まさか電車の急ブレーキによって、その後の人生を大きく左右してしまうとは……。年末の満員電車で発車直後の電車が急停車。100キロはあろうかという大柄な男性が左膝の上に倒れ込み、下敷きになったゆにこさん(53歳※事故当時は43歳)。
この不慮の事故により、全治2年以上の大ケガを負い医師からは「完治はしない」と言われ、10年経った現在も走ることは難しく、日常生活でも膝の痛みに悩まされる後遺症が残ってしまいました。
このときの実体験を描いたのが漫画『満員電車で下敷きになりました』(幻冬舎)です。
普段はグラフィックファシリテーター®︎として、企業の研修、ワークショップなどに携わるゆにこさんに事故について聞きました。
※本記事は全3回のうちの1本目です
立てない! 足をついたら激痛
――電車の中で事故にあった状況について教えてください。ゆにこ:2016年の年末に仕事が終わってから、ギュウギュウ詰めの大混雑の電車に乗り込んだ直後のことです。加速し始めた瞬間に、急停車したんです。もう中は地震みたいにグワンってすごい揺れてました。私はちゃんと吊り革につかまって、体がくの字に曲がっても必死に耐えていたんです。
ところが私に100キロぐらいあるおじさんが飛んで倒れてきて、私の足が抜けないっていう状態になりました。しかもそのおじさん、手をついてもなかなか立ち上がれない。やっとおじさんがどいてくれて、私が「よっこらしょ」と立ち上がろうと思ったら、立てなかった。……こう話してると長いんですが、本当に一瞬の出来事でした。
急停車した理由は、後から聞いた刑事さんの話によると、酔っ払ったような人が電車に触れようとしたからだそうです。
――その時に痛みはありましたか?ゆにこ:足をついたときに「アレ、なんか激痛が走るな」みたいな。それで「立てない、立てない」と言っている間に「発車します」とアナウンスがあったんです。そのとき「立てますか?」と声をかけてくれた一人の男性がとっさに「非常ボタンを押してください」と言ってくれました。発車せずに済んだのですが、近くの窓の外に駅員さんがやってきて面倒くさそうに「捻挫ですか? 次の駅で救急車手配してるんで」と言ってまさかの発車。次の駅で降りたら、そこでの駅員さんも棒立ち。肩を貸してくれた乗客の男性とカバンを持ってくれた女性2人だけが、そばについていてくれました。
親切な人もいた一方で、駅員の対応に疑問
――優しい人がいて良かったですね。ゆにこ:本当に。今度自分がそんな場面に立ち会ったら、そんな行動ができる人になりたい、と思えるくらいでした。そのお3人、この漫画を読んだら「これ俺だよ」「私だよ」って名乗り出てくれないかなと思うぐらいです。
――倒れてきた男性は、その後どこかに行ってしまったんですか?ゆにこ:その方も、自分は被害者と思ってるのかなあ。お腹がつっかえたのかなかなか立ち上がれない様子で、恥ずかしさもあったかもしれないし、向こうもまさか私がそんな大怪我になってるとは思わなかったかもしれません。
――救急車がすぐ来て、病院も決まったのに、搬送されるまで駅のグダグダで1時間半もかかってますよね。一人ぼっちにされて、その時はどんな気持ちでしたか?ゆにこ:左足に添え木をしてもらって、車椅子でぼぉ〜っとしてましたね。4日後には沖縄旅行に行く予定だったので「どうやったら国際通りを松葉杖で歩けるだろうか」なんてのんきに考えてました(苦笑)。
スキーで急降下してきた人に後ろからぶつかられた時と同じ大ケガ
――駅ではその後どうなりましたか?ゆにこ:救急隊が来て「これ事故ですよね。警察は呼びましたか?」って言われた瞬間に初めて「えっ」と驚きました。実際に刑事さんが駆け付けてくれた時にも「これは結構大ごとだぞ」と思いました。でも、今目の前で揉めてるのは担架1台をどうするかってだけのことだったりするので、もうこれは面白いネタだぞ、と。その時はまだ、そこまでの大ケガになってるとは思ってもいませんでした。
――駅員さんの態度で印象に残っていることはありますか?ゆにこ:もうとにかくオウム返しが多すぎて、笑っちゃいました。「救急車ですか、呼べと言われれば呼びます」「シャッターを開けろと言われれば開けます」とすべてそんな感じ。私は普段、グラフィックファシリテーター®︎として、大手企業にお邪魔して組織やプロジェクトのドロドロ、モヤモヤを、イラストを描きながら可視化して解決する仕事をしているので「出た! タテ割り! おかしいぞ!」と(笑)。
――救急車で運ばれた病院ではどのような診断が下りましたか?ゆにこ:病院では「脛骨高原(けいこつこうげん)骨折」、別名「プラトー骨折」と診断されました。膝にある高原のように平らな骨が陥没していました。スキー場で急降下してきた人に後ろからいきなりガンとぶつかられた時とまったく同じ怪我らしいです。100キロ級の人がただ倒れてきても、ここまでひどく折れないそうなので、やっぱり電車の急停車が原因だったことは間違いなさそうです。
まさか大手術になるとは……入院生活で待ち受けていた悲劇
――大変な大ケガでしたが、入院生活はどうでしたか?ゆにこ:入院したばかりの頃は「ホテルみたいにきれいだな」と上げ膳据え膳を少し楽しんでもいた部分もあったんです。まさか1週間後にこんなひどい大手術になるとは思ってもみませんでした。
――そこから思ってもみない悲劇の連続になっていくわけですね。それにしても電車内での事故は誰にでも起こりうると思いますが、身を守る方法はありますか?ゆにこ:スキーでの追突も、気がつかないまま後ろから追突されるより、一瞬でも「来るぞ」と分かると人間は身を守ろうとして、かわせるらしいんです。だから、電車の中で気がゆるんで何もつかまってないときもあるかもしれませんが、そういうことが起こるかもしれないと意識しているかどうかで、大きく違うと思います。
<取材・文・撮影/谷亜ヒロコ>
【関連記事】
・
「血まみれの息子に、震えが止まらなかった」小5息子を“失いかけた”母親の後悔。シートベルトを着けてとあれほど言ったのに・
「生きてる意味あんの?」35歳独身・ほぼ無職の女性がやってみた、小さな幸せの探し方<漫画>・
「離婚しても、夫に支配され続ける…」と苦しむ妻。スタートした共同親権の光と闇【漫画】・
「自虐は褒められ待ちと同じ」クズ男と“嫌われるおじさん”が無意識にやっている「マウントの正体」・
60代・おひとりさまの“ご機嫌に過ごす”コツ。「年相応より、自分相応」