『空白』(21)、『ミッシング』(24)、『四月の余白』(26)といった衝撃作を立て続けに発表している吉田恵輔監督。人間が抱く形容しがたい感情を映像でえぐり出し、観客の心をわしづかみにしてきた吉田監督の最新作『mentor』が10月16日(金)からいよいよ公開される。
【写真を見る】自宅で何度も拓海の土下座を練習したという末澤誠也少年時代に無邪気な花火遊びでそばに建つアパートを全焼させてしまった龍之介と拓海。それから15年が経ったある日、拓海の前に火事ですべてを失い、自身も全身に火傷を負った埜本が現れる。ところが、恨んで当然のはずなのに、埜本は土下座をして詫びる拓海を優しく包み込み、引きこもりがちだった彼を外の世界へと連れ出す。そんな埜本のことを拓海は次第に“メンター”として慕うようになり、龍之介と引き合わせるが、彼は不気味なほど優しすぎる埜本にも彼にどんどん浸透していく拓海にも違和感を覚えるようになる。

監督自身のオリジナル脚本を映画化した本作は、15年前の花火遊びでアパートを全焼させたという過去を持つ2人の青年・龍之介と拓海、火災で妻子を失い、自身も全身に火傷を負った男・埜本の再会と交流が3人の運命を狂わせていく様子を冷徹に見つめていくヒューマンドラマ。MOVIE WALKER PRESSでは罪の意識をアーチェリー競技に打ち込むことで封印し、普通に生きようとする龍之介に扮した磯村勇斗、“あの日”から時間が止まったままの拓海を映画初主演で挑んだAぇ! groupの末澤誠也、火事の被害者でありながら拓海にとっての“メンター(指導者、助言者)”的な存在になる埜本を火傷跡のメイクで体現した綾野剛を直撃! 息の抜けない撮影現場の裏側やお互いの印象などを聞いた。
■「磯村くんと末澤くんを知っていく作業がすごく大切で、その時間がとても幸せでした」(綾野)
――喰らった衝撃がいつまでも残り続ける緊張感のある作品でしたが、本作で一緒にお芝居をされたお互いの印象を教えてください。
磯村勇斗(以下、磯村)「一個一個のシーンをみんなでどんどん追求していく現場で、洗練された時間が過ぎ去っていくような日々でした。それこそ綾野さんがまさに“メンター”のように現場を先導してくださったので、僕たちも吉田監督と『いいですね、こうしましょう』という話し合いができましたし、とても有意義な、お芝居は楽しいと改めて思わせてくれる時間もたくさんあったなという印象が残っています」
末澤誠也(以下、末澤)「磯村さんと綾野さんが現場を引っ張ってくださったので、僕はただただついていかせていただいていたという感覚で。お2人の芝居を間近で拝見することができたこの撮影期間は本当に学ぶことがたくさんあったし、すごくいい経験をさせていただいたなと思っています」
綾野剛(以下、綾野)「磯村くんが組み立ててきたものが龍之介に深みを与えていましたし、拓海役の末澤くんがなにかをキャッチして投げるまでの直感力とスピード感がとても魅力的でした。特に僕が生きた埜本は拓海と龍之介の物語に集中してアジャストしていくような役回りでしたから、2人を知っていく作業がすごく大切でした。その時間がとても幸せでしたね」

――作品には緊張感が途絶えることのないヒリヒリとした空気が終始流れていましたが、現場の雰囲気はどんな感じだったんですか?
綾野「笑いをこらえるのがとにかく大変でしたね」
磯村「そうでしたね、大変でした(笑)。末澤くんが悪いんですよ!」
末澤「いやいや、僕は真剣にやっていただけですよ(笑)」
磯村「それが本当におもしろくて。拓海が土下座をするシーンがいくつかあるのですが、あれを隣で見せられたら我慢できないです(笑)。末澤くんは本当に素直で、素直に土下座をしているからこそ、おかしいんです。あれはすばらしかった」

末澤「いや、僕はもう真剣に、拓海として土下座していただけなんですけど、笑ってしまってNGになることもありました(笑)」
磯村「だって、異常ですもん! 人間の行動としてもやはりおかしいですから。でも僕たちは、それを笑わずに受けとめなければいけなかったから大変でした」
綾野「僕の場合は役の立ち位置から見ると、そんな末澤くんを見ている磯村くんがなぜ笑いを堪えられるんだろう?っていう疑問から発生した別のルートでおもしろくなってしまい。吉田監督もウイットに富んだ方なので、新発想をたくさん提案してくださいます。それらも含めた状況を冷静に分析し始めるとゆっくり狂っていく」
■「Aぇ! groupとして仕事をしている時も思ったことは口に出すので、嘘偽りのない、拓海の真っ直ぐなところは共感できた」(末澤)

