狂させた。宝塚歌劇団による舞台化やテレビアニメ化も果たす人気作となり、現代にも国内外に多くのファンを持つ、少女漫画の傑作だ。
【写真を見る】政略結婚をしたアントワネットと、そんな彼女と想い合うフェルゼン
50年の時を超えて劇場版アニメとしてよみがえった『ベルサイユのばら』で監督を務めるのはアニメ演出として長くキャリアを積んできた吉村愛。さらにアニメーション制作を手掛けるのは「進撃の巨人 The Final Season」や「呪術廻戦」でも知られるMAPPA、重厚感とドラマ性のある音楽に定評のある澤野弘之を音楽プロデューサーに迎えるなど、現代のファンの期待を高める布陣となっており、不朽の名作をどのように現代版として作り上げたのかに注目が集まっている。
本稿では、作品の背景となっている当時のフランスの社会制度や、実在した主要な登場人物について紹介。作品鑑賞の助けとしていただきたい。
■度重なる戦争で財政難に陥っている18世紀後半のフランス
物語は1770年代からスタートする。当時の治世はマリー・アントワネット(声:平野綾)の夫ルイ16世(声:落合福嗣)の祖父、ルイ15世が長く担っていた。フランスは過去にも多くの戦争を経験しており、多額の戦費は国民への課税で賄われていたが、貴族や聖職者などの特権階級には課税されないなどの不平等から民衆の不満は募っていた。この時、アントワネットの母国であるオーストリアとも微妙な関係性が続いており、王位がルイ16世に渡ってからは、王妃の生活ぶりも火に油を注ぐ結果となった。
不運にも、そんなルイ16世の時代にフランスの財政は破綻状態に陥ってしまう。ルイ16世は特権階級への課税を検討するようになり、これが結果的にフランス革命の引き金となる。市民たちは暴政に疲弊していたフランス衛兵をも巻き込み、強固に守られていたはずだった政治犯などを収監するバスティーユ牢獄を襲撃、占領し、王政の廃止と近代化が始まることとなった。「ベルサイユのばら」でもこのバスティーユ襲撃は、ストーリーの大きな山場となっている。
■登場人物のうち誰が実在する?作中での描かれ方
フランス史に強烈に名を刻む王妃/マリー・アントワネット
オーストリアの女帝マリア・テレジアの皇女。政略結婚のためにフランスへ嫁ぎ王太子妃となり、国王ルイ16世の即位と共に王妃となる。作中では素直で無邪気、また情に厚い人柄を感じられる反面、危うい行動を取ることも多く、護衛であるオスカル(声:沢城みゆき)を困らせる場面も少なくない。王妃として模範とならねばならない状況でも自由奔放に振る舞い、民衆や周囲の貴族の反感を買ってしまうことになる。
叶わぬ恋に翻弄された伯爵/ハンス・アクセル・フォン・フェルゼン
スウェーデンの伯爵で、アントワネットとは同い年の青年貴族であるフェルゼン(声:加藤和樹)。アメリカ独立戦争に参戦するなど軍人としての戦功も。作中では知的で思慮深い好青年として描かれ、宮廷でも人気を集める。ルイ16世夫妻とも親交が深く、特にアントワネットとの関係は“恋”と呼ばれるものであったという。革命期には国王一家の国外への亡命を手引きするなど、アントワネットを最後まで助けようとした。
財政好転に尽力した心優しき国王/ルイ16世
アントワネットの政略結婚の相手。祖父であるルイ15世の崩御と共に19歳で即位。先代からの負債を受け継ぐ形になりながらも軍事整備や財政改革に努めるが、抵抗勢力の反抗に遭い財政の立て直しは叶わなかった。自分に自信がなく、アントワネットがフェルゼンと惹かれ合うことに心を痛めながらも「止めることはできない」と感じている。
■フランス革命をより深く知るためのキーワード
身分によって区別される議会「三部会」
当時のフランスは、国民を「聖職者」「貴族」と、それ以外の人々で構成される「第三身分(=平民)」に区別していた。アントワネットやオスカル、フェルゼンなどは貴族階級であり、オスカルの乳母の孫であるアンドレ(声:豊永利行)、オスカルと革命を結びつけるきっかけとなる新聞記者のベルナール(声:入野自由)は第三身分にあたる。この三つの身分で議会が構成されていたが、その票数は「”一身分”につき一票」。少数派になってしまう平民の意見が通ることはなかったと思われる。
特権階級である「貴族」
貴族とは、アントワネットの取り巻きであった貴婦人たち(宮廷貴族)のようなわかりやすい貴族だけではない。司法に関する官職に就くことで身分を保障される「法服貴族」や、進歩的な思想を持つ者も多い「自由主義貴族」、さらに貴族の身分はないものの商工業で成功したブルジョアジー(商業貴族)もおり、地位として劣るものの経済力では困窮した貴族よりもはるかに裕福であることも多く、経済的な“ねじれ”もあった。
「近衛隊」と「フランス衛兵隊」
王室に仕える「近衛隊」。オスカルは将軍家の末娘でありながら、その武勇を買われ若くして近衛連隊長に任ぜられ、アントワネットの護衛にあたる。一方、「衛兵隊」は近衛隊のもとに連なる歩兵隊で、のちにバスティーユ牢獄の襲撃を成功させる大きな鍵となる存在。オスカルは革命の直前にアントワネットのもとを離れ、この衛兵隊へと身を移している。
■物語の背景を知って、作品をより深く楽しもう!
幼くして異国へ嫁いだマリー・アントワネットに訪れる身を焦がすような恋。男性のように育てられながらも自身に眠る女性の声に身を委ねるかどうか迷い、自分の道を模索するオスカル。「ベルサイユのばら」は彼女たちを中心に、多くの登場人物のドラマにあふれている。その背景はどのような時代だったのか。フランス革命の直前から革命期にかけて、王室や民衆たちの心はどのように動いていたのかを知ることで、この作品のおもしろさや魅力もさらに増すことだろう。
文/藤堂真衣
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