95歳の山田洋次監督と85歳の俳優・倍賞千恵子が11月8日、大阪府泉佐野市のエブノ泉の森ホールで開催された「泉佐野フィルムフェス vol.3」に登壇した。倍賞の主演作「下町の太陽」(1963)の上映後に行われたトークショーで、63年前に始まった映画作りの原点や撮影秘話を語った。進行は犬童一心監督が務めた。
倍賞は登場すると、同作の主題歌「下町の太陽」を生歌で披露。犬童監督は「もうこれで帰ってもいいみたいになっている」と笑い、会場を和ませた。
山田監督の監督第2作「下町の太陽」は、高度経済成長期の東京下町を舞台に、工場で働く女性の生き方を描いた作品。犬童監督は、山田監督の91本の監督作のうち70本に倍賞が出演していることを紹介し、「阿吽の呼吸のゴールデンコンビ」と称賛した。今回の映画祭では、2人が初めて組んだ同作に加え、「遙かなる山の呼び声」(80)、最新の共同作「TOKYOタクシー」(25)の3本が上映された。
山田監督によると、「下町の太陽」は当初、倍賞のヒット曲を題材にした歌謡映画として企画された。しかし、脚本を考えるうちに関心は下町で暮らす労働者の家族へと向かった。「彼女がどういう生き方を求め、どういう生き方を否定していくか」を追求した結果、主題歌は冒頭と最後にしか流れない構成になったという。「会社に叱られたもんですよ。『あんなの歌謡映画じゃないじゃないか』って」と当時の苦労を笑い交じりに振り返った。
撮影時、まだ21歳だった倍賞にも忘れられない光景がある。浅草・花やしき付近でのロケで、山田監督が椅子に座ったまま考え込み、たばこの火が指に近づいても気づかず、ハンチング帽が後ろへずれていったという。自分たちの芝居が悪いせいだと思い、共演の勝呂誉と何度も練習したが、監督は上の空。「悲しくなっちゃって、私はポロポロ泣いた記憶がありました」と明かし、後になって会社との葛藤を知ったという。
一方、倍賞は脚本を読んだ時から、作品の世界に親しみを覚えていた。育った東京・滝野川には小さな工場や商店が並び、子どもの頃から見慣れた人々が登場していたからだ。「早くそういう人たちの中に入ってお芝居したい」と撮影を心待ちにしていた。
山田監督は、当時の倍賞について「僕の主人公になれるような女優さんが現れた」と述懐。かつて彼女の歩き方を見た人から「生活している人の歩き方だ」と褒められた話を紹介し、「生活感がある歩き方ができる女優」と評した。「遙かなる山の呼び声」では実際に乳搾りや農作業を覚えて撮影に臨んだといい、倍賞は「私は労働、自分の仕事から映画に入っていきましたね」と語った。山田監督も「働く人たちへの敬意」を込めて、その姿を演じてもらったと明かした。
さらに倍賞は「男はつらいよ」の撮影現場を回想。店の前を自転車で通るエキストラにまで山田監督が声をかけ、家庭で何が起きているのかによって走り方も違うと指導したエピソードを披露した。「画面の隅々に映る一人ひとりの人間が生きている。その細部まで心が通っているのが山田監督の画面なんです」と、長年ともに仕事をしてきた監督の姿勢を語った。
自身も「下町の太陽」を見返したという倍賞は「自分の出ている映画なんですけど、大好きなんです。出演できたことが本当に幸せ」と思いを込めた。山田監督は初めて訪れた泉佐野の街の名を「上品で、なんだか詩があって」と気に入った様子で、「映画人の一人としてとってもありがたい」と映画祭の開催に感謝。2人そろって映画祭の末永い継続を願った。
【作品情報】
・
TOKYOタクシー
【関連記事】
・
【最新版】本当に面白いおすすめ映画ランキングTOP30絶対に何度も見るべき“傑作”を紹介
・
Netflixで観てほしいおすすめの人気映画30選~編集部厳選~
・
【本当に怖い映画30選】トラウマ&衝撃作を“ジャンル不問”で編集部が厳選