山崎貴監督「巨大なエンタメだからこそ深いメッセージが重要」続編に至った経緯とキングギドラ登場の理由も明かす<ゴジラ-0.0>

山崎貴監督/撮影=高木直子

山崎貴監督「巨大なエンタメだからこそ深いメッセージが重要」続編に至った経緯とキングギドラ登場の理由も明かす<ゴジラ-0.0>

11月3日(火) 18:00

山崎貴監督
【写真】ゴジラと見つめ合う山崎監督

世界的な大ヒットを記録し、第96回アカデミー賞(R)視覚効果賞を受賞した前作から続く待望の続編「ゴジラ-0.0」。日本映画初となる「Filmed For IMAX」での制作や、強敵キングギドラの参戦など、さらなる進化を遂げた本作はいかにして生まれたのか。企画の成り立ちからキングギドラへの熱い執念、音響への徹底的なこだわり、そして新キャスト・長澤まさみの起用理由まで、山崎貴監督が作品への思いを語った

■個人的なリベンジから始まった、宿敵キングギドラの登場

――まずは、映画が完成した今のお気持ちからお聞かせください。

やっと終わった、というのが正直な感想ですね。前作も相当にハードでしたが、今回はそれ以上でした。大変だったのは僕以上に白組のスタッフたちです。みんな欲張りすぎて情報量を詰め込みすぎた結果、レンダリングやシミュレーションがなかなか終わらない日々が続きました。無事に完成して、今は本当にホッとしています。

――続編の企画はいつ頃から動き出したのでしょうか?

前作「ゴジラ-1.0」の初号試写の評判が非常に良かったんです。もともと続編はまったく念頭に置いていなかったのですが、「続きが見たい」という声を多くいただき、検討を始めました。その約1カ月後には今作のファーストプロットを提出し、前作の公開初日には正式に続編をやろうと決まりました。

――今回、敵怪獣としてキングギドラを登場させた理由を教えてください。

単純にキングギドラが大好きだからです(笑)。僕は1964年の辰年生まれで、キングギドラが映画「三大怪獣 地球最大の決戦」で初登場したのも同じ1964年。個人的に強い親しみがありました。実は小学生の頃、地元・長野県松本市でその映画のリバイバル上映があったんです。看板に「キングギドラ松本に来襲!」とあって、親に「今後一切映画に連れていってくれなくていいから」と頼み込んで観に行きました。

ところがキングギドラはお城の上をサッと通り過ぎて、屋根瓦がバラバラと落ちただけで終わってしまったんです。「僕の権利をすべて放棄したのにこれだけか!」と、子どもの頃はずっと悔しくて根に持っていました(笑)。ですから続編を制作すると決まったとき、当時の自分が見たかった画を自分の手で作ろうと。個人的な「敵討ち」の意味も込めて選びました。元々キングギドラは、アルプス山中から現れる設定ではあったので、自然に故郷を出せる点も良かったです。

――クリエイター視点でのキングギドラの魅力はどこにありますか?

金色の巨体に3つの首を持ち、それぞれが独立して動くという異形のかっこよさですね。歴代の怪獣の中で、一番ゴジラに勝てそうな圧倒的な強さがある。着ぐるみ時代には表現しきれなかった制約を、今のデジタル技術で解き放ったら何ができるのか、挑戦してみたかったんです。今回は海外の著名なアニメーターにも参加してもらい、生物としての重量感と飛翔の迫力を追求しました。

また、キングギドラは首が長いため、立ったままでも人間に顔を近づけられる。怪獣の側から人間と目線を合わせにきてくれるんです。巨大な頭部がすぐそこまで迫り、食い殺そうとする恐怖をダイレクトに生み出せるのは、キングギドラならではの大きな魅力でした。

■膨らむバジェットと「Filmed For IMAX」の過酷な挑戦

――前作が世界中で評価され、米アカデミー賞を受賞しました。その反響が今作の制作に与えた影響はありましたか?

賞や世界的な評価に振り回されてはいけないと、そこは強く意識して切り離していました。世界を意識したり賞を狙ったりすると、作品が濁ってしまう。1作目を作ったときと同じ、ニュートラルで純粋な気持ちをどう保ち続けるかが僕の中の大きなテーマでした。

――今作では制作バジェットも増えたのではないでしょうか。

東宝さんには本当に大きなバジェットを用意していただきました。ただ、予算が増えたからといって現場が楽になるわけではないんです(笑)。プロットや脚本を作る段階で「今回は予算がある」と思うと、クリエイターはリミッターを外してしまい、より凄いシーンを思いついてしまう。結果的に全部使い切ってしまうので、まったく楽にはならないんです。CGスタッフも前作の35人から41人に増員しましたが、規模が大きくなればチェックや指示伝達の労力も増えます。それでも、今まで諦めていた表現に果敢に挑戦できたのは非常に幸せな体験でした。

――日本映画初となる「Filmed For IMAX」での制作はいかがでしたか?

