結婚して間もないころ、義父が急に亡くなりました。義父と過ごした時間はそれほど長くありませんでしたが、とても穏やかでやさしい方だったことを覚えています。
義父を亡くした義母を心配し、私たち夫婦はしばらく同居することに。しかし、それをきっかけに、義母の昔ながらの価値観に振り回されるようになったのです。
田舎のルールを押しつける義母
義父が亡くなって間もないころ、義母は私たち夫婦に
「これからは、あなたたちが私の面倒を見てちょうだい」
と言い出しました。
長年連れ添った義父を突然亡くし、ひとりで暮らすことに不安を感じていたのでしょう。
ただ、私たちも結婚したばかり。すぐに同居を決めることはできませんでした。しかし、次第に義母の兄弟姉妹や親戚からも
「長男夫婦なんだから、お母さんのことを考えてあげないと」
と言われるように……。
対応に悩んでいると、夫から
「父さんが亡くなったばかりだし、しばらく母さんと一緒に暮らしてみないか」
と提案されました。
私も義母のことは心配だったため、義母を私たち夫婦の家に迎え、しばらく一緒に暮らすことにしました。
しかし、実際に暮らし始めると、義母は何かにつけて昔ながらの価値観を押しつけてきたのです。
夕飯を用意すれば、
「うちの田舎では、食卓いっぱいに料理を並べるのが常識なのよ」
と文句を言われました。
「3人しかいないんですから、そんなに作っても食べきれませんよ」
と説明しても、義母は納得しません。
「田舎ではね、料理は残るくらいがちょうどいいの。食べきれる量しか出さないなんて恥ずかしいことなのよ!」
食事に限らず、家事のやり方についても
「田舎ではこうするもの」「昔からそう決まっている」
と口を出される毎日。私も仕事をしていたため、帰宅後に家事をこなしながら義母の要求に応えるのは大変でした。
夫にも相談し、ときには間に入ってもらいましたが、義母の考えはなかなか変わりません。
そんな生活が1カ月ほど続き、私は次第に疲れを感じるようになっていました。
義母に頼まれて田舎の法事へ
そんなある日、仕事から帰宅すると、義母が私に話しかけてきました。
「今度、田舎で親戚の法事があるの。一緒に来て手伝ってくれない?」
夫も同行するのかと思いましたが、あいにくその日は仕事で休めないとのこと。私だけが義母に付き添うことになりそうでした。
返事を迷っていると、義母は少し寂しそうな表情を浮かべました。
「あなたにも私の故郷を見てほしいの。自然がきれいで、人もあたたかいところなのよ」
義母が故郷の自然や人について話すのは珍しく、私も少し興味を持ちました。それに、義父を亡くしてから間もない義母に、少しでも寄り添えればという気持ちもありました。
そこで私は法事の準備を手伝うことを了承し、翌週末、義母と一緒に義母の実家へ向かったのです。
義母の親族からの理不尽な命令
義母の実家に到着すると、すでに家の中では法事の準備が進められていました。親戚の女性たちが座布団を並べたり、台所で料理の準備をしたりと、慌ただしく動いていました。
初めて訪れた場所だったため、私は何から手伝えばいいのかわからず、義母に声をかけようとしました。すると、義母が私に近づいてきて、こう言ったのです。
「ここでは嫁は雑用係なのよ。来たからには田舎のやり方に従ってもらうわ。黙って働きなさい!」
あまりにも失礼な言い方に驚きました。
ただ、義母が大げさな言い方をしているだけかもしれないと思い、ひとまず周囲の様子をうかがうことに。
ところが、近くにいた親戚の女性たちまで、私に向かって次々と声をかけてきたのです。
「そうそう、嫁が一番働くのが当たり前なのよ」
「うちでは昔からそうしてきたんだから、あなたもちゃんとやってもらわないと」
「ほら、突っ立っていないで早く動きなさい」
その言葉に、私は思わず周囲を見渡しました。よく見ると、男性の親戚たちは別室で談笑している一方、女性たちは休む間もなく準備を続けていました。
もちろん、法事の準備を手伝うこと自体に不満があったわけではありません。しかし、嫁という立場だけを理由に雑用係のように扱われることには、どうしても納得できませんでした。
私は意を決して、義母たちに自分の気持ちを伝えることにしました。
私の反論に、ほかのお嫁さんたちも…
「雑用係って、ひどい言い方ですね。いつの時代の話ですか?」
私がそう言うと、その場にいた親戚たちの視線が一斉に集まりました。
「私は法事のお手伝いをするつもりで来ました。でも、嫁だからという理由で何でも押しつけられるのは納得できません。みんなで協力すればいいんじゃないでしょうか」
すると、年配の女性が眉をひそめました。
「何を生意気なことを言っているの! 姑に逆らうような嫁は、親戚中で悪く言われても仕方ないわよ!」
