一日の疲れを抱え、静かに過ごしたい乗客が多い深夜の新幹線。ところが、逃げ場の少ない車内では、周囲のマナー違反によって、わずかな休息の時間を奪われることもある。20代女性2人が遭遇した、忘れられない“迷惑客”のエピソードを紹介する。
終電の新幹線、後ろの席から聞こえた大きな声
仕事の先輩と職場の打ち上げを終え、博多から熊本へ向かっていた葉月奈子さん(仮名・20代)は、金曜日の最終の新幹線に乗り込んだ。
「時間に余裕をもって乗り込んだので、車内にはまだほとんど乗客がいませんでした。出発時刻が近づくにつれ少しずつ席が埋まり、私たちのすぐ後ろに、カップルらしき男女が座ってきたのです」
2人は乗り込んできた時点で声が大きかった。
「飲み会帰りらしく、『マジ飲みすぎやろ』『めっちゃ飲んだね〜』という会話が聞こえてきました。ただ、ドアはまだ開いたままで、駅構内の人たちの声も聞こえていたため、あまり気にしていませんでした」
しかし、出発してからも2人の勢いは衰えなかった。
「終電ということもあり、車内は静かで、疲れた様子で座っている人や、スマホを眺めている人がほとんどでした。私たちのいる車両も3分の1ほどしか埋まっておらず、後ろの2人の話し声だけがやけに響いていたのです」
葉月さんは、先輩に小声で話しかけた。
「先輩に『後ろの人、元気良すぎますね』と言うと、眉間にしわを寄せ、困ったような笑顔で応えました」
最初のうちは、彼氏の声が大きくなるたびに、彼女は「しーっ!」と笑いながらたしなめていたという。
「ですが、話が盛り上がるにつれて、声はどんどん大きくなっていったのです。『席、移動しますか』と先輩に声をかけると、『そのうち降りていくだろう』と、先輩はそのまま寝る姿勢に入ってしまいました」
葉月さんも、そのまま耐えることにした。
「こんな騒がしさで、よく寝られるなと思いながらも、仕方ないと思いました」
2駅ほど過ぎたところで、彼女が立ち上がり…
やがて2駅ほど進んだ。
「彼女が立ち上がり、『寝ちゃだめだからね!』と彼氏に言い残して、降りていったんです」
葉月さんは一瞬、静寂の訪れを期待した。
「これでやっと静かになる……そう思ったのも束の間、今度は彼氏がスマホを取り出して電話をかけ始めたんです。
その相手は、さっき降りたばかりの彼女でした。『さっきの話だけどさー』と、降りた直後なのに、まだ話したいことがあるのか、と。私が半ば呆れていると、突然、異様な音がしたのです」
「ゴポッ! グフッ!」
その音は、葉月さんの予想を裏切った。
「最初は、何かを食べてむせたのかと思いました。しかし次の瞬間、彼が慌てて席を立ち、ガタガタと私の座席にぶつかりながら、扉の方へ向かっていく姿が横目に見えたのです」
その光景は、一瞬で状況を物語っていた。
「Tシャツの裾で何かを包み、顔を真っ赤にして、恥ずかしそうに小走りで私の横を通り過ぎていく彼……吐いていました。
さっきまで大声で騒ぎ、降りた彼女に電話までしていた人が、今度は自分の吐いたものをTシャツで抱えて走っていたのです」
自分の胃袋が、しっかりと注意してくれた
葉月さんは複雑だった。
「そのあまりの落差に、気の毒だとは思ったものの、私は少しだけスカッとしてしまいました。あれだけ静かな終電の車内で騒ぎ続けていた彼に、私や誰かが注意するまでもなく、彼自身の胃袋が、しっかりと注意してくれたんです」
やがて男性は戻ってきた。
「洗面所で吐しゃ物を洗い流してきたのか、濡れたTシャツを着て、何事もなかったかのような顔で戻ってきました。その後は静かになり、窓にもたれかかるようにして寝ていましたね」
「空席だらけなのに」隣に座った謎の中年男性
同じく新幹線での迷惑を経験した花野もかさん(仮名・20代)は、平日の夜、次の日の早朝出張のため、新幹線のぞみ号に乗車した。
「直前まで会社の懇親会があったため、時刻は23時前、お酒も入ってヘロヘロでした」
指定席に向かうと、隣に人がいた。
「中年男性、スーツを着ていたので、おそらく会社員だと思われます。席は間違っていない。お互い自分が指定した席に座っているだけなんですが……」
しかし、周りを見渡すと異変に気づいた。
「空席だらけだったんです。なぜこの広い車内で、わざわざ隣の席を選ぶのか。私が予約した際は、確かに隣席には誰もいなかった。もし埋まっていたら、違う席を選ぶはずです。前後左右に人がいない席を指定するのが普通ではないかと思います」
タブレットでホラー映像を視聴
花野さんはイライラしながら、隣の席に座った。
「すると、目に飛び込んできたのは、怖すぎる日本人形の映像です。彼はタブレットで映画『ドールハウス』を視聴していました」
その時点では、まだ我慢できたかもしれない。しかし、その後が問題だった。
「相手はイヤホンをしているようでしたが、要所ごとにブツブツと叫んでいたんです。『うわっ』『こわっ』『あかん』。疲れた平日の夜に、なぜこんな映像を目撃するはめになるのか。1日のHPはもう消滅寸前でした」
その声は、決して小さくなかった。
「心の中で叫んでください。声漏れてます。イヤホンして小声のつもりかもしれませんが、普通の声量です。しかも、空席の多い深夜の車内で隣席ですよ。総じて大迷惑です。そして最後に彼は、こうつぶやきました。『今夜は眠れんな(笑)』と。いやいや、あなたの声で、私は移動時間、全く眠れなかったんですよと」
深夜の新幹線は、疲れた乗客が束の間の休息を求める場所でもある。自分の何げない行動が、誰かの静かな移動時間を奪っていないか振り返りたい。
<取材・文/日刊SPA!編集部、藤山ムツキ>
【藤山ムツキ】
編集者・ライター・旅行作家。取材や執筆、原稿整理、コンビニへの買い出しから芸能人のゴーストライターまで、メディアまわりの超“何でも屋”です。著書に『海外アングラ旅行』『実録!いかがわしい経験をしまくってみました』『10ドルの夜景』など。執筆協力に『旅の賢人たちがつくった海外旅行最強ナビ』シリーズほか多数。X(旧Twitter):@gold_gogogo
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