「最近の若者は…」「今の子どもって…」という勝手なイメージが世にあふれています。でもそれって本当でしょうか?
先ごろ刊行された『君たちはどう生きてもいい』(河出書房新社、南直哉著)は、恐山の禅僧である南直哉(みなみ・じきさい)さんが、5人の中高生と一対一でじっくり対話した本です。
不登校、学級崩壊、親の離婚、性的マイノリティ――。驚くほど率直な中高生の言葉と、南さんの解説は、10代から親世代まで誰が読んでも発見があるでしょう。
前編に続き、子どもの頃から深く思い悩んできた“先輩”でもある南さんに、話を聞きました。
将来の希望は「専業主夫」と言う13歳
――亮平くん(仮名、13歳、中2)は、ヘビーな家庭環境ですよね。両親が離婚して、母と姉と3人暮らし。高校中退して荒れている姉や、仕事で疲れた母の、ストレスの受け皿となっています。まだ13歳なのに。
南:そう。途中で、困ったな、この対話は本に載せられないかも、と思ったんです。
「
周りの大人の中で、『一番終わってんな』と思うのが自分の家族です」
「
(両親に可愛がってもらったという印象は)ないです」
とか、言っているわけですから。
ところが、原稿をチェックしたお母さんは、ほとんど直さなかった。いい覚悟だと思いますよ。ということは、彼が言うほど、悪い家庭ではないんですね。
――そして、亮平くんの将来像がまたすごい。
将来の希望は「
特にないけど。働きたくない」。
「僕は家事は何でもできるから、
奥さんには仕事をがんばってもらって、僕が専業主夫になりたい」。
南:
すごくいいでしょ!専業主夫希望の男性が出てきている、というのは新聞で読みましたけど、生身で会ったのは初めて。しかも中学生。びっくりしましたよ。
実際に、働く女性で「主夫が欲しい」という人、いますからね。需要がありますよ。
亮平くんがこれを実現したら、たいしたもんですよ。
もう親や大人の価値観なんて役に立たない
――普通の親なら、ここで「主夫?ふざけんな、ちゃんと働け」と説教しそうです。
南:いや、もうね、親や大人の価値観なんて役に立たないですよ。特に50~60代は、僕も含めてダメ。経済の規模を大きくすりゃどうにかなる、みたいな中で育ってきたけど、そんなことはもう起こらないんですから。
となれば、若い世代の試行錯誤に任せるしかないわけです。トライアンドエラーしやすい環境を作るほうが、今はよっぽど大事なんですよ。
親は怒るのでなく、理由を説明すべき
――著書の「はじめに」で、「もはや我々に、自信を持って君たちに示せる道はない。頼むから、自分たちの手で未来を切り拓いてくれ、と祈るような気持ち」と書いていますね。大人が説教しても意味はない?
南:根拠がある話だったらいいですよ。でも、根拠を言ってみろ、と返されたら、たいてい言えないんですよ。
「俺は若い頃、こうやったらうまくいった」と言っても、「それあんたの自慢でしょ」で終わりですよ。だいたい、「成功は偶然、失敗は必然」です。成功の自慢なんかするより、失敗した話をしたほうが、よほど相手の役に立ちます。
もし、子どもの何らかの行動がダメだと思ったら、
「私は、こういう理由でダメだと思うよ」と、ちゃんと論理で話さないと。「この人はちゃんと説明しようとしている、真剣に考えてくれている」と子どもに伝わることが、信頼につながるんです。
それを感情一発で「ダメだ!」と怒ったって、いいことないですよ。
子どもに限らず、人はそれぞれ置かれた境遇も時代も違う。そもそも、
この世界に、絶対に正しい答えなんてありません。
高校中退して荒れてしまった子の事情
――先ほどの亮平くんのお姉さん(18歳、フリーター)は、学歴主義のお父さんに「いい学校に行かないと、人生終わり」と言われ続けて、でも高校受験で全部落ちて、父親が勝手に申し込んだ高校に行きましたよね。でも、学校が合わずに中退してから、荒れてしまった。
南:「いい学校に行かないと、人生終わり」なんて、もはや脅迫ですよね。
親が敷いたレールに乗っていて、うまくいってるなら別にいいんです。問題は、脱線したり止まっちゃったりした時です。そこで、自分で決めて脱線したり止まった経験がないと、パニックを起こしてしまう。
――対話1人目の結衣さん(仮名、13歳、中1)も、「勉強しなさい」とずっと言われていて、小4から塾に行って中学受験をした。けれど、「無理やりレールに乗せられてるのかな」と話していましたね。
南:そうですね。決して親御さんが悪いとは思いませんが、結衣さんは第一志望の中学に入ったのにモヤモヤしている。自分で選んだ実感がない。
やっぱり
「自分が納得してやったんだ」という実感が残るのは、大事なことなんですよ。
思春期になると、潜在意識の中で、「親が死んでも生きていかなきゃいけないんだ」と気づき始めると思うんです。だから、「大事な判断は自分でする」という経験を少しずつさせていかないとまずいですね。
そこで子どもが判断を間違えてもいい。彼らには、「間違う自由」、「試行錯誤する権利」があるんです。
「勉強しなさい」は世界一ムダな言葉
――たいていの親は「勉強しなさい」と言いますよね。
南:あのね、「勉強しなさい」って世界で一番ムダな言葉のひとつですよ。勉強ってのは、
本人がしたいと思うか、しなければヤバいと思わない限り、絶対にしないんです。
だいたい、「勉強しなさい」と言っているあんたは勉強したのか?って話ですよ。親は子どもに何か言う前に、同じ言葉を自分に問うてみたほうがいい。
僕も中学生の頃、全く勉強しませんでした。親は「勉強しろ」と言ったことがないけど、高校受験の前に、父親が真顔でこう言ったんです。
「知り合いの寿司屋が弟子を探しているから、お前、中学出たらそこで修行したらどうだ?」って。大真面目にですよ。
寿司屋が嫌なわけじゃないけど、「やっぱり高校に行かせてください」と頼んで受験勉強を始めました。
――今回唯一の高校生である悠太さん(仮名、17歳、高2)は、通信制高校に通いながらパンクロックバンドをやっていて、音楽の道に進みたいと言っていましたね。
南:彼は、自分が「いつも周囲と噛み合わない」「アウトサイダーだ」と自覚していました。僕もアウトサイダーだからよくわかります。
ご両親が、「普通」とは違う彼を否定しなかったから、彼は居場所を見つけられたんだと思います。
“わからない他人”と対話する土俵を作る
――最後に、この本をどういう人に読んでほしいですか?
南:まず10~20代の若い人ですね。
あと、親世代に読んでもらえたら、対話の仕方のヒントになると嬉しいです。
僕は、様々な悩みを抱えた人と一対一で話すことを30年続けているんですが、他人のことはわからない。子どもだって他人です。わからない前提で、どう共通の土俵を作って話をするか。
ただし、読んでも、役に立つ「正解」は何も書いてないですよ(笑)。
【南直哉(みなみ・じきさい)】
恐山菩提寺院代、霊泉寺住職。1958年長野県生まれ。サラリーマンを経て、1984年に出家得度。曹洞宗大本山・永平寺で約20年間の修行生活を経て、2005年より恐山へ。2018年、『超越と実存』で小林秀雄賞受賞。著書多数。
<文/増田結香撮影/我妻慶一>
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