2022年、東京都杉並区初の女性区長に就任した岸本聡子氏。その区長選は『映画 ○月○日、区長になる女。』というドキュメンタリー映画にもなりました。
区長になる前は20年以上ヨーロッパで暮らし、仕事と子育てを経験してきた岸本氏。女性をはじめ、多様な背景や経験を持つ人が政治の意思決定に加わることで、社会や政策はどう変わるのでしょうか。
女性の健康や子育て、働き方など、これまで「個人や家庭の問題」とされがちだったテーマを政治がどう捉えていくべきなのか。岸本氏にうかがいました。
「自分もやってみよう」と思える人が増える
――2023年の杉並区議選では、女性議員が定数48のうち25人と過半数を占めました。この結果をどのように受け止めていますか?
杉並区長・岸本聡子氏(以下、岸本区長):
女性を過半数にするために、何か特別な取り組みをしたわけではありません。ただ、女性を含め、それまで政治の世界に距離を感じていた人たちが「自分もやってみよう」と手を挙げるようになったことは、とても大きな変化だと思っています。
政治家というと、自分とは遠い世界の人だと感じる方も多いと思います。でも、自分と似た経験を持つ人や、身近に感じられる人が政治の場にいることで、「自分にも関係のある場所なんだ」と思えるようになる。
女性だけでなく、若い人、子育て中の人、障害のある人、外国にルーツを持つ人など、さまざまな背景や経験を持つ人が政治に参加することは、民主主義を支えるうえで欠かせないことだと思います。
意思決定の場が多様になると、見える課題が増える
――実際に女性議員が増えることで、政治は変わるのでしょうか?
岸本区長:
私が重要だと思うのは、単に女性の人数が増えることだけではなく、意思決定の場に多様な経験を持つ人がいることです。私たちは誰でも、自分が経験したことには目が向きやすく、経験していないことには気付きにくいものです。
たとえば、生理、妊娠・出産、子育て、介護など、これまで「個人のこと」「家庭のこと」として扱われがちだった問題も、実際にその経験を持つ人が意思決定の場に入ることで、公共政策の課題として見えるようになることがあります。
公共施設に生理用品を備え付けることも、その一例です。
大切なのは、「女性だからわかる」「男性だからわからない」と分けることではありません。異なる経験を持つ人たちが一緒に議論することで、それまで見えていなかった課題に目を向けることができる。それが多様性の意味だと思っています。
女性の健康を「個人の問題」にしない
――女性の経験が政策につながる例として、ほかにはどのようなものがありますか?
岸本区長:
女性の健康は、もっと社会全体の課題として考えていく必要があると思っています。妊娠・出産だけではなく、産後の心身の変化、月経、更年期など、女性はライフステージによってさまざまな変化を経験するでしょう。
それによって仕事や日常生活が難しくなることがあっても、これまでは「個人で対処すること」とされがちでした。
でも、必要な医療や相談窓口につながるような環境を整えること、職場で適切な配慮を受けられること、孤立しないための支援を用意することなど、政策や社会の仕組みとしてできることがあります。当事者の声を聞き、それまで見えにくかった課題を政策課題として取り上げていくことは、政治の大切な役割だと思っています。
制度と文化、両方を変えていく
―女性が政治や仕事の場で力を発揮していくためには、何が必要でしょうか?
―岸本区長:
制度と文化の両方を変えていく必要があると思います。制度というのは、育児休業や働き方、昇進のあり方、政治参加をしやすくする環境などです。
一方で文化というのは、「子育て中だから責任のある仕事は難しいだろう」「家庭のことは女性が中心になって担うものだ」といった、私たち自身が無意識に持っている思い込みです。制度があっても、それを利用しづらい文化があれば十分に機能しません。逆に、意識だけを変えようとしても、長時間労働などの働き方が変わらなければ、個人の努力には限界があります。
これは女性だけの問題でもありません。
子どもの成長に関わる喜びは、母親だけのものではないですよね。男性も子育てに十分な時間を使えることは、男性自身の人生を豊かにすることにもつながると思います。家庭の中で誰か一人が自分の希望を諦めるのではなく、それぞれの希望や状況を尊重しながら話し合えること。そうした選択ができる社会にしていきたいですね。
「声が届く政治」に
―女性が政治に参加することについて、伝えたいことはありますか?
―岸本区長:
政治は、特別な人たちだけのものではありません。子育てをしていて感じること、働きながら困っていること、地域で「なぜこうなっているんだろう」と思うこと——その一つひとつが、政策を考える出発点になります。
政治の場に多様な人がいることで、これまで「仕方がない」とされていたことが、実は変えていける課題だと気付くことがあります。
女性だけに限らず、これまで政治を遠いものだと感じていた人たちが、自分の経験や声にも社会を変える力があると思えること。そして、その声が実際の政策につながっていくこと。そうした政治を、地域からつくっていきたいと思っています。
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生理や妊娠・出産、子育て、介護、働き方。日々の暮らしのなかで感じる困りごとの中には、いつの間にか「仕方がないもの」として受け入れていることもあるのかもしれません。
けれど、異なる経験を持つ人が意思決定の場に加わることで、それまで個人や家庭の問題だと思われていたことが、社会の仕組みとして変えられる課題として見えてくることがあります。
そして、多様性とは、単に女性の人数を増やすことではありません。子育て中の人や若い人など、これまで政治を遠いものだと感じていた人たちの経験や声も、社会をつくる一つの視点になります。
身近な暮らしの中で感じる「なぜこうなっているんだろう」という疑問も、社会を変える出発点になり得る。岸本区長のお話から、政治を少し身近に捉えるきっかけが見えてきました。
ベビーカレンダーでも、女性たちが自分の人生やキャリアを諦めなくていいと思える発信、そして子育ての当事者以外の人にも届く発信を続けていきたいと思います。
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