――吉田監督ならではの変わった、おもしろい演出も現場ではあったようですが、具体的なエピソードを教えてください。
磯村「拓海と埜本が一緒にいるシーンは結構多いのですが、龍之介と埜本のシーンは意外とピンポイントしかなくて。なのに、その僅かなシーンで2人の距離感や言葉の温かみみたいなものを感じ合わなければいけなかったので、埜本の隣に座っている居酒屋の場面は居心地が悪いな~と思いながらスタートしました。でも、“メンター”のように話す埜本の言葉に吸い取られるようにその違和感がなくなる芝居を作っていかなければいけなかったので、あそこは現場もすごく緊張感があって。吉田監督もご自身のバックボーンと繋がるシーンだからすごくこだわっていたし、とても濃い特別な時間が流れていたような気がします」
末澤「僕は(プチパニックになった拓海が車道と歩道を仕切る)ポールにしがみつくお芝居を監督がその場で思いつかれて、実演して見せてくれたのが印象に残っています。そのうえで『猿みたいな感じで!このポールがないと拓海はもう立っていられないみたいな、それぐらいの感じでやってみて』と言われました。(3人で訪れる)フィールドアーチェリーのあとの自動販売機の前のシーンでも『埜本が去ったあとに、そこでちょっと自転(1回転)してみて』という指示があったし、その場その場のそうした演出が拓海のキャラクターをより際立たせてくれたような気がします。どれも、拓海ならやるかもしれないなと思いましたから」
綾野「僕からは『このシーンはどんな想いで書かれましたか?』と監督に必ず聞くようにしていました。それは監督が脚本も書いているからこそできる質問ですし、その答えがそのシーンに必要な容量を満たす内容であることが圧倒的に多い作品でした。例えば、いま末澤くんが話した拓海がポールにしがみつくくだりも、埜本は駄々をこねる拓海のことを面倒臭がらないですよね。あそこも監督に事前に確認して、諦めない人という状態で拓海に接するようにしたんです」

――みなさんが演じられた龍之介、拓海、埜本の3人は綺麗事だけではない、人間のエグみを凝縮したようなキャラクターでしたが、共感されたり、気づきを得るようなところもありましたか?
磯村「龍之介はわりと自分の感情をあまり見せない、相手にぶつけない男ですが、自分も嫌なことやムカつくことがあっても内に溜め込んでしまうところがありますからね。そのあたりの龍之介の気持ちはわかってあげたいと思いながら“最初は”演じていました」
末澤「拓海は幼少期の事件から時間が止まって、そのまま成長してしまったからちょっと幼いところがあるんですけど、僕も感情がわりと顔や態度に出るからたぶん子どもっぽいんでしょうね。Aぇ! groupのメンバーとして仕事をしている時も思ったことは口に出すので、嘘偽りのない、拓海の真っ直ぐなところは共感できました」
綾野「末澤くん自身は顔に出ているという感覚があるのかもしれないけれど、全然わからなかった」
磯村「でも、出ちゃうんだ?」
末澤「出ちゃう時もありますね」
綾野「そこも含めて素敵なんでしょうね。2人ともとても人間力があって素敵だなと思いましたから」

――そんな綾野さんはいかがですか?埜本に共感するところはありました?
綾野「基本的にはないですね。ただ僕は埜本のことを世界でいちばん理解する勇気を持たなきゃいけない。どちらかと言うと、彼がこの作品のなかでどう心を静めていくのか、彼が抱えている限りなく鎮魂に近い気持ちを想像していく作業のほうが大事です。埜本がしようとしているあらゆる行いを肯定し続けて、全力で本人が生きたいように生きさせてあげたい。共感という自分の感情で埜本の動きをストップさせてはいけない。それはどの役に対しても思っていることですね」
■「並走する車の中から綾野さんと末澤くんが見つめ合うところは名シーン」(磯村)

――撮影を終えたいまだから、ほかのお2人に聞いてみたいことはありますか?
綾野「逆に、いまだから言える告白でもいいですか?埜本は火傷を負った足だけ内股でしたよね。でも、たぶんですが、2回ぐらい普通に歩いていたような気がする(笑)」
末澤「ほんまですか?(笑)」
綾野「たぶんですけど、その可能性はあるなと思って」
末澤「そんなこと、バラしちゃっていいんですか?」
綾野「集中し過ぎて、『ユージュアル・サスペクツ』じゃないけど、それをあとから思い出して」

