2022年以降、日本を訪れる外国人留学生数が増加の一途を辿っている。その一方で、’26年4月には在留資格「技術・人文知識・国際業務」(技人国)が見直され、留学生たちの日本での就職環境は厳しさを増す一方だ。物価高も進む中で、なぜ彼らは日本を選ぶのか。実態を追った。
世界的に見ても「安全さが際立つ国」・日本
10月23日、東京・お台場のビルの一室にスーツに身を包み、髪型をビシっと決めた外国人の若者が横一列に着座していた。この日行われていたのは、外国人材の採用に取り組む企業と、国内の専門学校や大学に在籍する外国人留学生のマッチングを目指した合同企業説明会。ネパールやミャンマーなどを中心に、83名の求職者が集まった。
なぜ数ある外国のなかでも、日本で働くことを望むのか。「日本は世界的に見ても安全さが際立っている」と話すのは、ネパールから’23年に来日したブヌさん(22)だ。
「ネパールでは夜早くに閉まる店が多く、夜道が危険。日本は24時間営業のお店もあり、深夜も安心して帰宅できます」
ミャンマーから来日したティットゥータンさん(24)は、子どもの頃から、『崖の上のポニョ』などのアニメを通じて日本の文化に触れていた。ブヌさん同様、「法が守られた安全な国」というイメージがあったと話す。
深夜の牛丼屋アルバイトで賄う生活費
利便性はあれど、外国人留学生が日本で暮らすのは決して楽ではない。日本語学校や専門学校に進学する際は、平均100万円以上の銀行残高証明が保証人に求められる。来日後もアルバイトは週28時間以内という規制があるため、生活費を稼ぐこともままならない。
レグミ・プラカスさん(25)はホンダやトヨタなど日本企業の先進技術に憧れて’22年、ネパールから来日した。2年間日本語学校に通ったのち、ものつくり大学(埼玉県行田市)に入学。機械工学を学び、通信・鉄道業界への就職を目指している。4カ国語を操る秀才だが、そんな彼も牛丼チェーンの「松屋」で深夜帯のリーダーを務め、年間約120万円の学費をかろうじて賄っている。
「調理、ホール、アルバイトスタッフの教育などを幅広く担当しています。深夜の仕事は時給も高く、規制の範囲内で月17万~18万円ほどを稼げるので助かっています」
ネパールから’21年に来日し、現在はホテルに勤めるタパ・ラケスさん(30)は言う。
「日本はネパールより給料は良いですが、物価が高く、貯金の余裕がありません。この先ずっと住んでも、年金はもらえて10万円程度。妻がネパールにいるので、いつかは国に帰ることも考えています」
金銭的な苦労がありながら、外国人留学生たちがなお日本での就職を望むのはなぜか。外国人材の紹介事業を行うスキルバトン代表取締役のケーシー・アミトさんは言う。
「留学生の間は生活が大変でも、日本に就職ができれば、借りたカネを返せ、家族も支援できる。今は苦しくても、将来のために頑張る気持ちがあるからです」
努力の末に就職しても、国の違いが現場で障壁を生むこともある。この日説明会に参加していたSTCは、静岡県内全域に携帯電話ショップを営む代理店だ。外国人利用者の契約時、母国語でフォローできるスタッフを増やすべく、10年前から外国人採用に力を入れてきた。’26年現在はブラジルや韓国を中心に、8カ国21人のスタッフが在籍する。人事部部長の藤政人さんは、今までの苦労をこう振り返る。
「最初に雇ったブラジル人のスタッフをお店に配属したとき、お客様から『担当を変えてくれ』とクレームを受けました。言葉が通じず、弊社の従業員から『育てられません』と泣きつかれたこともあります。通訳のシステムを作るなどし、受入れ体制を少しずつ整えていきました」
在留資格の厳格化が落とす影
‘22年以降、日本を訪れる外国人留学生数は前年比20%前後で増え続けており、国別には中国(約14万8千人)、ネパール(約11万6千人)、ベトナム(約4万7千人)の順に多い(数字は'25年12月時点のもの)。その反面で、国内の入管政策は転換点を迎えている。
最たる変化は、エンジニアや通訳など総合職・専門職の大半をカバーする在留資格「技術・人文知識・国際業務(技人国)」が、’26年4月より見直されたことだ。出入国在留管理庁の統計によれば、日本の大学や専門学校で学ぶ留学生の約9割は就職時点で「技人国」ビザに切り替えていた。しかし、実態としては単純労働も多いとし、対人業務に従事する場合は、日本語能力試験2級(N2)相当の言語能力を証明する資料の提出が必要になった。
ミャンマーから来日し、都内の専門学校に通うミャティンヒチョウさん(22)は「マーケティングやセールスの仕事に関心がありますが、今はN2がなければビザも取れない」と思いを漏らす。
借金を背負って日本へ行っても、就労ビザが下りず追い返されるーー。そんなリスクはすでに外国人留学生の間で認知され始めている。先述のアミトさんによれば、自社業務で関わりがある範囲で「’27年度の日本への留学希望者は、前年度の半分以上に減っている」という。
外国人労働者や技能実習生について、長年取材を続けてきたジャーナリストの安田浩一さんは言う。
「いまや日本の建設業や観光業は、外国人労働者の存在抜きに成り立ちません。その一方、現状の外国人政策は専門性を持った『高度人材』と『単純労働』とを明確に切り分け、前者を積極的に受入れる方針を取っている。そのため外国人留学生はビザ取得のハードルが高く、就職がしづらい。日本の『国益』にかなう人材のみを受け入れるのは、国の側にとって都合のよい制度運用と言えるでしょう」
現在の入管制度は、好意を持って日本に渡って来る若者たちを、結果として締め出す方向に機能していないか。この国の「選別の論理」がいま改めて問われている。
ケーシー・アミト
ネパール出身、2017年に来日。日本社会の生活・職場文化を深く学び、多数のスピーチコンテストで実績を上げる。'25年に株式会社SKILL BATОN入社後、営業責任者として営業組織の強化と事業成長を牽引。'26年9月1日付で代表取締役社長に就任
安田浩一(やすだ・こういち)
1964 年、静岡県生まれ。外国人労働者問題を中心に取材を続け、『ネットと愛国』(講談社)で2012 年の講談社ノンフィクション賞を受賞。『ルポ 差別と貧困の外国人労働者』(光文社新書)など著書多数
【松岡瑛理】
一橋大学大学院社会学研究科修了後、『サンデー毎日』『週刊朝日』などの記者を経て、24年6月より『SPA!』編集部で編集・ライター。Xアカウント: @osomatu_san
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