ロバート秋山らNHK大河で注目「芸人は芝居がうまい」説!その理由は“ゴールの明快さ”にアリ

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ロバート秋山らNHK大河で注目「芸人は芝居がうまい」説!その理由は“ゴールの明快さ”にアリ

5月5日(日) 8:45

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お笑い芸人は芝居がうまい。その説が最近、急速に広まっている。きっかけのひとつは大河ドラマ『光る君へ』(NHK日曜総合20時ほか放送)だ。

ロバート秋山、はんにゃ.金田、矢部太郎の3人がよくあるピンポイント出演ではなく、主要な役で起用されて注目された。

『光る君へ』でのロバート秋山・はんにゃ.金田・矢部太郎



紫式部が大作家になる前のお話『光る君へ』で秋山が演じているのは平安時代の貴族の歴史資料としても重要な『小右記』を書き残した藤原実資。高い知性を持ち、いまの政治に不満を抱く良識派の役をくすっと笑えるキャラに仕上げている。

はんにゃ.金田は、見目麗しく家柄もいい貴族のひとり藤原斉信を演じている。イケメンの誉も高い町田啓太(藤原公任役)と並んでも遜色(そんしょく)なく、ハマり過ぎて、「はんにゃ.金田だったの?」とあとで気づくくらいの貴族っぷりだ。

ファーストサマーウイカ演じる清少納言との恋の駆け引きはややコントみたいだったがそれもまたいとおかし。

矢部は紫式部ことまひろ(吉高由里子)の従者・乙丸役で、貴族ではない庶民役。華奢(きゃしゃ)で小柄で、強面の人にすぐ暴力でのされてしまうような頼りなさだが、忠実な人物を丁寧に演じている。

カラテカ矢部のお笑い芸人としての歴史を感じた



『光る君へ』がはじまったとき、秋山と金田の貴族っぷりが話題にされていたが、ここのところ、乙丸の株が上がっている。彼の場合、『大家さんと僕』という大ベストセラーを持つ漫画家というイメージが強いが、直近の第17回では、カラテカ矢部のお笑い芸人としての歴史を感じた。

「殿様も仰(おお)せにならないことを私がお伝えするのはいけないことかもしれませぬが……」と逡巡(しゅんじゅん)しながらも、ダッとまひろの前に走り込みひざまづいたときのメリハリや、その前にまひろに声をかけられ「とんでもないことでございます」と主人と目を合わせられない謙虚さと、でもまひろの病が全快した喜びを全身で伝える動作などが最たるもの。疫病で死んだ人を見つめる表情には情感が溢れていた。

基本、猫背気味で伏し目がちで、なにごともおぼつかなさそうだが、必要な型は的確に再現するし、動作と動作に変わるキレがよく、ふとした瞬間に鋭さが垣間見える。

お笑い芸人が芝居が巧いと言われる理由



お笑い芸人がなぜ芝居が巧いと言われるのか。それは言葉と身体表現を駆使して、情報を明確に伝えることに長けているからだ。

芸人たちは自身の発想したおもしろいことを観客に正確に、明瞭に、絶妙の間合いで伝える。それで多くの人たちが笑うのだ。冴えた発想は凡人には真似できないが、“伝える技術”や“プレゼン”などのノウハウは彼らに学べるところがきっとある。

明確さで言うと、実はむしろ俳優のほうが、漠然(ばくぜん)とした感情にリアリティを求めたり、人の数だけ感じ方が違うことを目指すあまり、表現をわかりにくくしてしまったりする場合もある。その点、お笑いの場合、ゴールはただひとつ笑いなので、明快なのだ。

芸人から俳優に転身した安井順平が語った、芝居の作り方の違い



お笑い芸人から俳優に転身し、いまや名バイプレイヤーとして欠かせない安井順平に取材したとき、こんな話を聞いた。

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お笑い芸人と役者の芝居の作り方の違いを、医者を演じるときを例にして、役者はまず医者とはどういう仕事か、あらかじめ文献を調べたり、あるいはその現場を見て学習したり、所作を何度も練習し、いかに自然にできるようになるかというような練習も行うものだが、芸人だった安井は、「『その人に見えちゃえばいい』という考え方なんですよね」と言った。

「『メスを持った瞬間の姿形がそれっぽい』というような作り方なんです。そういうアプローチはコントの作り方の延長にあるんです」と(+act.2023年5月号より)。

ちなみに安井は現在『アンメットある脳外科医の日記』(カンテレ)で病院の院長を鮮やかに演じている。

万人が瞬時に理解できる記号的な表現を磨きあげる。この考え方に近いと思えるのが、ロバート秋山であろう。『光る君へ』の実資は、秋山がいろいろな職業の特徴を見事に演じる企画『クリエイターズ・ファイル』のひとつのようで、好意的に受け入れられている。

