【#佐藤優のシン世界地図探索181】沖縄知事選を映画『仁義なき戦い』の世界観で解説!

まだ『仁義なき戦い』の登場人物にもなっていない、無名で成長途中の古謝玄太氏が沖縄の新しい県知事となった(写真:時事)

【#佐藤優のシン世界地図探索181】沖縄知事選を映画『仁義なき戦い』の世界観で解説!

10月9日(金) 7:00

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まだ『仁義なき戦い』の登場人物にもなっていない、無名で成長途中の古謝玄太氏が沖縄の新しい県知事となった(写真:時事)

まだ『仁義なき戦い』の登場人物にもなっていない、無名で成長途中の古謝玄太氏が沖縄の新しい県知事となった(写真:時事)





ウクライナ戦争勃発から世界の構図は激変し、真新しい『シン世界地図』が日々、作り変えられている。この連載ではその世界地図を、作家で元外務省主任分析官、同志社大学客員教授の佐藤優氏が、オシント(OSINT Open Source INTelligence:オープンソースインテリジェンス、公開されている情報)を駆使して探索していく!

***

9月の沖縄県知事選挙では前那覇市副市長・古謝玄太(こじゃ・げんた)氏が、玉城(たましろ)デニー氏に勝利。今回はその選挙を映画『仁義なき戦い』の世界観より解説を試みる。すると、また少し違う風景が見えてきた。

――佐藤さんは沖縄人の習性について、「昇っていく太陽は拝むが、沈んでいく太陽は拝まない」とおっしゃっています。今回の沖縄知事選で言えば、沈んだ太陽が玉城デニー元知事で、昇るのが古謝新知事ということですか?

佐藤 昇る太陽が古謝さんかどうかはわかりませんが、今回の選挙戦を見ると、昇る太陽は下地幹郎(しもじ・みきお)氏でした。しかし、下地さんは告示直前に立候補を取りやめました。だから、そのパワーが古謝さんに残ったのだとみています。

――えっ、古謝新知事ではないんですか......。今までは下地さんが立候補して保守票がそちらに流れて、保守候補が敗れた歴史を作った方が昇る太陽なのでは......?

佐藤 下地さんは「辺野古は利権の巣窟だ。なんの必要もない」と全て本音で話していました。そして「沖縄ファースト」、つまり"沖縄のトランプ"になるとも宣言していたんです。

――東京都知事の都民ファーストと米国のトランプを合体させた下地氏は最強!!

佐藤 しかし、下地さんはぎりぎりのところで古謝さんと妥協しました。そして、古謝さんをすっ飛ばして東京の自民党と約束したんです。

その内容は、300億円の予算配分や、その予算で普天間に鉄軌道を通すこと、普天間の移設期限の明示などです。300億円の子どものための予算を除けば、絶対にできないようなことを自民党と約束させたわけです。

――自民党の誰とそのような約束をしたんですか?

佐藤 西村康稔選挙対策委員長だけでなく、鈴木俊一幹事長が「党としての約束だから」と政策合意に至っています。男と男の約束ということですね。

この項目を古謝さんと約束したところで、そんな力はないので実現できません。そこで今回は、力がある自民党と直接取引したんです。そして、その間に鈴木(宗男)さんが入りました。

――出ました!!地球最強のネゴシエーターであり、話をまとめて驀進(ばくしん)させるパワーの持ち主が!



佐藤 鈴木さんと下地さんの長い関係性を踏まえ、保守候補の一本化に動いたことは、私が沖縄を考える視点に重なる部分もあります。

そうこうしていたら、下地さんが「候補の一本化によって、保守の分裂回避を人質に取れるんだったら、俺は自民党から下りてもいいぞ。ただしこの条件は呑んでくれ」と。すると、鈴木さんが「じゃあ、そこのところで人質に取らしてやろうじゃないか」というやり取りがあったんでしょう。

――すさまじい展開です。

佐藤 ただ、沖縄がいろいろと考えている状況の中で、東京の人間が入ってガチャガチャやるのは本当は良くない。沖縄には「こっちはこっち」と、それはいろいろな思いがありますからね。

――確かに、沖縄の人々の気持ちはさまざまです。

佐藤 ただ、鈴木さんの戦略はわかりますよね?

