みなさんこんにちは、ファッションスタイリスト&ライターの角佑宇子(すみゆうこ)です。Netflixドラマシリーズのなかでも今、話題を呼んでいるのが、松岡茉優、仲里依紗がW主演を務める『ダウンタイム』。これまでタブーとされていた美容整形の裏側にまで切り込んだリアルさと、次の展開が読めない物語性、そして臨場感あふれる俳優陣の演技など、見どころが満載です。今回は、そんな同作に登場するキャラクターそれぞれのファッションスタイルを解説いたします。
見どころは、現実にいそうなほどのリアルさ
天才的なオペ技術を持つ形成外科医・沼田文(松岡茉優)は、健康な身体にメスをいれる美容整形の在り方そのものに対して批判的でした。しかし、ひょんなキッカケで、美容整形クリニックの外科医として勤務することに。美のカリスマと呼ばれる遠山凜(仲里依紗)の下で働く中で、凜の「美しさで人を救う」信念や、美容整形に人生や命をかける患者たちと対峙し、人として成長していく物語です。
美容整形のリアルな裏側にまで切り込んだ設定の中、美容外科の描写については高須クリニックの監修も入っているため、手術中の映像はかなり現場に近いリアリティのあるものに再現されているのだとか。
そうした本作のリアルさは、各キャラクターのファッションにも落とし込まれています。今回は、スタイリストである筆者の観点から、とくに注目してほしいファッションポイントをキャラクター別にご紹介いたします。
美のカリスマ・遠山凜のファッション
主人公・沼田文を美容整形の世界へ引き入れた遠山美容外科クリニック・院長の遠山凜。初登場はニヒルな笑顔で、いかにも沼田文の天敵とも言わんばかりの存在でしたが、エピソードが進むにつれて人間味あふれる一面が見えてくる魅力的なキャラクターです。
凜は、身につける服にシーンごとの役割に応じた明確な工夫が感じられますね。カリスマ美容外科医として名を馳せていることから公の場ではとにかく派手で目をひくデザインの服装が多いです。テレビ番組への出演時は、大きめの花柄やキレイなスカイブルーのドレスワンピースなど見た目を大いに華やかにしていますね。
出勤時の服装は、一転して落ち着いたファッションです。クリニックの院長としての装いを表現しているのでしょう。トレンチ風ワンピースや、ジレワンピースと衿つきのファッションアイテムを身につけることが多く、シャープなモダンデザインを好む傾向があります。服の色はベージュやブラウン、ネイビーが多め。ベージュ・ブラウンは色彩心理において「安心感」を与える色です。いっぽう、ネイビーは「知性」の象徴。クリニックの院長という肩書きにふさわしい服装を配色でも演出しているのかもしれません。
勤務中は基本的に白衣にスクラブですが、患者とのカウンセリングではハーフアップや巻き髪で、優しさや柔らかさを表現。手術がある日はまとめ髪で整えています。こうしたシーンによってヘアアレンジや身につけるアクセサリーも使い分けている様子です。靴についても、長時間の立ち仕事でも比較的疲れにくいチャンキーヒールを履いている点が現実的で、見ていても違和感を覚えません。
クリニックで働く女性スタッフのファッション
遠山美容外科クリニックで働く女性スタッフの服装にもぜひ注目してもらいたいです。彼女たちは私服姿よりも出勤中の制服姿が基本となっていますが、制服時のファッションスタイルにも絶妙な違いがあります。
まず、看護チーフの轟菜々実(田中みな実)は、院長である遠山凜を献身的にサポートする存在。華やかな容姿とは裏腹に、性格はクールで仕事に対する誠実さが服装にも表れています。例えば、仕事中は髪の毛もシンプルに1つに束ねているのですが、使っているヘアゴムは、髪の毛が絡まりにくいスパイラルタイプで実用性を重視しています。アクセもつけず、不必要なおしゃれ要素を排除しています。
かといって、ファッションに興味がないわけではない。それが見て取れるのが第2話、クリニックのスタッフ総出で歌舞伎町のホストクラブを訪れるシーンです。更衣室でアフター5に備え、メイク直しをするシーンでは、上品で落ち着いたブラウンだけど、胸元が大胆に開いた色っぽいワンピースに着替えています。足元はメタリックのパイソン柄パンプス、バッグはハイブランドを思わせる上質なものを持っていることから、年相応のおしゃれさと堅実に稼いでいる様子がうかがえます。
