「本人が死にたかったんだから」妻の自殺でも夫は他人事。介入できない妻側親族の苦しい訴え

「本人が死にたかったんだから」妻の自殺でも夫は他人事。介入できない妻側親族の苦しい訴え

4月24日(水) 15:45

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―連載「沼の話を聞いてみた」―

入信したカルト教団の教えにより医療を拒否し、鬱が悪化した末に自死した妹。「実家の財産を教団の養分にされてしまう」というやりきれなさと、妹が不幸な最期を遂げたことで心労を背負う姉。

その経緯を、当連載へ話してくれたのは、50代の藤原麗華さん(仮名)だ。

この話の「姉」は麗華さんの母である。つまり親子そろって「妹」である叔母に振り回されてきた。麗華さん母の実家は田舎の旧家で、歴史ある立派な屋敷に暮していた。それを相続したので、叔母はそれなりの財産を持っていた。

そんな叔母が入信していたのは、仏教系の新宗教である某教団。頻繁に報道されるような有名教団ではないが、全国に支部もありそれなりの規模であると思われる。

実家がカルトの集会場に



教団への多額の献金。人の不安を煽る勧誘行為。麗華さん母の実家でもある屋敷が、集会場のように使われていたこと。そして、あきらかな精神疾患であったが“教え”によって医療を拒否し、鬱を悪化させ首を吊って自死した。

……そうした経緯から、麗華さん親子は「カルト教団」と呼んでいる。

叔母の入信がわかったのは、親族への勧誘行為からだった。麗華さんの夫の入院中に「先祖の供養をしないから、病気になった」と言われ、別の親族は妊娠中に「この家には成仏していない霊がいる」と脅された。どちらも信者仲間を伴って、訪ねて来られたという。

「父」は知らぬ存ぜぬ



勧誘行為について、真っ先に相談した相手は、叔母の夫である叔父だ。

「ところが叔父は、面倒ごとが大嫌いで、見て見ぬふりを貫くタイプ。ある程度予想はしていましたが、『うちの妻はそんなもの入っていない』とシラを切っていましたね。でも、証拠が山ほどありますから、と詰め寄ると最後はしぶしぶ認めました」

マルチ商法にしてもスピリチュアルビジネスにしても、「家族が妙なものにハマっている」体験談を聞くとき、非常によく耳にするのが、「家庭内で父親が空気」というパターンである。麗華さん叔母の家も、同様であった。

叔母が首を吊り、病院に運び込まれ延命の有無を医師から聞かれた際も、まるで他人事だったという。

「医師の説明を聞くあいだ、叔父も、そのひとり娘である姪もケロっとしているんですよ。延命をどうするかと訊かれると、『本人が死にたかったんだから結構です』と即答していました。あれは驚きを通り越し、不気味さすら感じましたね」

ひとり娘も入信の衝撃



信仰中心の生活になり家庭を顧みない叔母を、夫と娘は完全に見限っていたのだろうか?

と、思いきや、最近になって叔母のひとり娘も入信していることがわかった。

麗華さんにとっては齢の離れた従妹で、現在30代で独身だという。叔母が鬱になってからも屋敷には信者が出入りしていたらしいが、その間娘の世話を焼いてくれたのは、信者たちだったのだろうか。

「叔母の死後すぐに、ひとり娘と夫は別の土地に移り住んだんですよね。だから、まさかまだあの教団とつながっていたとは、思いもしませんでした」

叔母家のひとり娘が入信しているらしいと連絡をくれたのは、いままで叔母の信仰活動を見て見ぬふりをしてきた叔父だった。

家族に嘘をつき出かける娘



「面倒ごとが嫌いな叔父も、さすがにうろたえていましたね。娘の部屋で、叔母がいつも拝んでいた仏像を見つけたと話していました。

母親の形見として……? とも考えたものの、毎週土日になると、ジャニーズのコンサートへ行くといって、出かけるそうなんです。でも、オフ会とかならともかく、コンサートが毎週開催されるハズもありませんよね。怪しんで行先を探ると、教団の本部がある土地。ああこれは……と、みんなで肩を落としています」

麗華さん母は「あの教団ははじめから、土地と屋敷を狙っていたに違いない」と嘆く。麗華さんは「従妹はこの先、教団に奉仕する人生を送るのだろうか」と心配している。

麗華さん母は結婚で家を出て、残った妹(叔母)が親の介護を担ったので、実家の財産のほとんどを叔母が相続している。そこから叔母が自死したため、叔母が所有していた財産は現在、姪と叔父の手にわたっているのだ。

麗華さん母にとっては「元は自分の親のもの」であるが、法律上、口を出す権利はない。巷では「宗教団体に献金されてしまうから相続させたくない」という法律相談もあるようだが、麗華さんのケースは、すでに財産が姪へわたっているのでどうにもできないだろう。

宗教への不信感



もともと麗華さん一家は皆、宗教が苦手であるので、なおさら憎しみが強くなる。麗華さんの両親は「理屈にあわないことは大嫌い」という合理主義者で、最低限の墓参りはするものの、信心深さとは無縁だ。

麗華さん自身は、高校時代のトラウマがあるからだ。

「同級生で、すごく変わった女の子がいたんですよね。変わっているを通り越し、ほぼ毎日、奇行を見かけました。いまの時代なら、何かしらの診断が下りたんじゃないでしょうか。ところかまわず、走り出したり踊ったり叫んだり。でも、とてもチャーミングで明るい子でしたよ」

ところがその奇行に悩んだ同級生の親が、地元の霊能者へ相談。そして「憑き物」としてお祓いをすることとなり、その儀式によって死んでしまったのだ。

誰も幸せではない現在



「当時、地元ではニュースにもなりました。昨日顔を合わせていた同級生がお祓いで死んでしまうなんて、女子高生の自分にはショックすぎて。

他の宗教が、そのお祓いとは無関係であることはもちろんわかっています。でも、それ以来、熱心な信仰を持つ人たちが本当に苦手になってしまった。そうした考えがあるところに、叔母が自死しましたでしょう? 私のなかで、カルトは誰も幸せにしてくれない。その気持ちが、年々強まりつづけています」

信仰で沼る問題は、悩みを抱えたとき頼る先が少ないことなど、社会にも改善すべき部分が多々あるのはあきらかだ。しかし、沼の周囲にいる人たちの悩みは、当事者以上に理解されにくいように思える。

そして当事者は身近な人と距離が生じることで孤立し、さらなる深みへ沼っていくという悪循環に……。「沼の話」は、どれも痛ましい。

<取材・文/山田ノジル>

【山田ノジル】
自然派、○○ヒーリング、マルチ商法、フェムケア、妊活、〇〇育児。だいたいそんな感じのキーワード周辺に漂う、科学的根拠のない謎物件をウォッチング中。長年女性向けの美容健康情報を取材し、そこへ潜む「トンデモ」の存在を実感。愛とツッコミ精神を交え、斬り込んでいる。2018年、当連載をベースにした著書『呪われ女子に、なっていませんか?』(KKベストセラーズ)を発売。twitter:@YamadaNojiru

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