1996年製フェラーリF355 GTS。2月4日に開催されるRMサザビーズのオークションに、かつての所有者であるF1ワールドチャンピオン、ミハエル・シューマッハとの深い関係性を持つ特別な一台が登場する。
【画像】ミハエル・シューマッハが所有していたフェラーリF355 GTS(写真9点)
シューマッハが初めてフェラーリに加入した1996年。その年の初めに用意されたのが、今回出品されるF355 GTSだ。新進気鋭のチャンピオンとしてフェラーリに迎えられた彼に相応しい一台として、シューマッハ自身が仕様を決定したとされる車両。カラーはブルー・ル・マン、内装はペル・クレマ。エンジン音の響きがサーキットの轟音とは異なる穏やかな日常の走りを象徴する。搭載された伝統の6速マニュアルトランスミッションは、ドライバーズカーとしての特性をさらに引き立てるものとなっている。
現オーナーがこの車を手に入れたのは2004年。モナコ・ヒストリックグランプリのオークションで購入された。当時、シューマッハの個人車両として売却されたこの車には、彼のサインがシート裏に残され、公式フェラーリディーラーでの整備記録も確認されている。購入後、オーナーはこのF355 GTSを単なるコレクションではなく、走らせる喜びを享受する存在として活用した。ベルギーからモナコへ、また数々の車イベントへと、この車は現代においてもその走行性能を誇示してきた。
この車の特別性を示すもう一つの要素が、シューマッハ自身との直接的な繋がりだ。2012年、F1ベルギーGPの際、オーナーがシューマッハにこの車の写真を見せたところ、彼は即座にその車を思い出し、「情熱を持つ愛好家に渡ったことが嬉しい」と語ったという逸話がある。車好きの心を捉えるエピソードの数々が、このF355 GTSの魅力をより一層際立たせている。
この車は、2020年にフェラーリ・クラシケ認定を取得。オリジナルのシャシー、トランスミッション、ボディワーク、そして特注されたカラーリングが確認されている。エンジンは交換されているものの、当時の正規仕様に適合したタイプを搭載。シューマッハが新車時に特別なエンジンを指定していたという噂もあるが、その詳細は未確認だ。このエンジン交換もまた、2004年以前に行われたものである。
また、このF355 GTSは多くのメディアに取り上げられてきた。Forza誌やFerrari World誌、Auto Trends誌に掲載され、ミニチャンプスによる1:43スケールのモデルカーにもシューマッハとの関連性が反映されている。2017年にはスパ・イタリアで「Best of Show」に輝くなど、その存在感は圧倒的だ。
走行距離は現在47,500km未満。過去の整備記録も整然と保管され、2024年9月には主要な整備が実施された。ウィンドウやブレーキパッド、タイミングベルト、スパークプラグ、バッテリーの交換が行われ、ダッシュボードの修復といった内装の整備も含まれている。
シューマッハが築いたF1での伝説的なキャリア。その輝かしい歴史にリンクするこのF355 GTSは、フェラーリが持つ近代的なレーシングカーの進化の中で、確固たる地位を占める。シューマッハの所有物という背景を抜きにしても、極めて稀少な仕様、職人による丁寧な仕上げ、そして卓越した運転性能が、この車を特別な存在たらしめていると言えよう。
まさに見逃せない一台だ。時代を超えたエレガンスとシューマッハのスピリッツを感じさせるこのF355 GTSは、オークションの舞台に輝きをもたらすだろう。
Photography: Willem Verstraten Fotografie ©2025 Courtesy of RM Sotheby's
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