人気講談師・神田伯山、海外映画賞アニメ主演声優をつとめるも「自分じゃなく人気声優のほうがよかった」

人気講談師・神田伯山、海外映画賞アニメ主演声優をつとめるも「自分じゃなく人気声優のほうがよかった」

4月27日(土) 8:45

提供:
2023年ファンタジア国際映画祭の長編アニメーション部門で観客賞・金賞を受賞した長編アニメーション映画、『クラユカバ』が現在公開中です。

その主人公・荘太郎役を演じるのは、今“もっともチケットの取れない講談師”と言われる六代目・神田伯山さん。声優をつとめた感想を聞きました。

講談師は声だけで感情を入れることはほとんどないので真逆



――今回、声優初主演ということで終えてみていかがでしたでしょうか?

神田伯山(以下、伯山):僕はアニメに敬意はあるんですが、とにかく疎いので、手探りの中でやっていました。本当に何が正解なのかなと迷っているところを、スタッフさんと塚原重義監督がちゃんと僕のために地図を書いてくれて。「だいたいこの辺りにいるからちょっとやってみましょう」などと明快にメッセージを出していただいて。なんとか完成まで漕ぎ着けたという感じです。

――声だけで主人公の探偵・荘太郎を演じたことの楽しさ、難しさはいかがでしたか?

伯山:声優さんは120%声だけで表現するお仕事で、我々講談師は実は声だけで感情を入れることはほとんどないんですね。お客様に想像させる余地も残すので、感情を完全に入れる作業とは真逆だったりするんです。

なのでその辺りは技術的に難しかったのですが、塚原監督がたくさん先導してくれてなんとかなったのかなと思っています。ですから声優さんのことを非常に尊敬するに至ると言いますか、改めて難しいものだなと。つくづく声優の皆様方の凄さが改めて分かったという感じですね。

「(主人公の声は)僕じゃなくてもいいですよ」



――監督の忘れられない一言など、収録時の一番の思い出は何ですか?

伯山:これ、僕もひどいのですが、途中やりながら「(主人公の声は)僕じゃなくてもいいですよ」って言っちゃったんですよ(苦笑)。

――それはどういう意味合いで???

伯山:単純に終わらないんじゃないかなと(苦笑)。いやそれ「お前降りるのか!?」っていう話なんですけれども、本当にナチュラルに僕じゃなくていいと思ったんですよね。

ちょうどSNSの公式アカウントのキャンペーンでは短いものを公開して「荘太郎の声優は誰だ!?」という問いかけをやっていて、世の中の反響も“誰だろうこの声は?”みたいな感じだったんです。その中には、声優で大変に有名な中島ヨシキさんじゃないのかという声も。だから僕も中島さんでいいんじゃないかと言いまして(笑)。

中島さんも、主演が僕だと発表されたのちに、SNSでフォローのコメントを丁寧に投稿してくれたのですが、優しくて素敵な方だなと思いました。なのでいまだに僕は中島ヨシキさんでよかったのではと思っています(笑)。

だからむしろ監督に言われた一言より、「中島ヨシキさんのほうがいいじゃないか」という僕の一言を塚原監督が覚えていると思います(笑)。

「声優もやんのかい!」という感じが出なければいいと思う



――この作品、伯山さんのファンの人々には何と言って届けたいですか?

伯山:「映画できたよー!」ということですかね(笑)。僕のことを応援してくれるお客さんたちは、素直に喜んでくれるはずなのですが…「声優もやんのかい!」という感じが出なければいいと思いますね。あと何よりアニメの邪魔にはなりたくない。

そのために一生懸命やっていて、もちろん足りていない部分も多いのですが、ハマっていたらいいと思います。自分のラジオ(『問わず語りの神田伯山』TBSラジオ)でどれだけアフレコが大変だったのかをこれまで話してきたので、そういう面も含めて楽しみに来てくれると思っています。

実はお客様って面白くて、僕が講談じゃない仕事をやっていると喜んでくれるんですよ。僕はそういうスタンスではないのですが、目新しいことをやってると楽しいんでしょうね。

意外に本人よりもキャパシティが広いというのが、僕を応援してくれているお客様だったりするので、下手なら下手という楽しみも、思ったよりも良かったならば良かったねという楽しみもある。プラス、この背景には素晴らしい作品が在りますので、期待して観に来てくださいということですかね。

クライマックスは5回録り直し



――本作は、長年にわたり個人映像作家として活動してきた塚原重義監督による初の長編アニメーション映画で、探偵・荘太郎が奇怪な集団失踪事件を追って、謎多き地下世界“クラガリ”に足を踏み入れていくミステリー作品。幻想と現実が入り混じり、どこか懐かしさも漂うレトロな世界観も魅力です。ご自身で思う名シーンは?

伯山:「クラガリに曳(ひ)かれるな」というセリフがでてくるクライマックスのシーンだったかな。そこは監督のOKが出ていたのですが、生意気にもちょっと違うかなと思い、大事なシーンだったので「もう1回録っていいですか?」と相談したんです。

それで録ったら監督も「なるほど確かにこっちの方がいいですね」と。もちろん僕は素人なので監督がOKならOKというスタンスだったのですが。あとでその話を塚原監督にしたら、いや5回録り直しましたと言ってました(笑)僕の記憶はいい加減なものです。

―― どう自分で納得したのですか?