画面の天地がシネスコサイズの倍近く広がるため、その余白をすべて高密度の情報で埋め尽くす必要がありました。さらに怪獣のサイズに合わせてカメラ位置が上がると、本来なら地上の建物で隠れていた地平線の彼方までCGで作らなければならず、背景データが異常な重さになったんです。データが重すぎてPCがフリーズするなどトラブルが頻発し、レンダリングには本当に苦労しました。

ただ、その甲斐あって、空中戦などでカメラが上下に激しく動くシーンは、視界全体が覆われて自分も一緒に飛んでいるような強烈な没入感が生まれました。劇場そのものがアトラクションになるような体験を楽しんでいただけるはずです。

■ダムでの反響音から実機録音まで――徹底した「音」への執念

――今作は「音」響面でも前作以上のアップデートがあったそうですね。

東宝スタジオのダビングステージが改修され、最初からドルビーアトモスシネマの最良の環境でミックス作業を行えるようになりました。最高品質の環境で音を作り、そこから一般劇場用にダウンコンバートできるようになった差は絶大です。怪獣映画において音は命であり、観客の腹に響く重低音が生理的な恐怖を呼び起こします。音響チームが凄まじい熱量で音を構築してくれました。

――キングギドラの鳴き声や効果音にはどのような工夫が?

従来の甲高い電子音のようなイメージを残しつつ、生物としてのリアルな唸り声を共存させるのが難関でした。今回は3本の首それぞれに異なる音を割り当て、物をかじる生々しい音なども細かく作り込んでいます。鳴き声の反響音を収録するため、神奈川県の宮ヶ瀬ダムまで行って巨大な音を鳴らして録音するなど、現場のこだわりがリアリティを底上げしてくれました。

――佐藤直紀さんによる音楽も非常に印象的でした。

佐藤さんはいつも僕の想像の斜め上を行く提案をしてくれます。今回のキングギドラのテーマ曲は、最初に聴いたとき「タラララン…」という効果音のようなフレーズから始まって驚きました。佐藤さん曰く「緊急地震速報のサイレンのような、人の心に本能的な恐怖と緊張を植え付ける音」をイメージしたそうです。暗闇からその音が鳴り響き、次第に重厚なオーケストラへと広がっていく構成は圧巻でした。また、今回は大ホールで尋常じゃない人数のオーケストラを動員して新録しており、凄まじい音圧を体感していただけます。

■伊丹イズムを受け継ぐストーリーテリングと、長澤まさみが担った重要ピース

――新キャラクターである青山役として、長澤まさみさんを起用された理由を教えてください。

今回の物語は、いくつかの軸が同時進行していきます。その中で、ヒロインの典子とは別軸で、もう1人女性キャラクターが欲しかったんです。人間がただの傍観者にならず、怪獣たちに深く関与して対峙する構図を作るためには必要な存在でした。

長澤さんは顔立ちや振る舞いに昭和的な凛とした佇まいをお持ちで、以前からご一緒したかったんです。お話する機会があって、その時に「機会があれば」と言ってくださっていたので、その言葉に甘えてオファーしました。

――現場での長澤さんのお芝居はいかがでしたか?

集中して役を深く理解し、入り込んでいく振る舞いは本当に尊敬できるものでした。現場での周囲への気配りも素晴らしいのですが、何より役に入ったときの佇まいが見事でした。彼女が演じた青山は、心にトラウマを抱えながらも、新たな提案をせずにはいられない科学者なんです。

今で言う「気象オタク」ですね。自分の中に提供できる知見があれば、どんな過酷な目に遭っても「私、やれます」と言ってしまう。そのオタク特有の業のようなものを完璧に理解して演じてくれました。現場にはキングギドラの実体はいませんから、こちらの指示を頼りに恐怖や緊張を表現してもらうのですが、完成したCG映像と組み合わせたとき、本当にギドラを見据えている完璧な表情になっていて、監督として幸せでしたね。

――重厚な人間ドラマをエンターテインメントに昇華させる手腕に、監督がかつて関わられた「伊丹十三映画のイズム」を感じました。脚本面でのこだわりは?

そう言っていただけると、「伊丹チルドレン」としては本当に嬉しいですね。僕自身、重いテーマや思想的な葛藤を扱いながらも、全体として一級のエンターテインメントに仕立てる伊丹監督の姿勢からは多大な影響を受けています。前作の後、クリストファー・ノーラン監督と対談する機会があり、日本人として歴史や戦争の記憶に対して何かしらのアンサーを提示しなければいけないという思いを強く抱きました。

怪獣映画という誰もが楽しめる巨大なエンタメだからこそ、そうした深いメッセージや人間同士の対立、過去への後悔を潜ませておくことが今まさに重要なんじゃないかと。怪獣同士がド派手に戦う面白さはもちろんですが、タブーに触れざるを得なかった人間たちの葛藤やドラマの深みも、ぜひ劇場のスクリーンで味わってほしいですね。

世界を席巻した前作の成功に甘んじることなく、山崎貴監督は自らの少年期の情熱を原動力に、持てる技術とアイデアを注ぎ込んで「ゴジラ-0.0」を完成させた。圧倒的な映像美と徹底的な音響、そして人間ドラマの深化。極上のエンターテインメントとして昇華された怪獣映画の真骨頂を、ぜひ劇場のスクリーンで体感してほしい。

◆取材・文=磯部正和



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