旅行や帰省の日、大きなスーツケースを持って電車に乗ると、どこに置けばいいのか迷ってしまう。足元に置けば狭いし、通路に出せば邪魔になる。混んだ車内で、周りの視線が気になって落ち着かなかった。そんな経験がある人も多いのではないでしょうか。
観光庁の調査によると、2025年に日本人が国内を旅行した人数は、のべ5億5313万人。前年より2.4%増え、コロナ前の2019年の5億8710万人に近づいてきました。そのうち泊まりがけの旅行は2億9997万人です。旅に出る人が増えれば、新幹線に持ち込まれる荷物も増えます。限られた荷物棚をめぐって、乗客どうしが気まずい思いをする場面も、そのぶん増えているのかもしれません。
今回ご紹介するのは、過去に大きな反響を呼んだ人気記事から、新幹線で隣の席の男性に荷物棚を占領されてしまった男性の話。
記事の後半では、新幹線のデッキに設けられた荷物置場や、Xを使っている人の割合について調べてみました。
***
出だしから暗雲感じる旅の始まり
”非常識”な人はどこにでもいるものです。意外と本人には悪気がなかったりもします。そんな時、被害に遭った人は余計に腹が立ちます。
今回は、新幹線の中でとんでもない目に遭った男性を取材しました。ただ、そこには思わぬ展開があったそうです。
広告代理店に勤める藤川さん(仮名・35歳)は、連休を利用した九州旅行に胸を弾ませながら久々の新幹線へ乗り込んだのですが、その高まる気持ちはわずか数秒で打ち砕かれたといいます。
実は、在来線で人身事故による遅延があり、出発数分前に品川に到着した藤川さんは、ダッシュでホームに向かいギリギリセーフで新幹線に乗車できたそうです。ただ――。
「乗れたのは良かったのですが、私の隣にはすでに男性が座っていて、しかもその上の荷物棚には前後にはみ出すほどぎゅうぎゅうに荷物が置かれていたんです」
通路側に座る若い男性の頭上には、段ボールやバッグがぎっしり詰め込まれ、棚のすき間というすき間が完全に占拠されていたのです。周囲を見渡しても同じような状態で、荷物を置くスペースなどどこにもありません。
「正直、あの量を見た瞬間、“全部この人の……?”と目が点になりましたね」と藤川さんは苦笑いしながら振り返ります。
藤川さんは、自身の荷物もそこそこあったので、その男性にスペースを空けてもらうように声をかけたそうですが「後から乗ってきて図々しい奴だな。無理だよ」と一蹴されたそうです。
見た目の威圧感や態度から、揉めごとになるのは避けたほうが賢明だと判断した藤川さんは引き下がることに。しかし、この状況を記録しておくべきだと感じ、棚を占領する荷物の様子をスマホで撮影したといいます。
抑えきれない怒りをSNSで拡散
しばらくすると、隣の男性は大きないびきをかき始めたそうです。藤川さんはその雑音を聞きながら、棚の状態と男性の態度を思い返していると、次第に怒りが込み上げてきたといいます。
「本当に腹が立って……。でも直接言い返す勇気はなくて、気持ちの行き場を失ってしまって。結果的に、撮った写真をSNSに『こんなのあり? せっかくの九州旅行の新幹線車内、今これ』と投稿しちゃったんです」
「一種の“愚痴”のつもりでした。でも、投稿して数分で“いいね”が増えていって、『非常識すぎる』、『どういう神経?』とか、コメントも次々に来て……。驚きましたけど、同時に救われた気持ちにもなりました」
エキサイトするSNSのスレッドとは対照的に、車内は静まり返ったままでしたが、藤川さんのスマホの中では、まさに嵐のような勢いで投稿が広がり続けていたそうです。
車掌が二人やってきて男性を聴取
ところが、投稿からおよそ1時間ほど経過したとき、前の車両から入ってきた2名の車掌が、男性の席の前で立ち止まったそうです。
「小声で何を言っているかよく聞き取れなかったのですが、棚の上の荷物を指差しながら聴取しているような雰囲気でした。でも、徐々に車掌の声がはっきり聞こえてきたのです」
二人の車掌はお互い顔を向け合い少しうなずいてから落ち着いた声で男性に語りかけました。
「お客さん、明らかに常識の範囲を超えています。この行為はですね、車内マナー違反、そして業務妨害の恐れがありますよ。理解されていますか?」
車掌は、あくまで丁寧に、そしてはっきりとした口調で男性に注意を促していたようでした。さっきまで横柄な態度だった隣席の男性は、車掌のシリアスな表情にかなりビビった様子で、何度も頭を下げていたそうです。