伯山:どことなくミステリアスで聞いていて耳障りがよく気持ちよく、それでいてちゃんと荘太郎の声になっている、奥行きがある。それを聞いた後、お客様に余韻が残る、そういう感じですね。

非常に表現が難しいのですが、ミステリーはどこまでも不思議なんですよね。これで解決なんですけれども、もしかしたら続編もあるのではないかという、余韻をこの一言で表現することが大事だと思ったんですよね。

だからこそ「クラガリに曳かれるな」というのは、作品のテーマにもなっているんですけれども、そこでボソッということが大事。何度も録りましたし、納得いくものにしたいので大事にしましたね。みんな不思議が好きなんですよね。ドキドキしたり。なので、最後が閉まる、このセリフは特に大事にしようと思ったわけです。

今回の声優は「雇われ芸」



――以前に伯山さんは、爆笑問題・太田光さんのシリアスなロングトークに「ピカソ芸」と秀逸なネーミングをしましたが、今回ご自身の声の演技に「〇〇芸」と命名するなら、なんと付けられますでしょうか?

伯山:何だろうな(笑)。今回のお仕事は芸でやっているという感じでもないんですよね。雇われ芸ですかね(笑)。雇われてやっていますので。

まあすべてのものが雇われ芸ですけれども、つまり講談だと自分で監督しているわけですよね。もともとの演出 だって脚本だってありますが 、自分で原型ないくらい変えることもあり、演者自分で演出自分みたいな。そういう中でOKを出してるのは結局は自分なんです。

ところが、今回のように監督がいて、監督のOKをいただいて、主人公の荘太郎だけに関わっていくというのは、これは僕にとっては普通じゃなかったんです。

荘太郎という人物の中にどれだけ入っていけるのかということは考えました。それは面白い体験でした。

自我を出さないのは、苦労したし面白いこと



―― 講談とどちらが楽しいですか?

伯山:そりゃ講談のほうが楽しいですよ(笑)。本業ですから。自分がOK出したりすればいいだけなので。でも、雇われているということも楽しかった。今回で言うと残る作品になるので。出来上がりをみたら、とても素晴らしかったです。これは皆様のおかげです。

ただ、声優さんたちはよく演出家の言うことを聞いてるなとびっくりしました。僕みたいな自我が強い人間は、絶対演出家の言うことなんか聞きたくないと思っちゃうんですよ。

僕自身も講談で師匠の芸を継承していくにあたり、教わったことを基礎としてそっくりそのままやってという流れはあるんだけれども、そこから先は自由なものがあるから、「こうしてください」と言われると学校の授業も同じですけれども、嫌なんですよね。「やれ」と言われると反発心が生まれちゃう。

そういう面で言うと、合わせる能力が他の出演された方々は長けていらっしゃる。だからチーム芸ですよね。そう考えると、普段の僕はあくまでピン芸なんですよね。ピンとチームでやるものがこうも違うのかと、そういう発見はありました。

ただ、塚原監督のことは信頼していたので、悪いものにはならないとは思っていました。第一、作品は監督のものなので、そこは自分の自我を出さないようにというのは苦労したことでもあり、面白いことだったと思います。だからまさに雇われ芸という感じですかね。

反響をエゴサーチして報われた思い



――ちなみに最近X(旧Twitter)のエゴサーチをしなくなったそうですが、今回の作品の反響についてはいかがですか?

伯山:それが怖くて、何が一番嫌かって言うと、映画はよくできているけれど荘太郎の声「こいつじゃなくね?」っていうのが申し訳ない。そういうつぶやきもあるでしょうけれどね。だからもう一回、中島ヨシキさんで録り直してほしい。公開後でもいいので(笑)。

それぐらい僕としては作品に対して敬意を感じていますし、みんなで大事にしたいという思いが実ったものでもあります。

ただむしろ、厳しくジャッジしてくれているのは、うれしくもあります。どんな評価でも僕は人前に出る人なので甘んじて受けますよと。監督がOKを出してくれているということはそういうことだと思うので、いいように落ち着くことを願っています。

初日公開後にエゴサーチをしたら、とても荘太郎の声とあっていたと多くのポストがありました。作品も当然素晴らしいと沢山の評価が。あー、あの大変なアフレコも全て報われた思いです(笑)もちろん、本当に大変だったのは僕ではなく塚原監督とスタッフさんでしたが。素晴らしい映画なので是非、色々な方に観てほしいです。

<文/トキタタカシ撮影/塚本桃>

【トキタタカシ】
映画とディズニーを主に追うライター。「映画生活(現ぴあ映画生活)」初代編集長を経てフリーに。故・水野晴郎氏の反戦娯楽作『シベリア超特急』シリーズに造詣が深い。主な出演作に『シベリア超特急5』(05)、『トランスフォーマー/リベンジ』(09)(特典映像「ベイさんとの1日」)などがある。現地取材の際、インスタグラムにて写真レポートを行うことも。

【関連記事】
爆笑・太田も大暴れ、講談師・神田伯山のYouTubeが面白すぎる!
あのちゃんが声優初挑戦でみせた表現力。“過去の壮絶体験”とリンクするようなシーンも
メディアに引っ張りだこだった天才子役の“驚きの現在”。最新作で見せた特別な才能
まるで“相撲版スラムダンク”!Netflix「相撲ドラマ」相撲ファンも困惑しつつ絶賛のワケ
新進俳優・奥平大兼(20)挑戦尽くめの超大作で得た経験とは。新田真剣佑との共演秘話も明かす
女子SPA!

生活 新着ニュース

合わせて読みたい記事

編集部のおすすめ記事

エンタメ アクセスランキング

急上昇ランキング

注目トピックス

Ameba News

注目の芸能人ブログ