かつては企業誘致で栄えた地方都市が急速な荒廃に直面している。不況によって、地元を支えてきた大手企業の工場閉鎖・縮小が相次いだためだ。活気を失い、まるで“ゴーストタウン”と化した現在の街に迫った。
月2000円の賃料も…のどかな田舎に乱立する大量の空室アパート
「日本一家賃が安い町」としてたびたびメディアやユーチューバーに取り上げられる、大分県の杵築市。
築20年ほどの1Kで1万円以下の部屋だけでなく、賃料2000円の激安物件もあるから驚きだ。
たしかに、現地を車で走ると、人口2万6000人ほどの自然豊かな田舎町にしてはアパートの数が異常に多い。しかもその大部分が空室なのだ。
なかには、5棟40室がすべて空室で共用部分の天井は剥がれ、ドアノブが錆びついて廃墟のようになっている物件も見られた。
リーマン・ショックで崩れた“工場バブル”の余波
近くの市街地には大きなスーパーやドラッグストア、コンビニなどがあり、それなりに栄えているにもかかわらず、人の気配がないアパートが乱立。
ちぐはぐな様子に気味の悪さを感じたが、こうなった理由を「かつての工場バブルの影響」と話すのは、生まれも育ちも杵築市の市議会議員・泥谷修氏だ。
「それらのアパートは、1984年に設立された杵築東芝エレクトロニクス、1999年に設立されたキヤノンマテリアルなどで働く人のために建てられた単身者用住宅です。しかし、’08年のリーマン・ショックの影響で、キヤノンマテリアルと、自動車通勤圏内である隣の国東市の大分キヤノンが派遣社員を1000人程度削減した。
杵築東芝の工場をそのまま流用し、500人程度が働いていたアムコー・テクノロジー・ジャパンも’21年3月に工場を閉鎖したので、杵築市を離れる人が増え、空室が目立つようになってしまいました。農家がJAから融資を受けて建てた物件も多く、空室だらけでローンが返せず、あえなく自己破産したケースも多いようです」
賃料のインパクトの反面、昔からの店は存続している
ただ、昔から市に住んでいた人にとっては「影響はさほどなかった」とも語る。
「バブルの頃と比較するから急激に衰退したように見えますが、瞬間的に人口が増えただけ。バブル当時に造られたアパートに空室が増え、一部の飲食店は潰れましたが、以前からある店はそのままです。リーマン・ショック時の報道と、賃料の安いアパートが悪目立ちしているのかもしれません」
一次産業や観光産業があり、工場に依存していなかった
今の市の状況を行政はどう捉えているのか。杵築市役所の職員にも話を聞いた。
「キヤノンの従業員減少やアムコーの撤退の影響は少なからずありましたが、市の存続が危ぶまれる、というほどではありません。杵築市はハウスみかん栽培などの一次産業や、杵築城や武家屋敷を活用した観光産業なども盛んなので、大きな工場だけに依存していなかった点が幸いしたかなと」
杵築市のように複数の産業を持つことが、ゴーストタウン化を食い止める一手なのかもしれない。
取材・文/週刊SPA!編集部
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