昨年12月に開催された「東京コミコン2024」のステージ「東京“怖”コン」にて、共に1月24日公開の『嗤う蟲』(公開中)と『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』(公開中)のコラボステージが実現。PRESS HORROR編集部はこの機会に、『嗤う蟲』でメガホンをとった城定秀夫と、『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』で総合プロデュースを務めた清水崇に対談取材を敢行した。『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』の近藤亮太監督が聞き手を務め、先輩監督らの創作の秘密に迫った。多作で売れっ子な2人の目に映る、日本映画界の現状とは?
【写真を見る】背筋が凍り付く、この世ならざる恐怖の世界…『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』
■「清水監督のように、なにかが得意な監督になりたいという思いがあります」(城定)
「第2回日本ホラー映画大賞」で大賞を受賞した同名短編を長編化し、清水監督の総合プロデュースのもと近藤監督が商業映画監督デビューを果たした“新次元Jホラー”『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』。幼いころに弟が失踪してしまった過去を持つ兒玉敬太(杉田雷麟)のもとに、弟がいなくなった瞬間が映しだされた1本のビデオテープが送られてくる。霊感を持つ同居人の司(平井亜門)、失踪事件を追いかける記者の美琴(森田想)も巻き込み、彼らは人が消える“山”へと誘われていく。
さまざまなジャンルの作品を手掛ける城定監督が、深川麻衣を主演に迎えた『嗤う蟲』は、実際に起きた村八分事件をもとに、現代日本に隠された”村社会”の実態を暴く物語。田舎でのスローライフを夢見て移住してきた若い夫婦が、禍々しくも抗うことのできない村の掟と村人たちの狂気に呑み込まれていく様が描かれていく。近年流行の“村ホラー”とはまた一味違った、ジャンルレスな恐怖が味わえる一本だ。
――清水監督と城定監督は、今回が初対面だとか。
城定「そうですね。でも、実はうちの妻が清水組のスタッフだったんですよ」
清水「え、そうなんですか?」
城定「参加していたのは『幽霊VS宇宙人』です」
清水「そうなんですね!あれは当時、本業の商業映画と別で合間を見てつくっていた、ほとんど自主映画のような作品でした」
城定「年賀状もいただきましたよ」
清水「懐かしいですね。実は僕も、城定さんの作品はエロものも含めて拝見してました。舞台挨拶も見に行っています。客席からの城定さんしか見たことがなかったので、どういう方なんだろう?と思っていました。どういう作品を撮ってもあるレベルを優に超えてくる印象で」
城定「僕も近年の清水さんの作品はどれも劇場で観ていますよ。清水さんの映画は自分がやってないジャンルなので、嫉妬を感じずに素直に楽しめるんです。だから、欠かさず観ようと思ってるわけじゃなくても、気付いたら観ているという」
清水「ありがとうございます!」
――お互いの作品をご覧になっていて、羨ましいな、と思う点はありますか?
清水「僕からすると、こんなに色んなものが撮れるのが羨ましいというかすごいなと。『アルプススタンドのはしの方』なんかを観ても、振り幅があって『こういうのも撮れるんだ、いいな』と。どんなにコメディを撮りたいって言っても、僕はどうしてもホラーを求められてしまうので」
城定「逆に、あるジャンルにおいて頂点を極めているのは羨ましく感じます。僕の場合、強いて言えばエロですけど、風前の灯のジャンルなので。清水監督のように、なにかが得意な監督になりたいという思いがあるので、一つのジャンルに特化しているのは羨ましいです」
■「3Dも4DXも、最先端技術はエロとホラーによって開拓されてきた」(清水)
――お2人のキャリアの転換点はどこだったのでしょう?