「ペナルティがあることを知っていたのでしょうね。車掌の言葉を耳にしてからは別人のようにそわそわし出して、その後車掌と一緒にどこかへ行ってしまいました」
荷物が消えやがて男性もどこかへ行った
しばらくして席に戻ってきた男性は、藤川さんに軽く会釈をしてから棚の上の荷物を移動し始めたそうです。
「まるで別人のように笑みを浮かべながら私に頭を下げたんですよ。特になにも会話はありませんでしたが、男性はせっせと大量の荷物を後の号車のデッキまで移動させ始めたんです」
窮屈だった棚の上は、すっかりスペースができ、藤川さんは自分の荷物を少し離れた棚から移動させ、ようやく落ち着いた旅がスタートしたそうです。
「その後、さっき来た車掌が私の前に現れて、男性の迷惑行為に対する謝罪と、迷惑行為が発覚した理由を教えてくれました。他の乗客からの通報があったようで、その乗客は私がポストしたツイートを見ていたそうなんです」
少し興奮気味に話してくれた藤川さん。まさに奇跡のような出来事が起きていたのでした。その乗客のおかげで、あの横柄で常識のかけらもない男性を退散させることができたのでした。
改めてSNSが持つ影響力には驚かされました。
<TEXT/八木正規>
***
■新幹線のデッキに、予約なしで使える荷物置場
JR東海とJR西日本は2025年7月1日から、東海道・山陽新幹線の16両編成の全列車で、デッキにある荷物置場を予約なしで使えるようにする試みを始めました。発表資料では、その理由を「昨今の観光等によるご利用の増加に伴い」と説明しています。
置場があるのは1編成あたり6か所で、3、5、7、9、13、15号車のデッキです。誰でも使える共用のスペースのため、発表資料には「お客様同士でゆずりあって、ご利用ください」とあります。空いていなければ、これまでどおり荷物棚を使います。また、3辺の合計が160cmを超える大きな荷物はここには置けません。
藤川さんの隣の男性も、最後は大量の荷物をデッキへ運んでいきました。
■Xを使っている人は4割以上
藤川さんの投稿は、思わぬ人の目に届きました。総務省の「令和7年度情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」によると、13歳から79歳までの人のうち、X(旧Twitter)を利用している人は44.7%。Instagramは54.8%、LINEは92.9%でした。
同じ新幹線に乗り合わせた人の中にも、Xを開いている人がいるのは、数字の上ではそれほど不思議なことではないのかもしれません。それでも、自分の投稿をたまたま同じ列車の人が見て、車掌さんに伝えてくれるというのは、やはりめったにない巡り合わせだと思います。
藤川さんは、直接言い返す勇気がなかったと打ち明けています。相手の態度を見て、揉めごとを避けようと引き下がったのも、その場では無理もない判断でした。そして、行き場のない気持ちを投稿したら、コメントが次々に寄せられて「救われた気持ちにもなりました」と話しています。
腹が立っても、その場では言い返せない。言いたいことを飲み込んで、モヤモヤしたまま帰り道を歩く。そんな経験は、新幹線の中にかぎらず、職場でも、お店でも、誰にでもあるのではないでしょうか。
藤川さんのときは、同じ列車に、同じ気持ちで見ていた人がいました。困った場面で黙ってこらえているとき、もしかしたら近くにも、同じように「おかしいな」と感じている人がいるのかもしれません。
<再構成/日刊SPA!編集部>
【八木正規】
愛犬と暮らすアラサー派遣社員兼業ライターです。趣味は絵を描くことと、愛犬と行く温泉旅行。将来の夢はペットホテル経営
【関連記事】
・
「ワシがルールだ!」アパートに住む70代迷惑住人に“20代の女性大家”が言い放った「会心の一言」/孤独を感じている人は何歳代にいちばん多いのか調べてみた
・
「そんなんじゃ聞こえねえよ」“女性受付にだけ”威圧的な50代男性。強めの口調で一喝され、病院を出禁になるまで/カスハラ相談があった企業はこの3年でどれくらい増えたのか調べてみた
・
東京に疲れて“東北に移住した”20代女性の後悔。憧れの仕事で「月6万円」しか稼げず…/移住支援金は1人いくらもらえるのか調べてみた
・
新幹線の車内、逃げ場がない座席で女子大生が感じた恐怖「知らない男性と距離が近づいて…」/駅や電車内でお酒が絡むトラブルは何件起きているのか調べてみた
・
「開けろよ。ふざけるな」と絶叫、駅員に掴みかかろうとして…「新幹線に乗り遅れた」50代男性の末路/新幹線は1本あたり何分しか遅れていないのか調べてみた