日本でリメイクされるほどの熱狂を巻き起こした『サニー 永遠の仲間たち』(11)など、韓国のヒットメーカーとして知られるカン・ヒョンチョル監督。観る人を選ばないポップな作風が持ち味のヒョンチョル監督といえば“既存の楽曲の使い方”も巧く、音楽と共に心に残っているシーンも多い。過去にインタビューで「シーンに合う曲を探すのではなく、曲からシーンが生まれることもある」と語ったように、楽曲選びへのこだわりの強さは明らか。ここでは過去作を振り返りつつ、最新作『ハイファイブ!』(公開中)でも炸裂する鮮やかな音楽使いをひも解いていきたい。
【写真を見る】『サニー』のカン・ヒョンチョル監督の鮮やかな音楽使いを解説!(『ハイファイブ!』)
■『サニー 』で炸裂した心揺さぶるエモい選曲
映画監督デビュー作にして本国で830万人以上を動員するヒットを記録した『過速スキャンダル』(08)。主人公ヒョンス(チャ・テヒョン)が、存在を知らなかった娘と孫に振り回されるこのコメディでは、音楽は単なるBGMではなく、ラジオDJの主人公と歌手志望の娘というキャラクターが必然的に接するものとして登場。チェ・ヨンジュンの「たぶんそれは」や、Katrina & The Wavesの「Walking on Sunshine」など多彩なナンバーを登場人物が熱唱し、音楽自体が一つの主役とも言える存在感を示していた。
『過速スキャンダル』ではキャラクターを説明する装置として登場した音楽が、加えて時代感を表現する懐メロという役割も担ったのが『サニー 永遠の仲間たち』。不自由も刺激もない日々を送る40代の女性が、病院で再会した余命いくばくの友人のため、高校時代の仲間たちを探しだす様子を、70〜80年代の青春時代を交えながら描くヒューマンドラマだ。
映画のタイトルにもなっている「Sunny」(ボニーMによるカバー版)が、主人公たち仲良しグループの“サニー”のテーマソングとして随所でかかるほか、和気藹々とした女子校の休み時間に文学少女クムオク(ナム・ボラ)が放送室から届けるのは、シンディ・ローパーの「Girls Just Want To Have Fun」。さらに主人公のイム・ナミ(シム・ウンギョン)が、憧れの男子大学生からふいにヘッドホンでリチャード・サンダーソンの「愛のファンタジー(Reality)」を聴かされる『ラ・ブーム』(80)のオマージュなど、懐かしのナンバーがストーリーを彩り、ノスタルジーを与える。
ただ単に懐かしさを誘うだけでなく、歌詞の意味もしっかりと踏襲。“時が流れても、心の距離ができても、必要な時にはそこにいる”と歌う「Time After Time」(タック&パティのカバー版)がオープニングとエンディングで流れるなど、作品のテーマや場面場面とマッチした選曲には、感情を刺激されっぱなしだった。
■『スウィング・キッズ』では時代を無視してリンクする楽曲をセレクト
さらに、朝鮮戦争下の巨済捕虜収容所が舞台の『スウィング・キッズ』(18)では、収容所のイメージ向上のために結成された国籍も身分も異なる戦争捕虜たちのダンスチームが、タップダンスに情熱を燃やす姿を描き、スウィング・ジャズの名曲「Sing, Sing, Sing」(ベニー・グッドマン)など、数々の楽曲に乗せて華麗なダンスが繰り広げられる。
本作では、楽曲の内容とキャラクターの感情とのリンクを突き詰め、劇中の時代にはまだ存在していない曲も随所に使用。共産主義と資本主義の激突や、北朝鮮側でありながら南の文化に傾倒することに後ろめたさを感じるなど、主人公ギス(D.O.)はイデオロギーにがんじがらめにされる。そんな彼がしがらみから解き放たれ、ダンスで自由を謳歌したいという気持ちを表現したのが、エンドクレジットで流れるビートルズの「Free as a Bird」。許可が下りにくいというこの楽曲を使うために、脚本や絵コンテといったすべての映画資料をビートルズ側に送ったそうだ。
また楽曲から連想したシーンもあり、その一つがデヴィッド・ボウイの「Modern Love」。ギスと通訳としてダンスチームに加わった女性パンネ(パク・ヘス)が、抑圧された状況のなかで踊りへの情熱を爆発させる一幕で使われている。
音楽に合わせてそれぞれがソロダンスを踊る様子をカットバックしていくという編集まで、ヒョンチョル監督は曲を聴いて思いついたそうで、既存の価値観に対する葛藤、反抗といった内容も映画とばっちりマッチした選曲だった。
■『ハイファイブ!』でも光るキレキレの音楽演出
そんな『スウィング・キッズ』以来となるヒョンチョル監督の最新作『ハイファイブ!』は、ある男の臓器を移植されたことにより超能力を手にした冴えない男女5人が、寄せ集めヒーローとして活躍する様をコミカルに描く。
心臓の移植手術を受けた中学生のテコンドー女子ワンソ(イ・ジェイン)は、爆発的な走力と並外れた怪力を手にしていることに気づく。ある日、同じく手術によってなんでも吹き飛ばす肺を手にしたチソン(アン・ジェホン)と知り合うと、残りの臓器を移植された人たちを捜しだし、ヒーローチームを結成。しかし、同じドナーから膵臓を移植された新興宗教の教祖ヨンチュン(シン・グ)から臓器を狙われ…。
今作でも音楽演出はキレッキレで、境遇も性格もバラバラな5人の多彩なキャラクター像を反映した楽曲がセレクトされている。例えば、友だちもおらず孤独な日々を送るワンソが力に目覚めたシーンで流れるのが、スマッシング・パンプキンズの「I Am One」。孤立感に苛立ち、自分自身で立ち上がることを太く歪んだギターをかき鳴らしながら歌うナンバーは、ワンソというキャラクターと重なる。
また角膜の移植手術を受け、あらゆる電子デバイスを掌握する力に目覚めたキドン(ユ・アイン)。彼が指をパチンと鳴らしスロットで大儲けしたりとやりたい放題するシーンで流れるのが、「I Got The Power」のフレーズを繰り返すSNAP!の「The Power」だ。さらにサングラスがトレードマークのキドンの自己紹介に合わせてコリー・ハートの「Sunglasses at Night」が流れるなど、多彩なナンバーがキャラクターのテーマとして使われている。
中盤のあるラブシーン(?)ではクラシックなバラード「Put Your Head on My Shoulder」(ポール・アンカ)が流れ、またソンニョ(ラ・ミラン)のヤクルト販売用電動カートでのカーチェイスシーンにはネットミームとしても有名なリック・アストリーの「Never Gonna Give You Up」を合わせるなど、ギャグ的な演出も絶妙。絆を深めた5人を象徴するエンドロールのシスター・スレッジの「We Are Family」まで、ストレートな音楽使いで作品を盛り上げている。
『サニー 永遠の仲間たち』や『スウィング・キッズ』など誰もが楽しめる作品を世に送りだしているカン・ヒョンチョル監督。そのポップさを支えると同時にエモーションももたらす、卓越した音楽使いに注目しながら『ハイファイブ!』をチェックしてほしい。
文/武藤龍太郎
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