清水「僕は映画美学校で、黒沢清さんや高橋洋さんという講師との出会いがあったおかげでここまで来られた。そのことでホラーから逃れられなくなったというのもありますけど(笑)」
城定「僕の場合は、やっぱり『アルプススタンド』ですね。あれを撮って、ちょうど世の中の気分と合ってきたように思うし、以降、来る仕事の内容が変わってきた実感があります。それまでの仕事も楽しくやっていたんですけど」
清水「『アルプススタンド』は、撮影時からそれまでと違う感じがありましたか?」
城定「予算はそれまで同様低かったですが、手応えは感じてましたね。これはいいな、という」
清水「キャスティングも素晴らしいですよね。元野球部員の藤野を演じた平井亜門くんは『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』にも出演しています」
城定「彼は出演が撮影の一週間前に決まったんですよ。それであれだけの芝居をしてくれたので、すごかったですね」
――お2人とも、ジャンルは違うけれど、それぞれのジャンルでご活躍されています。
城定「エロとホラーって似ているところがありますよね。どちらも低予算ではあるけど、でも『やってやるぞ!』っていう」
清水「どこまで見せずにやるか、工夫がいる点も似てますね。3Dでも4DXでも、時代時代の最先端技術の一般普及はエロかホラーから開拓されていきますよね」
城定「低予算だけどおもしろいものをつくるというのに適したジャンルなんでしょうね」
清水「やっぱり本能に根ざしてますからね」
城定「清水さんの映画は予算がありそうで羨ましいです」
清水「いやいや…意外と毎回パツパツですよ(笑)」
城定「そんななかでも工夫してやられているのも伝わってきます!」
■「商業ベースで続けていくには、数字の責任を監督も持つべきだと考えています」(清水)
――お2人ともキャリアは低予算のVシネマから出発していますね。
清水「元々は、Vシネといえばヤクザかエロかだったのが、『リング』でブームになってから急にホラーが増えたんです」
城定「Vシネ界隈では、オリジナルビデオ版の『呪怨』の衝撃は大きかったですね。Vシネでああいうホラーはなかったですから」
清水「今もそうですが、Vシネの現場は低予算だったので、『呪怨』の時は9日で2本撮りました」
城定「そんな感じでしたよね。でも、だからこそ色々工夫が生まれるジャンルでもありますね」
清水「そうですね。限られた予算や日数でどういうふうに撮るか…腕試しですね」
城定「多少失敗してもあまり文句を言われないから、思い切ったことができるメリットもありますね。そういう、低予算でチャレンジできるジャンルは続いてほしいなと思います」
清水「低予算で一つヒットすると、恵まれた環境で次を撮れることもあるけど、潤沢な予算があっても成功するとは限らない」
城定「それもまたおもしろいですよね。必ずしも予算や時間があればいい、というものでもない」
――低予算映画と予算の潤沢な映画、それぞれのメリット、デメリットはなんでしょうか?
城定「低予算だとお金がないことの不自由さはあるけど、そのぶん自由にやれます。メジャーだとお金があるから派手なシーンができたりするけど、プロデューサーがたくさんいて、色々と注文が多いこともある。だから僕は作品ごとに、職人的に楽しんでいますね」
清水「予算が大きくなると宣伝費も上がって期待値も上がりますから。ある一定の数字を達成しないといけない責任を、監督は持つべきだと思っています。商業ベースで続けていくとはそういうことなんだと」
城定「ヒットしないとどれだけの人が不幸になるのかと考えると、責任重大ですよね」
清水「そうですよね。次の企画も通りにくくなるのもありますし。その場その場でどうしたいかだけでなく、次につながるかどうかは意識しています」
城定「それらを全て凌駕して面白いものをつくるという才能もあるけど、僕はそういうタイプではないので、求められているものをつくることを大事にしています」
■「企画はどれが成立するか分からない。同時に進めないと、ポシャったときのショックが大きいんです」(城定)
――お2方とも非常に多作ですが、多作であることにメリット、デメリットは感じますか?
清水「振り返ってみると、忙しいのが楽しくてしょうがない時期は多作だな、とか、プライベートで色々ネガティブなトラブルがあったときは、なんだかあんまり撮ってないな、とかありますね」
城定「映画ってどれが成立するか分からないんですよね。5年かけても実現しない企画もたくさんあるので。だから僕は来たものはどれだけやれるか分からないけどやってみようと。そしたら、意外と成立する本数が多くて、そうなると、同じ年にすごい本数が重なる」
清水「このあいだ数えてみたら、僕はこの5年で7本撮っていました」
城定「でも全部早く撮ったわけじゃなく、それぞれ2、3年かかっていたりしますよね。10年かけても成立しない企画もある。同時に進めないと、ポシャったときのショックが大きいんですよ」
清水「そうなんですよね。日本の場合、いまだに企画開発費があまり出ないケースがほとんどなので、プロデューサーや監督は完成するまでまったくお金にならなかったりもして…」
城定「すべてではないですけどね。もちろん、途中でダメになったらそのぶんは支払います、という作品も、特に最近はだんだん増えてきてます。じゃないと迂闊に仕事を受けられない」
――最後に、今後撮っていきたいものはありますか?
城定「いままで実はホラーはほとんどやってきていないので、正面から取り組んでみたい気持ちはあります。今回『嗤う蟲』は、ストレートなホラーとはちょっと違ったので。いままでは想像つかなかったところがあったんですが、今回『嗤う蟲』を経験したことで、やってみたいなという気になりました」
清水「それは観てみたいですね。僕は、もうずっと言ってるんですが、コメディがやりたいです。ずっとやりたい企画があるんですが、なかなか機会に恵まれなくて。でも新しいホラー映画がどんどん出てくると、負けてられないな、という気になってまたやりたくなるんですよね。城定さんが撮ったらまたホラーをやろうってなるんじゃないかな」
取材・文/近藤亮太
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