コーヒーで旅する日本/関西編|職人気質の仕事で磨かれたコーヒーと、ドイツ・ウィーン伝統菓子の至福の取合せ。「BAHNHOF」

シックな黒いテントが目印の「BAHNHOF FACTORY STORE」

コーヒーで旅する日本/関西編|職人気質の仕事で磨かれたコーヒーと、ドイツ・ウィーン伝統菓子の至福の取合せ。「BAHNHOF」

1月28日(火) 0:00

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全国的に盛り上がりを見せるコーヒーシーン。飲食店という枠を超え、さまざまなライフスタイルやカルチャーと溶け合っている。なかでも、エリアごとに独自の喫茶文化が根付く関西は、個性的なロースターやバリスタが新たなコーヒーカルチャーを生み出している。そんな関西で注目のショップを紹介する当連載。店主や店長たちが気になる店へと数珠つなぎで回を重ねていく。
【写真を見る】「BAHNHOF FACTORY STORE」は広い菓子工房を併設。店頭からも製造の様子が見ることができる
シックな黒いテントが目印の「BAHNHOF FACTORY STORE」


関西編の第92回は、大阪市の「BAHNHOF」(バーンホーフ)。2003年の創業以来、大阪におけるスペシャルティコーヒー専門店の草分けとして、新たなコーヒーの醍醐味をいち早く発信してきた一軒だ。創業者の安部利昭さんは、東京の自家焙煎コーヒーの老舗、カフェ・バッハの田口護氏のコーヒー論と出会い、会社員から転身。真摯な仕事でコーヒーに向き合い、お客の好みに合わせた幅広い豆の提案で支持を広げてきた。また創業当初からスイーツとのペアリングに力を入れ、近年は本格的な菓子工房を新設。バラエティに富んだ本場のドイツ・ウィーン伝統菓子も人気を呼んでいる。職人気質の仕事から生まれる至福の取合せは、創業から20年、品質本位を貫くこの店の真摯な姿勢を体現している。
店長の安部さん


Profile|安部羊(あべ・よう)
1979(昭和54)年、大阪市生まれ。大学卒業後、不動産会社勤務を経て、2009年に「BAHNHOF」に入社。SCAJアドバンスドコーヒーマイスター、Qグレーダー資格を取得し、創業者である父の利昭さんから焙煎を学ぶ。現在は店の焙煎担当として豆の仕入れや銘柄の選定、品質管理に携わり、「BAHNHOF FACTORY STORE」の店長として、幅広いコーヒーの楽しみ方を発信している。

■大阪でいち早くスペシャルティコーヒーの魅力を発信
「FACTORY STORE」は、コーヒーとケーキのテイクアウトに特化

大阪駅からJR大阪環状線で西へ2駅。野田駅にほど近い高架下に店を構える「BAHNHOF」。ドイツ語で駅を意味する店名は、さまざまな人が行き交う駅のように、お客が多彩なコーヒーと交わる場にとの意味も込められている。「父がこの店を創業するにあたり専門学校に入学したころ、私はまだ学生でした。最初は、街の喫茶店みたいなことを始めるんだと思っていましたが、想像とは違っていましたね」とは、現在、BAHNHOF FACTORY STOREの店長であり、焙煎担当を務める安部羊さん。「BAHNHOF」は、父の利昭さんが2003年に創業したスペシャルティコーヒー専門店だ。
繁華街から少し外れた高架下にある「FACTORY STORE」


利昭さんは、長年、百貨店に勤めた後に、飲食店での独立を目指して大阪の辻調理師専門学校に入学。製パンコースで学んでいたが、この時の講師の一人だった、日本の自家焙煎のパイオニア・カフェバッハの田口護さんのコーヒー論と出会い、コーヒーの世界へと傾倒することに。折しも、スペシャルティコーヒーが世に広まりだしたタイミングで、従来とは異なる新たなコーヒーの醍醐味を広めたいとの思いから、自身の進むべき道を見出したという。卒業後は田口さんに師事して、約2年、カフェバッハのセミナーに通い、コーヒーに関する技術・知識を学んだことが、この店の確たる土台となっている。
20種を超える豆は、瓶に詰めて焙煎度別に分かりやすく陳列