義母も不機嫌そうな顔で私を見て、年配の女性に続きました。
「昔からそうしてきたんだから、あなたも黙って従えばいいのよ!」
これ以上何を言っても無駄なのかもしれない……そう思いかけたときでした。
「……でも、嫁だから何でもやるべきだという考えは、私もおかしいと思います」
少し離れた場所で作業していた、私と同世代くらいの女性が口を開いたのです。その女性も、義母の親戚の男性と結婚した人でした。
「私もずっと嫌だったんです。法事のたびに女性ばかりが準備や片付けをして、男性たちは座っているだけ」
「手伝うことが嫌なんじゃなくて、嫁だからやるのが当然って言われるのが嫌だったんです」
すると、別の女性も手を止めました。
「私も同じです。仕事も家事もある中で予定を調整して来ているのに、少し休んだだけで文句を言われるのはつらかったです」
それまで黙々と働いていた嫁2人が声を上げたことで、場の空気が明らかに変わりました。私は、同じような思いを抱えていた人がいたことに驚くと同時に、少しだけ心強く感じました。
しかし、親戚たち全員が納得してくれたわけではありません。
「私たちだって若いころは散々働かされたのよ! 今の人たちは我慢が足りないんじゃない?」
と年配の女性の1人が声を荒らげると、それまで黙っていた別の年配女性が、困ったように口を開きました。
「でも、今の時代には合わないところもあるんじゃないかしら。昔からやっていたからって、ずっと同じようにしなきゃいけないわけでもないでしょう」
その言葉に、一部の女性たちはますます不機嫌そうな顔になりました。義母も
「そんなことを言い出したら、誰が準備をするのよ」
と言ってきましたが、私たちもそれ以上引き下がるつもりはありません。
「準備をしないとは言っていません。嫁だけがやるのではなく、できる人みんなで分担したいんです」
私が改めてそう伝えると、若い女性たちも力強くうなずいてくれました。
結局、その場で話がまとまることはありませんでした。法事の準備を止めるわけにもいかず、私たちは気まずい雰囲気のまま作業を続けることになってしまったのです。
それでも、先ほど声を上げた女性たちとは、手が空いたときに
「声を上げてくれて、ありがとう」「私もずっと言いたかったんです」
と小声で話すことができました。
長年続いてきた慣習を、その場ですぐに変えることはできませんでした。しかし、これまで誰も口にしなかった不満を、ようやく言葉にできたことには意味があったと思いました。
義母にはっきり伝えた私の思い
法事を終えて帰宅するまで、ほとんど口をきいてくれなかった義母。家に着いてからも不機嫌そうな様子だったため、私は改めて話をすることにしました。
「お義母さん、今日は法事に連れていってくださってありがとうございました。でも、ひとつだけ伝えておきたいことがあります」
義母は黙って私のほうを見ました。
「今後も同じように雑用係として扱われるなら、私は法事には参加しません」
私がはっきり言うと、義母は驚いたように
「そんな勝手なことを言って! 親戚付き合いだってあるのよ!」
と声を上げました。
「親戚付き合いを大切にしたい気持ちはあります。でも、嫁だから何でも言うことを聞かなければいけないという考えには賛成できません」
私がそう伝えても、義母は納得できない様子でした。
その日の夜、夫にも法事での出来事を詳しく話した私。夫は私が親戚から言われたことに驚き、「そんな扱いをされるなら、無理に参加しなくていい」と言ってくれました。
そして、義母にも
「手伝ってもらうなら、感謝するのが当たり前だろう。嫁だから何でもして当然という考えはおかしいよ」
と伝えてくれたのです。
それでも義母は
「昔からそうだったのに」
と繰り返し、すぐに考えを改めることはありませんでした。
ただ、それ以降、家事について何か言われたときには、私も自分の考えをきちんと伝えるようにしました。夫も間に入ってくれることが増え、義母が一方的に私に昔のやり方を押しつける場面は少しずつ減っていきました。
もちろん、今でも意見が食い違うことはあります。それでも以前のように、私が何も言えずに我慢するばかりではありません。
あの日、法事の席で声を上げなければ、私もほかの女性たちも、ずっと不満を抱えたままだったかもしれません。
長年の価値観を一気に変えることはできなくても、おかしいと感じたことを言葉にすることで、少しずつ状況を変えられるのだと実感した出来事でした。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
著者:ライター ベビーカレンダー編集部/ママトピ取材班
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