日本映画史に刻まれるスターや名作を世に送り出してきた角川春樹が総監督を務める「星の教室」(11月6日公開)で、いじめに傷ついた過去を持ちながらも、中学の夜間学級に通い始める主人公・さやか役に抜てきされた桜田ひより。いくつになっても学ぶことができる。そして、一歩踏み出すことで、思いがけない出会いが待っている――。さやかの痛みとその先にある希望を体現し、温かくも力強い存在感を放っている。
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【フォトギャラリー】桜田ひより撮り下ろしカット
桜田が作品を通して感じた“学び”の大切さや、役作りへの向き合い方、俳優として描くこれからの展望について語った。(取材・文/成田おり枝、撮影/間庭裕基)
⚫「本当の学校みたいだった」――輪の外から見つめた、夜間学級の温かな光
髙田郁による同名小説を、「わたしは光をにぎっている」(2019)、「静かな雨」(20)など繊細な人間描写で知られる中川龍太郎が監督を務め、映画化した本作。
中学生の時、いじめが原因で不登校になった潤間さやか(桜田)は、卒業を拒否して「中学中退」を選択。そのまま数年が流れた2001年、さやかは大阪の下町にあるレンタルビデオ店で、のんびりと働いていた。ある時、常連客が借りた映画「学校」で夜間中学の存在を知り、さやかは近くにある河堀中学夜間学級を偵察。学校の正門で出会った元気な女性・蕗子(浅野温子)に導かれ、夜間部の理科教師の江口(真木よう子)と社会科教師の田宮(甲本雅裕)に引き合わされた。「卒業資格のない人なら誰でも夜間学級に入学できる」と穏やかに説明する江口の前で、涙をこぼしながら「中学生活をやり直したい」とその気持ちを確かめたさやか。さまざまな境遇にある先輩たちに迎えられ、さやかの2度目の中学生活がスタートする。
両親にも心を閉ざしていた主人公が、国籍や年齢の異なる同級生たちとの交流を通して、新たな世界に触れていく姿を丁寧に描いた作品だ。原作や脚本を読んで「人の持つぬくもりに触れた感覚があった」という桜田は、「今、23歳の私だからこそできる、さやかとの向き合い方があると思いました。この機会を逃したくなかったですし、映画を観てくださる皆さんに前向きな気持ちを届けられる作品だと感じました」と確かな思いを胸に撮影に臨んだ。
中学の夜間学級に通うさやかを演じるため、クランクイン前には「夜間中学の時間割や卒業文集を読んだり、実際に通われていた方の声を聞いたり、動画を観たり、いろいろな資料に触れた」と振り返った桜田。「資料からも、年齢や国籍もバラバラな皆さんがひとつになって、授業にひたむきに向き合っていることが感じられて。“みんな、仲間だ”という空気感まで伝わってきて、その姿がキラキラと輝いて見えました。さやかとしても、教室でそういった空気を感じたいと強く思いました」と力を込める。
実際に飛び込んだ撮影現場は、「本当の学校みたいでした!」と、桜田にとっても心弾む場所となったようだ。一方、さやかはクラスメイトの輪から一歩引き、周囲の表情やその場の空気を見つめることの多い人物。「さやかとしては、その立場がとても大事になるので、皆さんが楽しくお話ししている輪に入りたいなと思いながらも、そこをグッと堪えて。休憩中やカメラが回っていない時も、皆さんのことを見守るようにしていました」と現場の様子を語る。
浅野温子や山本學といったベテラン俳優も、さやかの同級生役として出演。「浅野さん、山本さんとご一緒するシーンは、お二人の放つ熱量、エネルギーに圧倒されました。お二人ともセリフを発しながらも、力強い感情がご自身の中から生まれていることを目の当たりにしました。浅野さんも山本さんもチャーミングで気さくな方なので、その優しさに触れながら、さやかとして過ごさせていただきました。本当にカッコいい背中を見せていただきました」と語るように、大先輩たちとの共演も大きな刺激になったようだ。
⚫「学びは消えない」自分の過去を見つめることで、役は深まっていく
桜田がさやかを演じる上で、もっとも大事にしていたのは「いじめられていた過去が、さやかにとって足枷や重りになっている」ということ。「それは常に、心に持っていなければいけないと思っていました。前に進みたいけれど、どうしても過去が頭をよぎったり、それがあることで前に進めない」とさやかの心の動きについて分析しながら、「きっと誰しも、少なからずそういうことってあると思うんです」と思いを巡らせる。