開業したころ、関西にはスペシャルティコーヒーを専門に扱う店はほとんどなく、コーヒーを生鮮食品ととらえ、高品質な豆が持つ新鮮な風味を届けるという考え方は、まだ浸透していなかった。その中で、「BAHNHOF」はいち早くコーヒーシーンの大きな変化を発信してきた草分け的存在だ。それゆえ、新たな嗜好と楽しみ方を広めるまでには時間を要したが、真摯な姿勢でコーヒーに向き合い、梅田の商業施設内にも2号店をオープン。本物志向を貫き、地道にファンを増やしてきた。
梅田の阪急三番街店は豆の販売と共に、喫茶スペースも備える


創業以来、日々の丁寧な仕事で、コーヒーのクオリティに磨きをかけてきた「BAHNHOF」の味作りを体現するのが、豆のハンドピック。「どんな豆にも欠点豆は必ずあるので、この作業は欠かせないもの。初めのころは人手が足りなくて、製菓のスタッフも総出で手伝っていたと聞いています。私も最初は5キロ見るのに1時間くらいかかっていましたが、今では10分くらいまで短縮しました」と羊さん。焙煎の前と後にすべての豆を人の目でチェックすることで、クリーンな味わいを引き出している。
「FACTORY STORE」は広い菓子工房を併設。店頭からも製造の様子が見ることができる


■地元の嗜好に応える味作りと幅広い風味の提案を両立
羊さんはじめ店のスタッフは、全員がコーヒーマイスター資格を持つ

「BAHNHOF」の真骨頂ともいうべき、細やかな仕事と味作りを可能にしているのが、カフェバッハで独自に開発された焙煎機・マイスターの存在。カフェバッハの焙煎技術のノウハウとデータを組み込み、焼き上がりまでの排気量のコントロールを自動化したオリジナルの機体だ。「勘や経験に頼らない理論的な焙煎を目指す、バッハのシステムコーヒー学を体現した焙煎機。煎り止めのタイミングだけ人が判断するので、焙煎とハンドピックを同時進行でできるんです」。そう話す羊さんは、実は店に立つ以前は、コーヒーに関する知識はほとんどなかったとか。入店後すぐにSCAJコーヒーマイスター資格を取り、翌年にQグレーダー資格を取得し、利昭さんの指導で焙煎を学んだ。
中深煎りのバーンホーフブレンド480円。チェリーリキュールの芳香が印象的なキルシュトルテ750円(FACTORY STOREはテイクアウトのみ)


「コーヒーのビギナーレベルだったので、まず基本的な資格を取って学ぶしかないと思いました。ただ、ビギナーゆえに変に先入観を持たなかったので、逆に素直に知識、技術を吸収できたと思います。焙煎については再現性の高い焙煎機に助けられている部分も大きい。瓶入りで豆を陳列するので色むらがないように、見た目の美しさも大事になります」。今でも羊さんは、毎回の焙煎記録を詳細に取ることを重視し、前回焙煎した豆と同じようにできているか常に確認し、味の再現性の向上に努める。さらに、香りの判別に経験を要するカッピングの精度を上げるため、ソムリエによるワインの試飲会などにも参加。コーヒーと同じく産地、品種による風味の違いを捉える感覚を本業に生かしている。
ゲイシャやハワイ・コナ、ブルーマウンテンなど希少な豆を使ったドリップバッグも販売


現在、豆は定番のブレンド3種、シングルオリジンが約20種を、浅煎り・中煎り・中深煎り・深煎りの4つの焙煎度ごとに幅広く提案。「産地よりは焙煎度による味の違いを知ってほしい」と、焙煎の各段階で好みに合わせて豆を選べる趣向だ。そのなかでも半分近くを占めるのが中深煎りのソーン。「深めの焙煎でコーヒーらしい味わいが好まれる、大阪の好みに一番合っているのが中深煎り。地元の嗜好に合わせて、時には、中煎りに向く豆でも、中深煎りで特徴が出る場合、一つ深めの焙煎度にすることもあります」と羊さん。一方で、COEや希少銘柄も、時季ごとに2、3種がスポットで登場。普段使いから特別な豆まで、バラエティに富んだ品ぞろえでお客のニーズに応えている。

