2~3割のミニシアターが閉館を検討…映画ファンの想いを届けるプロジェクト「#ミニシアターへ行こう」とは?

始動から半年。クラウドファンディングや公式アンバサダーの活動など、「#ミニシアターへ行こう」の取組みの現状は?(写真は高田世界館)

2~3割のミニシアターが閉館を検討…映画ファンの想いを届けるプロジェクト「#ミニシアターへ行こう」とは?

1月31日(金) 10:30

池袋のシネマ・ロサ1館で公開されるや、口コミで評判が広がり全国300館以上に拡大公開、第67回ブルーリボン賞では作品賞と主演男優賞の2冠に輝き、第48回日本アカデミー賞では優秀作品賞をはじめ7部門で優秀賞を獲得した『侍タイムスリッパー』(公開中)。ポレポレ東中野など4館で公開され、ドキュメンタリー映画としては異例の100館規模へ上映館が拡大している『どうすればよかったか?』(公開中)など、2024年も映画界を盛り上げる作品を次々と世に送りだしたミニシアター。
【写真を見る】110年前に完成した高田世界館はいまも現存!モノクロ写真で写し取った貴重な当時の外観
興行収入が8億円を超える大ヒットとなった『侍タイムスリッパー』


こうした明るい話題の一方で、近年様々な事情から幾度となく存続の危機に立たされている全国各地のミニシアターの現状は、引き続き厳しいままとなっている。本稿では、そんなミニシアターを支援すべく、全国の映画館や興行場を束ねる「全国興行生活衛生同業組合連合会(全興連)」が昨年夏よりスタートさせたミニシアター支援プロジェクト「#ミニシアターへ行こう」の取り組みについて紹介していこう。

■「#ミニシアターへ行こう」プロジェクトとは?

1980年代から90年代にかけて巻き起こった“ミニシアターブーム”から現在に至るまで、日本やアメリカはもちろんのこと、ヨーロッパやアジア、なかなか触れる機会のない珍しい国や地域で製作されたインディーズ映画やドキュメンタリー、アートフィルムなどを上映し、日本国内の映画ファンから愛され、そして映画文化をより豊かなものにしてきたミニシアター。
地域に根差し、映画文化の発展に貢献してきたミニシアター


もともと経済性が難しい業態ということもあって、2020年に発生した新型コロナウイルスに伴う自粛要請等によって全国のミニシアターでは閉館の連鎖が起きる危機に直面。その際には濱口竜介監督と深田晃司監督が発起人となって発足した「ミニシアター・エイド基金」などを通じ、全国の映画ファンから支援が集まり、なんとか急場を凌ぐことができた。
昨年夏からスタートした「#ミニシアターへ行こう」で、ミニシアター文化を救おう!


しかしミニシアターが直面している課題はそれだけではない。2010年ごろから導入が進められてきた、映画館の心臓部ともいえるDCPプロジェクターをはじめとした設備の老朽化や、事業継承の問題など、今後も経営を継続させていくうえで欠かせない大きな設備投資の必要性が、全国のミニシアターに迫っている。こうした状況を打破すべく立ち上げられたのが、「#ミニシアターへ行こう」だ。

プロジェクトが始動した昨年7月には、映像作家の柿沼キヨシによる人気YouTubeチャンネル「おまけの夜」に全興連の佐々木伸一会長が自ら出演。多くの人気監督を世に送りだしたミニシアターの功績や、設備投資のためにどのくらいの金額が必要とされているのか、そしてそれを工面する難しさに直面し、2割から3割のミニシアターが現在も閉館を検討している状態にあることなどを解説してくれているので、この取り組みの重要性についてより詳しく知ることができるだろう。

各々のミニシアターが置かれている現状は、劇場によって異なっている。そのため「#ミニシアターへ行こう」では、クラウドファンディング・プラットフォーム「MOTION GALLERY」を活用し、劇場ごとに支援を呼びかける取り組みを主に行なっている。「自分の街や故郷にある、また遠方にあるけれど大切にしている映画館を守りたい」という映画ファンの思いがダイレクトに反映されるものとなっており、これらの積み重ねによってミニシアター文化全体が守られていくことになるはずだ。

■アパートを映画館に?独創的なアイデアが詰まったプロジェクトたち

すでに2つのプロジェクトで目標達成している「#ミニシアターへ行こう」。プロジェクト第1弾として行われた、日本最古級の映画館として知られる新潟県の「高田世界館」では、デジタル映写機の交換費用の補填に加え、上映環境の上質化を目指してスクリーンなどの設備更新や新事業の創設などが方向性として掲げられた。そして1253万4500円という、目標金額の850万円を大幅に上回る支援金が集まりクラウドファンディングは無事達成となった。また、今年で創立30周年を迎える静岡市唯一のミニシアター「サールナートホール/静岡シネ・ギャラリー」も、映写設備の更新やその工事にかかる費用等を募り、1000万円の目標金額に対して1303万5000円が集まった。
目標金額を大きく上回る支援が集まった高田世界館


そして、高田世界館や静岡シネ・ギャラリーのような「次なる10年、20年に向けて動きだすため」の支援だけでなく、ミニシアターの概念を打ち壊すような独創的なアイデアに挑戦する新規プロジェクトも進行中だ。ここでは、現在クラウドファンディング実施中となっている3つのミニシアターについて、魅力の一部紹介していこう。

●豊岡劇場(兵庫県)
兵庫県北部唯一の映画館、豊岡劇場は2度の復活を経て、100周年を目指す!

