錦織圭の助言も取り入れた園部八奏全豪オープンジュニアを制した17歳の素顔

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錦織圭の助言も取り入れた園部八奏全豪オープンジュニアを制した17歳の素顔

1月27日(月) 8:25

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頂点を射止めたウイニングショットは、左腕の強打で相手を押し込んでから、柔らかく沈めるボレーだった。

全豪オープンのセンターコートで行なわれた「女子ジュニア部門」の決勝戦。沢松和子さん(全仏オープン・ウインブルドン)以来、日本勢として56年ぶりとなる四大大会のジュニア女子シングルスを制した17歳は、コーチや家族が見守る一角に身体をひるがえすと、笑顔を咲かせ拳を振り上げた。

やや控えめなこの歓喜の表出は、6-0、6-1のスコア、わずか54分の圧勝ゆえだろうか。あるいは園部八奏(そのべ・わかな)にとって、これはあくまで始まりにしかすぎない、との思いがあるからかもしれない。

園部八奏は埼玉県出身、2008年生まれの17歳photo by Getty Images

園部八奏は埼玉県出身、2008年生まれの17歳photo by Getty Images



園部は3年前から、錦織圭も拠点とする米国フロリダ州のIMGアカデミーを拠点に、日々腕を磨いている。渡米理由も錦織と同じく、日本テニス協会名誉会長の盛田正明氏が設立したテニスファンドの特待生としてだ。

IMGアカデミーは、誰もが「弱肉強食」と称するテニスの虎の穴ではある。ただ、現在19歳の石井さやか、そして18歳の小池愛菜など、日本人も少なくない。

私生活でも優しい兄を持つ園部は、ひと足先に世界で活躍する"お姉さん"たちにも囲まれて、長い手足を伸び伸びと振り抜き、ボールを打ち抜いていたようだ。その天真爛漫さは、石井の目にも「怖い物知らずで、うらやましい」と映ったほどだった。

そんな彼女が、「いつも、みんなのあとをついて回っていたので......寂しいです」と心細そうにつぶやいたのは、昨年9月のニューヨーク。全米オープンのジュニア部門が開幕した頃だった。

グランドスラムジュニアは、18歳以下の選手にとって世界最高峰の舞台。その頂点をともに目指した石井や小池らも、時が訪れれば当然ながら、ジュニアを卒業していく。そのため昨年の全米オープン時には、園部が慕う顔は少なくなっていた。

突如として年長者の立場になった園部の心細さは、遠く日本にいた兄の目にも「寂しそうだな」と映るほどだったという。それでも園部は、この時の全米オープン・シングルスで決勝に進出。決勝では「緊張して力を出しきれなかった」と唇を噛んだが、この世代では自身がすでにトップレベルであることを手応えとして持ち帰った。

【8割くらいの確率で読みが当たる】それから、4カ月──。陽光を浴び、背筋を伸ばして全豪オープン会場を歩く彼女は、風格とも言える気配をまとっていた。

「もう、全米オープンの時みたいな寂しさはなくて。自分が勝つぞ、という気持ちのほうが大きいです」

笑みとともに口にしたその言葉を、彼女はコート上でも着実に実践していった。

長い左腕を振り抜き打ち込む強打は、フィジカルの成長にともない、威力と精度を増した様子。それ以上に今大会の園部が示した変化は、「予測能力」の向上だった。

たとえばリターンの時には、相手のサーブコースを読みきったかのように、トスが上がった瞬間にポジションを変える。しかもその大半が、見事に当たっているようだった。

あるはストローク戦でも、相手がボールを打ち返した時、園部はすでにコースに入っていることが多かった。実際に、園部は「長い打ち合いになっても、8割くらいの確率で読みが合っている」とうれしそうに目じりを下げていた。

その「読み」が当たるのは、もちろん幸運でも偶然ではない。先々の展開を予測しプレーすることは、実は園部が昨年から課題として挙げていることだった。

ただ、昨年7月のウインブルドン時には「まだ2本先くらいしか考えられない」と苦笑い。その彼女が先々のラリーでも予測できるようになったのは、本人曰く「ショットの質」にあるという。

「自分がしっかり打てば、だいたい相手が次にどこに打ってくるか予測できる。次の次......くらいまでの展開は読んでいける」

その感覚を、彼女は今大会で急速につかんでいた。

もっとも、それができるようになったのは、オフシーズンでの意識的な取り組みが大きい。

現在、IMGアカデミーで盛田ファンド生を指導する弘岡竜治コーチは、「このオフはフットワークに力を入れました」と言う。それも、単にスピード等を上げるだけではない。「相手のショットを予測し打ち返す」ことを目的とし、試合を想定したコート上でのトレーニングに時間を割いた。

【八奏の名前に秘められた想い】さらには、リターンでの「読み」もオフシーズンで取り組んだこと。ただこの点に関しては「ちょっとした助言」で大きく改善したと、弘岡コーチは明かす。

「もともと予測はしているけれど、それを信じていなかったり、うまく使えていなかっただけだと思います。『予測してみたら』と言ったら、サラッとできるようになった。今までは予測しても先に動くということをまったくせずに、来たボールに反応しているだけだった。そこを意識することで、予測を使えるようになったという感じです」

その「予測」の力を最も信じ、最も効果的に生かしたのが、決勝戦のクリスティナ・ペニコバ(アメリカ)戦だった。この試合の園部は、相手のファーストサーブでも50%の確率でポイントを取り、セカンドサーブでは実に69%を自分のポイントにつなげた。

なおオフシーズンには、IMGアカデミーの大先輩である錦織圭から、こんな助言を受けたという。

「コートチェンジのあとに、走ってタオルを置きにいくといいよ」

ベンチに座った状態から、走ったりスキップや足踏みをすることで、身体が動き、頭がリフレッシュして冴える。その助言もすぐに取り入れ、「すごくよかったです!」と広げる笑みには、人懐っこい"妹気質"が光った。

174cmの大器は、まだまだ心身ともに、しなやかに成長中。器には次々に新たな情報が注ぎ込まれ、そのたびに彼女は結果と自信の好循環を猛スピードで回転させている。

聞けば、目にも耳にも美しい「八奏(わかな)」の名には、アラビア数字の「8」を「インフィニティ=無限」に見立て、「無限に奏でる」の意が込められているという。五感で吸収したことごとくを養分とし、瑞々しさと風格の和音を奏でながら、園部は大きなストライドで、トップへと続く階段を駆け上っていく。



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