数々の話題作で存在感を発揮し、俳優として着実に歩みを重ねている桜田。役作りで大切にしているのは、役だけでなく自分自身も見つめることだといい、「自分の思い出したくない過去や、マイナスな感情にも向き合うことで、それを役に投影することもできる」と持論を明かす。
5歳から芸能活動をスタートさせた桜田だが、「そうやって役に自分自身を投影できるようになったのは、最近のことで。ドラマ『silent』で風間太樹監督と出会い、風間監督と作品づくりをするなかで、生まれたものです。そうすることでお芝居にも入りやすくなりましたし、自分自身について振り返る時間が多ければ多いほど、役への理解や思いもどんどん深まっていくのではないかと感じています」と、風間監督との出会いを俳優としての転機に挙げる。
俳優業を通して、「自分自身を見つめ、新しい自分を発見することもあります。そして、知らなかった新しい世界に触れることもできるお仕事だと思っています」と充実感をにじませる。「星の教室」もまた、桜田にとって“学び”について考える機会となった。「『学びは消えない』というセリフが、強く心に残っています。学びというのは、それくらい自分の糧になるもので、これからの人生につながり、過去の自分を救ってくれることでもある。年齢にかかわらず、いつでも学ぶことを大切にしていきたいと思いました」。
⚫焼肉もカラオケも一人で。“自分は自分”と思えるようになるまで
自身の過去にとらわれ、「こんな自分でなければよかったのに」と胸の内を明かすさやか。そんな彼女に、同級生の健児(小林虎之介)が「お前は、お前だ」と声をかける場面も印象的だ。桜田自身も、人と比べて落ち込んでしまった経験があるという。
「今でもオーディションを受けますが、基本的にオーディションって一人しか合格しないものなので。10代の頃は、何回も落ち続けていると、周りと比べて、自分の悪いところをどんどん探し始めてしまっていました。ある時、オーディションはその時、その役に合うかどうかが重要なんだと。自分に対して、マイナスなことばかりを思わなくてもいいのかもしれないと気づくことができたんです」。そして「自分は自分だとブレない思いを持ちつつ、いろいろな人の話を聞いて、さまざまな感情を知りながら、俳優業に活かせたらうれしいなと思っています」と今の心境を打ち明ける。
人の話に耳を傾ける一方で、「一人でいる時間もとても大切にしている」という桜田。「いろいろなことに対して、自分がどう感じるかを知ることも大事だなと思っていて。私、ご飯も一人で行きますし、旅行も映画も一人で行きます。焼肉やカラオケも一人で行けます」と目尻を下げながら、「友だちと一緒にいるのももちろん楽しいですし、その良さもありますが、基本的には一人でその瞬間に浸って、一人でいるのが好きです」と飾らない素顔をのぞかせる。
⚫限界を決めずに。スクリーンで見せたい“新しい顔”
透明感あふれる佇まいと、見る者を引き込む目力。大きなスクリーンがよく似合う23歳だ。桜田自身も、映画の仕事に魅力を感じているという。「映画の撮影現場では長い時間をかけて、丁寧にワンシーン、ワンシーンを紡いでいきます。その時間は、自分にとってもとても居心地のいいものです。映画館に行くのも大好きなんです。音や臨場感も特別なものがありますし、映画館でしか味わえないものがたくさんあると思うので」と、映画への愛情をあふれさせる。
「“自分がこうしたい、ああしたい”という以上に、作り手側の方々に、“桜田ひよりのこういう一面を見てみたい”と思っていただけるような作品に出会えたらうれしいです。また、観てくださる皆さんにとっても、“こういう役が似合うよね”というものだけではなく、“こういう役もやるんだ”と驚きを与えられたらいいなと思います。限界を決めずに、いろいろなことに挑戦していきたいです」と未来を見つめた桜田。そのまなざしは、さらなる可能性へと向けられている。
【作品情報】
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星の教室
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スタイリスト:前田涼子/ヘアメイク:徳永 舞(BEAUTRIUM)