磯村「僕らはもう全然…」
末澤「わからなかったですね」
磯村「埜本の内股の歩き方が頭の中にできあがっていました」
末澤「そうですよね」
綾野「座っているシーンの時もなるべく意識していましたが、それがすっ飛んだ瞬間があったような気がして。もはや、それがどこだかわからない。そんな告白でした(笑)」
――磯村さんはアイドルとしての末澤さんに聞いてみたいことはありますか?
磯村「今回は本当に“役者・末澤誠也”の顔だったと思います。こうして一緒に取材を受けていてもそれを感じますし、役者向きなのでこれからきっといろんな映画に呼ばれていくと思います」
末澤「いやいや、ありがたいです」
綾野「人柄も魅力的だし、ライブも観てみたいです。すべてのことに誠実に向き合う彼の歌と踊り、お芝居が見られるなんて、すごく贅沢なことですからね。ミュージカルもやってほしいですね」
末澤「そっちですか?(笑)」
綾野「役を通して歌ったり踊ったりするのがミュージカルですけど、歌も踊りもお芝居も内包しているのが末澤くんだし、それをすべて提示していくでしょうから素敵なものになると思います」
末澤「めちゃくちゃ光栄です。ぜひ、ライブも観に来てください」

――末澤さんはお芝居や俳優の仕事のことで聞いてみたいことはないですか?
末澤「う~ん、そうだな~?(と少し考えてから)台本が届いて、自分の演じるキャラクターがわかったあと、そこからどうやってその役を組み立てていくんですか?」
綾野「ちゃんとした質問ですね」
磯村「これはちょっとお酒を呑みながらかな(笑)」
末澤「純粋に聞きたいんですよ!」
綾野「時間が全然足りないけれど、その答えを絞って言うと…」
末澤「はい…」
綾野「読みたいように読んでいいと思います」
磯村「そうですね」
綾野「せっかくその物語と初めて出会ったわけだから、“こうじゃなきゃいけない”みたいなルールや法則に縛られるのではなく、その物語にピュアネスに向かったほうがいい。それがいちばん大事なことかもしれません」
末澤「ありがとうございます」

――最後に、みなさんが完成した本作を観てどんな感情を抱かれたのか?驚かれたり、印象に残っているシーンなどを教えてください。
磯村「静岡からすごいエンタメ作品が登場したと思いました(笑)。自分は静岡出身なので、そんなすばらしい作品に参加できてよかったというのが観終わった時に最初に思ったことですが、末澤くんと綾野さんが作り上げた埜本と拓海のシーンには興奮しました。特に、並走する車の中から2人が見つめ合うところは名シーンだと思って(笑)。めちゃめちゃ可愛いけど、どこか不気味で。それでいて笑えたり、いろいろな吉田監督の色が散りばめられていて。それを水しぶきのように浴びる映画になっていると思いました」
末澤「本当にそうでしたね。観たことのない感じの映画で、拓海だけではなく、龍之介が彼なりに悩んでいたり自分の気持ちを爆発させるシーンもあったし、埜本の狂気に慄いたり、彼の人間っぽいところにグッときたりもしたので、感情のジェットコースターみたいなすごい作品やな~と思いました」
綾野「これから観るお客さんにジャンルを定義や提示できることは、とても 豊かなことだと思います。でも、本作を観た時にはヒューマンドラマなのか復讐劇なのか、アクションじみたところもあり 、一体何なんだろう?という感情が湧き上がる 。考えてみると 、僕たちは日常をジャンルでは生きておらず、 起こったことに対して“エンタメみたいだな”って回想する ことはあっても、決してジャンルを背負って生きているわけでは ない。そのことをこの作品は示しているような気がします。本作をジャンルで問えば、いわゆる“ヒューマンスリラー”と呼ばれるものに落とし込め、人が人のことを考え抜いても、わからない。わかりたいと思っていてもわかりえないが連鎖していく。自分のことさえまともに理解できていないのに、他者を許容して、知っていこうとする。それは人間の生存本能だと思うと同時に、人間って奇妙で、愉快で、その"状況"がスリラーだと。完成した作品を観て、ヒューマンスリラーの可能性に気づかされました」
取材・文/イソガイマサト
※吉田恵輔の「吉」は「つちよし」が正式表記
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