■コーヒーが進むドイツ・ウィーンの伝統菓子が充実
焙煎は羊さんと兄の龍さんが担当

さらに、中深煎りをメインにするもう一つの理由が、スイーツとの相性。創業当初からペアリングを意識した提案は、「BAHNHOF」の個性の一つになっている。「ここは創業時、カフェをメインにしていたため、当初は父が専門学校で学んだレシピを元に、種類は少ないながらも自家製のケーキとの取合せを意識していました」と羊さん。このころは厨房設備が小さく、種類は増やせなかったが、2014年に大幅に改装し、本格的な菓子工房兼焙煎所としてリニューアル。カフェは梅田の姉妹店に集約したことで、今ではケーキの種類は10種ほどに広がった。
「プロとして基本をしっかり徹底します」というハンドピックは、集中力を要する作業


それに合わせて、スイーツの監修をパティシエの江崎修さんに依頼。江崎さんはドイツで製菓製パンの修業を積み、利昭さんが学んだ専門学校で製パンの主任教授を務めた後、2016年に惜しまれつつ閉店した玉造のドイツ・ウィーン菓子専門店・ヴィーナローゼのオーナーシェフとしても腕を振るった大ベテランだ。「江崎さんは、常々“コーヒーを飲むためにケーキがある”という思いをお持ちで、そのコンセプトの元に、現地の伝統的な菓子を実直に再現しています」

創業以来の定番である、ドイツ版のチーズケーキ・ケーゼクーヘンをはじめ、王冠に見立てたクランツクーヘン、軽やかな口溶けが魅力のカルディナールシュニッテンなど、手間暇かけた本場の伝統菓子の数々は、濃厚なバタークリームを使うのが特徴の一つ。まろやかでコクのある甘みは、中深煎りのビターな香味とボディ感がぴったり。サイズも大きめで、ケーキ1つでコーヒー2杯飲めるくらい。大阪では数少ない、本場のドイツ・ウィーン菓子がそろうとあって、いまやケーキ目当てのお客も少なくない。
ケーキは約10種。ドイツ・ウィーンの伝統菓子を時季ごとに入れ替えながら提案


コロナ禍で一時中断しているが、以前からクラッセというコーヒー教室も続けてきた「BAHNHOF」。「店に立って15年、培ってきたものに新しい試みも加えて、コーヒーをこれから始める人にも楽しみを伝えていきたい」という羊さん。今まで扱ってない産地の豆も積極的に提案し、ゲイシャやハワイ・コナなど希少なコーヒーを手軽に楽しめるドリップバッグも好評だ。2019年には、大阪で開催されたG20サミットの晩餐会で提供するブレンドコーヒーも担当。「店で扱っている産地が20か国だったこともあり、G20にちなんで、本当に20種類の豆を使ってブレンドを作りました(笑)。うちのオリジナルとして、今でも人気です」。大阪を代表するスペシャルティコーヒー専門店として厚い支持を得る「BAHNHOF」だが、専門店にありがちな堅苦しさとは無縁。「お客さんが興味を持たれたことには、何でもお答えしますよ」という、気さくな雰囲気が心地よい。職人気質の仕事のクオリティを追求する、真摯な姿勢から生まれるコーヒーとケーキの至福の取合せは、創業から20年たゆまぬ積み重ねの賜物だ。
香り華やかなパナマ・ドンパチ・ゲイシャ、苦味とコクのあるイタリアンブレンド、2種の豆を使ったコーヒーゼリーはロースターならでは


■安部さんレコメンドのコーヒーショップは「Whitebird coffee stand」
次回、紹介するのは、大阪市北区の「Whitebird coffee stand」。
「店主の福崎さんが手掛けていたボルダリングジムで、兄が知り合いになったのが縁で、開業の際にコーヒーのトレーニングに来ていただいて、うちの豆を使っていただいています。夜遅くまで開いていて、時間やシーンに合わせたメニューがあり、幅広い使い方ができるのが魅力。梅田のど真ん中にありますが、意外に目立たない立地で、隠れ家的な雰囲気もある、知る人ぞ知る憩いのスポットです」(安部さん)

【BAHNHOFのコーヒーデータ】
●焙煎機/バッハ マイスター 5キロ(半熱風式)
●抽出/ハンドドリップ(CAFEC)
●焙煎度合い/浅~深煎り
●テイクアウト/ あり(480円~)
●豆の販売/ブレンド3種、シングルオリジン約20種、100グラム750円~


取材・文/田中慶一
撮影/直江泰治

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