電車の中で、他人の騒音が気になったことはありませんか?
今回は、そんな何気ない出来事が、思わず心温まる展開へと変わった女性のエピソードをご紹介しましょう。
聞こえてきた大きな笑い声
ある休日の午後。広崎繭香さん(仮名・34歳)は、都内を走る電車に乗っていました。
「その日はお笑いライブの帰りだったんです。昔からお笑いが大好きで、休日はよく劇場に行くんですよ」
お気に入りの芸人さんのライブを見終えた帰り道。繭香さんは電車の座席に腰を下ろし、余韻に浸りながらスマホを眺めていました。車内は休日らしくほどよく混雑しており、立っている人もちらほら。
するとその時、近くに立っていた20代ぐらいの男性のスマホから、突然大きな笑い声が聞こえてきたそう。
「イヤホンをしているみたいなのに、音がすごくて。ネタのセリフまで全部聞こえてしまうくらいの音量だったんです」
男性はイヤホンを耳につけたまま画面を見つめ、夢中で動画を楽しんでいる様子。一方で、周囲の乗客は驚いたように男性へ視線を向け、迷惑そうな表情を浮かべる人もいました。
ただ、男性本人はまったく気付いていません。
もしかすると、Bluetoothイヤホンがうまく接続されておらず、音声がスマホ本体から流れてしまっていたのかもしれません。
ワイヤレスイヤホンでは、接続が切れていても耳にはイヤホンが付いているため、自分では音がイヤホンから聞こえているつもりになってしまうことがあります。動画に夢中になっていれば、なおさら周囲に音が漏れていることに気付きにくいものです。
そこへ“まさかの人物”が登場
「すると、イヤホン男性のすぐ後ろに立っていたキャップ姿の男性が、少し困ったように笑いながら『すみません。そのネタ、楽しんでくれてるのはすごく嬉しいんですけど……音が結構漏れちゃってます』と声をかけたんですよ」
その声を聞いた瞬間、繭香さんは思わず目を見開きました。
「えっ、あの人は?! と驚いてしまいました。なんと声をかけたのは、動画で流れていたネタを披露していた若手お笑いコンビの1人だったんですよ」
テレビではまだあまり見かけませんが、お笑い好きの繭香さんは劇場で何度も見たことがあり、すぐに気づいたそう。
「イヤホン男性も画面と本人の顔を見比べながら『あっ……えっ! 本人ですか?』と顔を真っ赤にして固まってしまって。私は(分かるよ! ビックリしちゃうよね!)と共感して心の中でうなずきながら、その光景を見ていました」
そして、イヤホン男性は慌てて動画を停止。おそらく、その時点では「とにかく止めなきゃ」という気持ちでいっぱいだったでしょう。
ファンを喜ばせながら伝えた優しいひと言
すると芸人さんは照れ笑いを浮かべながら「ありがたいんですけど、周りの人にも聞こえちゃうので、音量だけ下げてもらえたら嬉しいです」と、あくまでも穏やかな口調で伝えました。
イヤホン男性は何度も頭を下げながら「すみません! 大好きなんです! 応援してます!」と恐縮した様子だったそう。
周囲にいた乗客たちも、そのやり取りを見守りながら自然と表情を和らげていました。思わずクスッと笑みがこぼれるような、温かな空気が車内に流れていたといいます。
「怒るんじゃなくて、ファンでいてくれることをちゃんと喜びながら注意している姿が素敵でした。『こういう注意の仕方っていいな』と思いましたね」
ライブ以上に心に残った神対応
ライブ帰りの車内で起きた、まるでコントのワンシーンのような出来事。その日、ライブ以上に印象に残ったのが、電車の中で垣間見た芸人さんの人柄だったと、繭香さんは笑顔で振り返ります。
「その神対応ぶりに、私もすっかりその芸人さんのファンになってしまったんですよ……ちょっと単純すぎますかね?」と微笑む繭香さんなのでした。
<文・イラスト/鈴木詩子>
【鈴木詩子】
漫画家。『アックス』や奥様向け実話漫画誌を中心に活動中。好きなプロレスラーは棚橋弘至。著書『女ヒエラルキー底辺少女』(青林工藝舎)が映画化。Twitter:@skippop
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