1927年に芝居小屋として開業し、戦時下の営業停止などを経て1951年ごろから映画館として歩み始めた「豊岡劇場」は、兵庫県北部唯一の映画館。デジタル化への移行の波のなかで2012年に一度幕を下ろしたものの、2014年に“映画だけじゃない映画館”として生まれ変わり復活。徐々に入場者が増加した矢先、コロナ禍に見舞われ2022年に休館。その後、新たな運営組織として一般社団法人「豊岡コミュニティシネマ」が設立され、2023年3月に再び復活を果たした。
有志が集まってスポーツのパブリックビューイングを行われた豊岡劇場


あと2年で100周年を迎える豊岡劇場のプロジェクトは、まもなく交換のタイミングが訪れるデジタル映写機の買い替えで安定した上映環境を維持し、地域の文化的拠点として次なる10年も継続していくことを目指すというもの。支援金の目標金額は850万円で、それを上回った場合はバリアフリー化を実現するために使用されるとのこと。現在集まっている金額は367万8333円(1月31日17時00分時点)で、プロジェクトの実施期間は2月28日(金)23時59分までとなっている。

●OttO(埼玉県)
映画好きには夢の場所?シェアハウスと映画館の両立を目指すOttO

既存の映画館を維持するだけではなく、新たなミニシアターをつくるプロジェクトも進行している。そのひとつが、埼玉県さいたま市を代表するターミナルである大宮駅の西口に、カフェとシェアハウスを併設した映画館を建設するという「OttO」のプロジェクトだ。かつては12の映画館が営業していた大宮エリアだが、現在は映画館が1つもないという。また、さいたま市は全国の政令指定都市のなかで唯一ミニシアターのない市でもある。
OttOの50席のシアターには防音の親子ルームも完備!

発案者である今井健太は、祖父母の代から続くアパートの建て替えに合わせ、地域の人々が集える場所として“複合施設”という斬新なアイデアを着想。それに共鳴した仲間たちと共にコロナ禍から話し合いを重ね、今年春のオープンに向けて計画は佳境に差し掛かっている。目標金額は850万円で、現在集まっているのは331万8000円(1月31日17時00分時点)。こちらのプロジェクトも2月28日(金)23時59分まで実施されている。


●Theater Aimyou(大阪府)
アメリカ村に5月開業を目指すTheater Aimyou

大阪の心斎橋にあるアメリカ村に2025年5月に開業を目指している「Theater Aimyou」は、店舗経営やイベント制作、プロデュース業などを行うA NEWYOU株式会社が立ち上げる、“原点・アジトのような遊び心あるニューミニシアター”。大阪未上映の作品や短編映画、再上映作品などを積極的に上映し、大阪から映画カルチャーを盛り上げていくことを目指している。
ソファ、テーブル、ハイテーブル席の3タイプで構成される


また作品の上映だけではなく、トークイベントやLIVEイベント、映画上映と空間を連動したりコラボカフェやアート展などの連動スペースを設けたり、ワークショップを実施するなど、作品と人が息づく場所として、ミニシアターの新たなかたちへの挑戦がとなっている。こちらのプロジェクトは3月31日(月)23時59分まで実施中だ。

この3か所以外にも、現在新たなクラウドファンディングのプロジェクトを検討しているミニシアターも。参加状況は「#ミニシアターへ行こう」特設サイトの劇場一覧ページから確認できるので、ご近所や地元のミニシアター、思い出のあるミニシアターなど、“推し映画館”の状況をチェックしてみてはいかがだろうか。

■日本最古級の映画館のレトロな雰囲気や、懐かしい“町の映画館”の魅力に触れる!

