安田現象が映画『メイクアガール』に込めた願い「夢との向き合い方についての問いかけをしたかった」

自身初の長編アニメ『メイクアガール』への想いを語った安田現象監督/撮影/黒羽政士

安田現象が映画『メイクアガール』に込めた願い「夢との向き合い方についての問いかけをしたかった」

1月31日(金) 9:30

天才科学少年と、彼が創りだした人造人間の少女が織りなす物語を、予測不能な展開で描く劇場アニメ『メイクアガール』(公開中)。アニメーション作家、安田現象が手がける初の長編アニメは、自身が制作し2020年に第29回CGアニメコンテストで入賞した短編アニメ『メイクラブ』をベースにしたフル3DCGアニメだ。
【写真を見る】「友達をどう定義するのか」という思考実験から生まれた映画『メイクアガール』

7歳の天才科学者・水溜明(声:堀江瞬)は人造人間のカノジョ「0号」(声:種崎敦美)を創り出す

舞台は現在より少しだけ先の未来。人々の生活をサポートするロボット「ソルト」の開発・製品化に成功した17歳の天才科学者・水溜明(声:堀江瞬)は、新たな発明に行き詰まりを感じていた。そんななか、明はクラスメイトから“カノジョ”を作ればパワーアップできるという話を聞き、人造人間のカノジョ「0号」(声:種崎敦美)を創り出す。順調に恋を育んでいくかのように思えた明と0号だったが、0号はプログラムされた感情と成長していく気持ちの狭間で葛藤するようになり…。

第37回東京国際映画祭でプレミア上映され、“主題歌ナシver.”が一足早くお披露目。公開を控えたいまも「なるべく感想コメントはまだ見ないようにしています」と明かした安田監督。「早く観てほしいですし、正直反応は楽しみです!」と本音を口にした安田監督に話を聞いた。

■「自分が歩んできたなかで生まれたものを詰め込んで、新しいものを作りたかった」
【写真を見る】「友達をどう定義するのか」という思考実験から生まれた映画『メイクアガール』


「人間関係を介さずに友達がほしい」という考え方があり、「友達をどう定義するのかという思考実験の過程で、友達を科学的に作ってみることは話としておもしろい広がりをしそうだと思ったのが、物語の原点が組み上がったきっかけです」とコンセプトの始まりを振り返る。そのアイデアをもとに制作されたのが、本作のベースとなった短編アニメ『メイクラブ』だ。「『メイクラブ』は10万文字で書いた自主制作のラノベをベースにしています。『メイクラブ』で語りたかったことは、割ときれいに2分半でまとめることができたので、新しく長編を作るにあたりベースにするにしても、そのままはちょっと嫌だなと思って。当時自分が書いたものに、ここまでの自分が歩んできたなかで生まれた、いろいろなものをちゃんと詰め込んで新しいものを作りたい。そういう思いで『メイクアガール』の脚本を作りました」。
天才科学者として、ロボットや人工知能の研究に勤しむ明


脚本作りでは自身の一番の願いを込めた。その願いとは「自分の夢を叶えるために犠牲や代償を払い続けることの“グロさ”のようなものを定義、提示することにより、夢との向き合い方についての問いかけをしたかったんです」と告白。それは安田監督自身の経験がベースとなっていて「自分自身、創作活動をするなかで『これも代償にしてまで続けることなのか!』と思わされる瞬間はやっぱりたくさんあって。その気持ちを作品に直接落とし込み、観る人、そして自分自身にも『どうなの?』と訊きたかったんです」と説明。「お呼ばれはキリがないので、作業のために全部断る。ネットサーフィンしようものなら時間は湯水のごとく溶けてしまうから、朝起きたらすぐに制作用のツールを立ち上げて遵守する。気づけば朝は起きづらくなり、知らないうちに涙が流れているような、結構ちゃんと“ダメな状態”に陥っていました。でも、そういった生活を長く続けてしまったせいで、いまさら遊んでくれる友達もいないし、友達や人間関係を失うというのは当時の自分にとってはなかなか“くる”ものがあり…。自分の社会の一部という安心感を得るために、週に一度は商業施設まで足を運ぶという作業を課している時期もありました。課すくらいにしないと自分では動けない状態になっていたんです。それが当時の自分にとっては代償だったと思います」と懐かしみながらも「戻りたくはないですね」と苦笑した。

■「チームでやることの醍醐味を知った気がします」
明への恋愛感情のようなものをプログラムされている0号


自身が率いる「安田現象スタジオ by Xenotoon」はアニメーター4人、モデラー3人の少数精鋭チーム。本作の制作を経て「スタッフ全員が違う形で成長していったことがうれしかった」と笑顔を見せる。「決められたところを期日までに完成させることをやり続けることで、半年くらい経ったころから1人ずつ個性が伸び始めていきました。基礎的な作り方のプロセスをちゃんと踏んだからこそ、プラスアルファの表現の領域までできるようになってくれたことが本当にうれしくて。我々の体制では作品を作りながら“作り方”も模索していきます。そうしないと短期間でプロジェクトを回すことはできません。『メイクアガール』を完成させたことで、自分も含めて全員が以前とは比べ物にならないくらいの表現力で描けるようになったと自負しています」と充実感を滲ませる。これこそがチームで作るおもしろさだと気付かされたそうで、「1人だと研究する時間もないし、表現を丁寧に積み重ねるのも時間的に不可能。チームでやることの醍醐味を知った気がします」としみじみ。作品を通して「既存作品から受け取るアンテナも発達して、かっこいい、かわいい絵である理由を言語化することができるようになりました。それをレファレンスに落とし込む力が身についた印象があります。みんなすごく絵がうまくなったのも収穫でした!」とチームの成長、変化へのよろこびを噛み締めた。