対する受付スタッフの澤口美玖(鶴嶋乃愛)は、出勤中でもおしゃれを諦めない、意欲が高い着こなしをしています。例えば、黒のヘアカチューシャに小ぶりなパールピアス、ネイルはアーモンドシェイプのフレンチにラインストーンがついたデザイン。チークもリップも発色の良いメイクをしていますね。スマホケースにもリボンがついていることから、可愛いものが大好き、噂が大好きな20代の女の子といった印象が服装やメイク、持ち物からよく伝わります。
ホストクラブのシーンでは、カチューシャをキラキラのパールアクセに切り替え、ピアスもビジューに切り替え。足元はベージュのリボンパンプス、トップスはラメが散りばめられたシャギーニットを着ていて、キラキラしたものが好きだという好みがよくわかります。
クリニックを訪れる患者のファッション
『ダウンタイム』の中で、最もリアリティがあるのは来院する患者さんではないでしょうか。自分の美しさを極めたい、夢のために美しくなりたい、切実なコンプレックスを解消したい、お金と時間に余裕があるお嬢様、など、さまざまな角度で美容整形を必要とする患者さんが登場します。
中でも、個人的にファッションで感銘を受けたのは、人気声優の柊琴未(小倉唯)、声優志望の田中善子/姫乃木ましろ(天野はな)、お嬢様の鴻池紗良(Kōki,)の3名のファッションです。
柊琴未は、声優界のアイドルとして人気を博しているキャラクターです。そのため、本人もアニメから飛び出してきたようなフリフリのブラウスにピンクのスカートを合わせ、小物はうさぎネックレスに、ギンガムチェックバッグと夢ファッションで固めています。こういう服って実は結構、お値段が張ります。成功した声優だからできる、お金持ちの夢ファッションという完成度の高さに驚きました。
そんな柊琴未を追いかける声優志望の田中善子は、田舎から上京したばかりの女の子。平凡なルックスのせいで仕事で飛躍するチャンスを得られなかったことから、整形をして芸名・姫乃木ましろと名乗り、ファッションも段々と垢抜けていきました。しかし、まだ都会に染まりきっていない、どこか芋っぽさも残したような垢抜けファッションです。髪色の明るさも、自分に似合うものをまだわかっていない様子が見受けられます。柊琴未を意識した真似っこ清楚コーデといった印象がうかがえるのが非常に面白かったです。
最後にご紹介するのは鴻池紗良(Kōki,)のファッション。こちらは生粋のお嬢様なので、服装も正統派のお嬢様ルックです。削ぎ落とされたシンプル美なデザインのミニワンピースやツイード素材の服が特徴的で、どのアイテムもハイブランドではないかと想像してしまうほどの高級感を漂わせています。何より紗良を演じるKōki,さんの脚線美。まるでスタイルそのものがファッションの一部になっているような存在感です。生まれながらにして持っている美しいルックスは、お金持ちの家に生まれて愛されて育ってきたというキャラクター性に非常にマッチしていて、変にファッションで着飾る必要がないのも、鴻池紗良らしいコーディネートですね。
キャラクターの生き様が感じられる着こなし
『ダウンタイム』のファッションは、いわゆる見ていて真似したい! というトキメキ的要素はそんなにありません。トレンドを追いかけたファッションをしているキャラクターがあまりいないからですね。ですが、一人ひとりのキャラクターの性格や生き様が丁寧に描かれている分、服装もそれに合わせたファッションになっている点が非常に興味深いポイントでした。
とくに遠山凜や看護チーフの轟菜々実は、医療従事者らしい理性的な性格がファッションに表れていると感じましたね。患者のファッションにおいても、多種多様な人物がいるのに「こういう人、リアルにいそう!」と感嘆してしまうのは、それだけキャラクターの性格・生活力・何を重視して生きているかなど設定に矛盾がないほど緻密に計算されているからではないでしょうか。まだ『ダウンタイム』を観ていない方も、もう一度観ようと考えている方もぜひ、こうしたキャラクターの服装にも注目してみてくださいね。
<文&イラスト/角佑宇子>
【角 佑宇子】
(すみゆうこ)ファッションライター・スタイリスト。スタイリストアシスタントを経て2012年に独立。過去のオシャレ失敗経験を活かし、日常で使える、ちょっとタメになる情報を配信中。2023年9月、NHK『あさイチ』に出演。インスタグラムは@sumi.1105
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