「#ミニシアターへ行こう」では、クラウドファンディングを活用した具体的な支援に加え、公式アンバサダーによるミニシアター応援企画も実施されている。各ミニシアターの公式アンバサダーとして、応援したい映画館の魅力をYouTube動画などのSNSで発信していくというもので、すでに3つのミニシアターが参加。ここからは、公式アンバサダーによって制作された動画と共に、それぞれの映画館について紹介していこう。

●高田世界館(新潟県)
クラウドファンディングに加えて、アンバサダー企画も実施した新潟県上越市にある「高田世界館」は、1911年に芝居小屋として開業し1916年に常設映画館となった、現存する日本最古級の映画館。開業時から変わらない建物は現在も現役で、過去には老朽化から取り壊しの危機に直面したことも。その際に市民が主体となって保存運動が発足し、NPO法人が建物を継承。修繕ボランティアの呼びかけや文化財としての申請なども行われ、2014年に定期上映が再開。現在では国の登録有形文化財や近代化産業遺産にも指定されている、レトロで趣のあるミニシアターだ。
【写真を見る】110年前に完成した高田世界館はいまも現存!モノクロ写真で写し取った貴重な当時の外観


同劇場のアンバサダーを務めたのは、先述のYouTubeチャンネル「おまけの夜」と、お笑い芸人でYouTuberの大島育宙。「おまけの夜」の応援動画では、魅力あふれる映画館の内部の様子が確認でき、大島の動画では上野迪音支配人から劇場の100年以上にわたる歴史が語られる、どちらも映画ファン必見の内容となっている。

●塚口サンサン劇場(兵庫県)
兵庫県尼崎市にある「塚口サンサン劇場」は、1953年に阪急塚口駅前に「塚口劇場」として開館。その後1978年に現在の建物のオープンにあわせて再スタートを切った、昔懐かしい“町の映画館”。4つあるスクリーンでは、シネコンでも上映されるファミリー向けの大作映画もかけながら、シネコンで上映が終了した作品やミニシアター系の作品を上映するなど、常にバラエティに富んだラインナップが用意されている。
兵庫県尼崎市にある塚口サンサン劇場


公式アンバサダーを務めるのは、アメコミ侍の柳生玄十郎のYouTubeチャンネル「しゃべんじゃーず」。応援動画では劇場に直撃取材を行い、スタッフの案内のもとで魅力を深掘り。“塚口音響”と呼ばれるこだわりの音響設備から、マサラ上映(※主にインド映画の上映で、映画に合わせクラッカーを鳴らしたり踊ったりする体感型イベント)を機に劇場の特徴のひとつとなったイベント上映、さらには快適な環境で映画を観てもらいたいというスタッフの想いが結実した“日本一綺麗なトイレ”まで。これを観たら、遠方からでも一度足を運びたくなること間違いなしだ。

●サツゲキ(北海道)
1968年に札幌市の中心部に開業した大劇場の「札幌劇場」は、1970年代以降に同じ建物内にあった娯楽施設を次々と改装し、大作映画から単館映画まで幅広い作品を上映する複合映画館施設として、一時は最大で11劇場を擁する札幌市民にとっての映画の聖地だった。その後、リニューアルや名称変更などを経て「ディノスシネマズ札幌劇場」となり、2019年に建物の老朽化を理由に閉館した。
札幌の市街地に2020年に装いも新たに生まれかわったサツゲキ


そして、復活を望む市民の声に後押しされ、翌2020年に場所を移してミニシアターとして再スタートを切ったのが「サツゲキ」。サツゲキがあるのは札幌を代表する繁華街・狸小路のほぼ中間に位置する場所。ここもまた、1925年に開業した三友館を皮切りに、日活館、東宝プラザと改称や建物の建て替えを重ねながら、2011年の閉館まで100年近くも映画館として営業してきた場所。まさに、札幌市民の映画の思い出が詰まったふたつの劇場の歴史を背負った、唯一無二のミニシアターといえるだろう。

公式アンバサダーを務めるのはお笑い芸人で映画紹介人のジャガモンド斉藤。応援動画では関根ささらをゲストに迎え、横澤康彦支配人に話を聞きながら、こだわりのカフェスペースなど劇場の魅力が紹介されていく。壁一面に書かれた著名人のサインや劇場の歴史、さらにはなかなか見ることのできないスクリーンの裏側まで、貴重なものがたっぷり詰まった動画となっている。

この3館のほかにも、前身の映画館から数えると100年以上の歴史がある、八丁座(広島県)でのアンバサダー企画が進行中。「#ミニシアターへ行こう」特設サイトでは、アンバサダーによるミニシアター応援動画がまとめられているので、あわせてチェックしてみてはいかがだろうか。

■これからもミニシアターを盛り上げていくためにできること

冒頭で紹介した『侍タイムスリッパー』ような日本のインディーズ映画から、話題沸騰中のJホラー『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』(公開中)といった今後さらに注目を浴びそうな気鋭監督たちの作品、さらには往年の名作映画の再上映など、シネコンだけでは味わいきれない映画の奥深さをとことん楽しめるミニシアター。
公開2週目という異例の速さで拡大上映が決定した『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』


クラウドファンディングに参加するのはもちろんのこと、やはり実際に足を運んで、そのミニシアターにしかない空気を肌で直接感じながら映画を観ることがなによりの応援となることだろう。たくさんの映画や人と出会えるミニシアターにお出掛けして、“ミニシアター文化”を応援しよう!

文/久保田 和馬


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