原田泰造、3時のヒロイン福田による生活者のリアル表現



1月期、福田麻貴(3時のヒロイン)が『婚活1000本ノック』(フジテレビ)でヒロインを演じて話題になった。婚活する女性のリアリティーがあって女性視聴者の共感を得ると好感触だった。

以前なら、こんな人は実際にはいないというような理想のヒロイン像を、憧れのキラキラのアイドルやザッツ女優が演じていたが、昨今は、もっと身近な雰囲気が親しまれる。そういうときに、お笑い芸人は最適なのだ。

生活者のリアル表現の最高峰といっていいのが原田泰造であろう。

同じく1月期の『おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか』(フジテレビ)で彼が演じたのは、昭和の価値観に縛られた人物。家でも会社でも煙たがられているおじさんの放つ昭和の暑苦しさから、おずおずと思慮深い人物にアップデートしていく変化の表現は、若い世代も受け入れようとする歴史的建造物のようなムードがあった。

堀部圭亮、塚地武雅、今野浩喜、朝ドラで役の特徴をはっきり押し出せる演者が活躍



現在放送中の朝ドラ『虎に翼』(NHK)に、自白を強要するこわ~い検察官役で出演している堀部圭亮も、以前は芸人(や構成作家)もやっていたが、いまや俳優としか思えない。朝ドラだけでも、『カムカムエヴリバディ』の荒物屋の主人(とその息子の二役)や『花子とアン』の堅物アナウンサーなど、シリアスな役もユーモラスな役も自在に演じている。

法律事務所所長・雲野役を演じる塚地武雅もかなり俳優色が強い。森田芳光監督の映画『間宮兄弟』では多くの賞を受賞している。コント番組『LIFE!』にも欠かせない芝居のできる芸人と信頼度が高い。

朝ドラのような老若男女が見る番組だと、やっぱり役の特徴をはっきり押し出せる演者が重宝されるのだろう。今野浩喜も朝ドラで重宝されている印象だ。

男性ブランコの俳優業にも期待



さて、これから俳優業にも期待したい芸人は誰だろうか。2021年キングオブコント準優勝、2022年M-1グランプリファイナリストになった男性ブランコの浦井のりひろと平井まさあきを挙げたい。

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彼らは、第170回直木賞を受賞した万城目学のデビュー作を原作にした『鴨川ホルモー、ワンスモア』(脚本・演出:上田誠〈ヨーロッパ企画〉)に男性ブランコが俳優として参加した。

『鴨川ホルモー、ワンスモア』は万城目の『鴨川ホルモー』とその外伝的続編『ホルモー六景』を原作にした、京都の大学生が千年もの歴史ある謎の競技・鴨川ホルモーを繰り広げる青春群像コメディだ。

中川大輔、八木莉可子、鳥越裕貴、清宮レイ(乃木坂46)、佐藤寛太など若手俳優たちのなかに上田誠の主宰する劇団ヨーロッパ企画の面々と男性ブランコやお笑いコンビ・かもめんたる(岩崎う大と槙尾ユウスケ)が参加して、フレッシュさと技巧がうまく混ざった座組で密度が濃い、ノンストップの2時間だった。

浦井は京大青竜会メンバーで双子の三好兄弟の弟を演じ(兄役はヨーロッパ企画・角田貴志が演じた)、双子あるあるで盛り上げた。相方とは違う俳優とのコンビ芸のようなことを行う器用さに唸(うな)った。

平井は京大青竜会メンバーの松永役。原作者も忘れていたというほど影の薄い松永という人物を、前髪ぱっつんの髪型で、ホルモーのポーズを決めるとシュールで、集団のなかで目立ち過ぎず埋もれきらない絶妙な存在感だった。

男性ブランコ、藤井隆群像劇に美しく溶け込んでいた



映像でも演劇でも、お笑い芸人が参加すると、芝居がうまいとはいえ、特別出演的に、ピンポイントで印象的な役割が与えられがちなこともあるのだが、男性ブランコは『鴨川ホルモー、ワンスモア』という群像劇に美しく溶け込んでいた。彼らはもともと大学では演劇サークルに所属していたそうで演劇色が濃いのだろう。

群像劇にきれいにハマっていたといえば、『カラカラ天気と5人の紳士』(シス・カンパニープロデュース作:別役実演出:加藤拓也)の藤井隆も。あれほど芸人としてキャラが濃いにもかかわらず、お芝居のなかでは堤真一、溝端淳平、野間口徹、小手伸也と見事過ぎるバランスをとっていた。

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お笑い芸人は、お芝居の世界では頼れる傭兵(ようへい)のような存在で、彼らが参加している作品は間違いないといっていいだろう。作品選びの参考にしてみてほしい。

<文/木俣冬>

【木俣冬】
フリーライター。ドラマ、映画、演劇などエンタメ作品に関するルポルタージュ、インタビュー、レビューなどを執筆。ノベライズも手がける。『ネットと朝ドラ』『みんなの朝ドラ』など著書多数、蜷川幸雄『身体的物語論』の企画構成など。Twitter:@kamitonami

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