脚本に込めた願いは自身の経験もベースになっている

また、「たどり着いた先がアニメーション作家だった」と自身の歩みにも触れる。「アニメーション作家になろうと思っていたわけではなく、元々はラノベ作家を目指していました。最初になまじ選考がいいところまでいったのがまずかったのかな。ある種、呪いのようになりまして(笑)。数年間泣かず飛ばず、さらにはニート期間もあり、メンタル的にいい加減疲れてきたなって時期に、食い扶持のために3Dのアニメーター業を始めて。気づけば中堅になってきたころに、今度は楽しむための創作をしたいと思うようになりました。なにかになりたいとか下心ばかりの創作をしてきた自分が『ちゃんと楽しむために創作したい!』と思って作ったのがショートアニメ『メイクラブ』でした」と順を追って説明。「ラノベを書いている時には審査員の人にしか(作品を)見られないような世界だったので、人に観られて作品が完成することを痛感しました」と、人に観られることのよろこび、ある種の達成感も覚えた。

クラスメイトの幸村茜(声:雨宮天)は母親のように0号の世話を焼く

「誰の目に触れるのかもわからないところで頑張るよりも、もしかしたら1円にもならないかもしれないけれど、観てくれる人がたくさんいる場所で作品作りを楽しみたいと思って始めたら、ありがたいことにお仕事をいただけるようになって。結果的にアニメーション作家になっていたという感じです」と笑みを浮かべるも、「言い方を悪くすれば、逃げたかったんです(笑)。ただ、逃げた先ではこれまで敗れた夢をちゃんと掛け算的に活かすことができたというのでしょうか。いまでは観てもらうことによろこびを感じる、ある種の中毒性を味わっているような状態です(笑)。とにかく観てもらいたい。どんな反応でも受け入れられるような強靭なハートを持つように心がけています!」と作品を観てもらうことへの心構えを語った。

■「自分の作品に“らしさ”があるとすれば、語り口」
積み重ねていく先に自分の目指すアニメーション作家像がありそうと語った安田監督


大好きな作品は「響け!ユーフォニアム」シリーズだという。「一生観続けるレベルでめちゃくちゃ好きです。新作アニメには必ず目を通しますが、気づけばいつも戻ってきていて、本当に何回観たことか…。人間関係の裏側が、あとから見えてくるのがすごくよくて。実は最初は嫌いだと思ったキャラクターが、いまでは一番好きになっています。僕が大好きなのは優子ちゃん。初見ではなんて身勝手な悪い女なんだ!と思ったけれど、コイツほど人のために動けるヤツはいないって境地になってから、彼女のシーンは涙なしでは観られなくなっています(笑)」とお気に入りアニメの魅力を力説。

明と0号は順調に恋を育んでいくかのように思えた

映像表現で魅力を感じているのは、アニメ「BEASTARS」などを手掛けるCGのアニメーション会社、オレンジで「ゼロをイチにする力、3Dアニメとしての進化という点で勉強になることがすごく多いと感じています。そのもの“ならでは”のアクション表現が魅力的です」とのこと。「日常芝居の観点で言うと、アニメよりもモノクロ映画が受け取りやすい」そうで、最近は昔の映画に触れる機会を意識的に増やしている。「70年代から60年代、50年代と遡っていくなかで、黒澤明映画に触れた瞬間に『あーー!天才すぎる!』って衝撃が走りました。これまでも触れたことはありましたが、改めてしっかりと観てみると、みんながすごい映画だというのも納得しかないし、最近見なくなった古めの演出も、実はいまでも使えるんじゃないかという再発見も多くて。特に刺さったのは『天国と地獄』。隣の芝の青さに打ち震えている場合ではない、ちゃんと自分のなかで戦わなくてはいけない。そんな思いが込み上げてきた作品でした」と黒澤作品からの刺激や学びも明かした。
自分の心はホンモノなのか、それとも作られたニセモノなのか…


目指すアニメーション作家像は、これから見つけていくことになりそうなのだとか。「画作り発のアニメーション作家ではないぶん、画風に関してはあまり意識していません。自分の作品に“らしさ”があるとすれば、語り口になってくると思います。なにかを得るならなにかを失うようなバランス、完全なるハッピーエンドではない、そんなバランスを意識しています。これはニトロプラスに所属していた時に出会い、1人で作るようになってからも大切に使わせてもらっている、自分にとっての思想のようなものです」とし、「制約のなかで生まれる表現がたくさんあることも経験したので、積み重ねていく先に、画としても自分らしさを見つけられたらと思っています」と展望も語った。

取材・文/タナカシノブ


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