――そりゃ、佐藤さんは盟友であり、戦友であり、さらに獄友ですから。

佐藤 鈴木さんはこう考えたと思います。

このままでは、沖縄は離れて行ってしまう。だから、自民党に抱き着かせるんだ、と。しかし、古謝さんには抱きつく知恵がないので、下地さんにやらせたのでしょう。そのために、その約束は紙として残してあるんです。

――さすが!!そのために鈴木先生が走ったと。

佐藤 そういうことだと思います。

――始まりましたね、鈴木宗男劇場。

佐藤 鈴木先生は鈴木先生なりに、沖縄にとっていまの状況、つまり、辺野古が全く動かない状態がどうすれば動くのか考えたわけです。そのためには、できない約束をさせて、紙にしておくという選択をしたんです。

――シェイクスピアの物語の中でも、紙になった証文は動かぬ証として絶大な力を発揮しています。



佐藤 その証文の中には普天間移設の期限が明示されているので、沖縄に「やれ」と言わせられます。その仕組みを作ったのは鈴木さんらしい考えですね。

古謝さんは約束に何も関わっていません。下地さんと自民党、そして立ち合いの鈴木さんとの「男と男の約束」です。鈴木さんは西村、鈴木幹事長と、下地さんとの間で男の取引をした。だから、そこに立ち合いの鈴木さんがいるんです。

――証文に最強の太鼓判が捺印されたも同然と。

佐藤 そうです。そしてその取引が実現したことで、今度は鈴木先生に対して「立ち合った顔を潰すのか?」という話になっていきます。

――映画『仁義なき戦い』のテーマ曲が流れてきました。抗争に明け暮れるふたつの組。そこに、西の大組織のトップ、総長が出張って手打ちをさせた。その総長のメンツを潰すのか?という問題にしてしまっている。

佐藤 だから、『仁義なき戦い』に例えるなら、鈴木先生は神戸の明石組です。自民党がそれに気づいているかどうかですけどね。

――映画の中の神戸の巨大組織「明石組」の明石辰雄組長が、「広島も色々揉めとるようやが、そこはひとつ、仲ようやってくれや」と促したと。すると、下地さんは広島の老舗の大旦那か何かですか?

佐藤 いや、下地さんは菅原文太演じる「広能(ひろの)組」です。そして、下地さんはあの状況の中で、ちゃんと証文を立てて生き残りを図りました。

――すると古謝新知事は?

佐藤 『仁義なき戦い』には出てこない、全く無名で成長途中の人ですよ。今回、この鈴木・下地チームの活動で、急に上がってきた人です。

――しかし、鈴木先生はこういった大勝負となるとパンとすぐに動く。

佐藤 私はこの件に噛んでいませんが、鈴木さんが何を考えているのかはわかります。いまある与件の中で、折り合いをつけて、沖縄にとっての"ベスト"、要するに日本と沖縄を繋ぎ留めておくことが必要だと考えているはずです。

その意味で下地さんも、それなりに沖縄の人間としてやるべきことをやったという感じがしますね。

――鈴木先生と下地さんの思いが重なったと。



佐藤 はい。東京大地塾(鈴木宗男氏と佐藤優氏の勉強会)で、私は下地さんのことを珍しく褒めましたが、あれは本心です。

――すると、古謝新知事はこれから初めて『仁義なき戦い』の世界に入ってきて、「私の役はどれですか?」と、その役から探さないといけないと。こりゃ、相当大変だ。

佐藤 私は東京に住む在外沖縄人として、基地か経済かという二者択一に沖縄の将来を閉じ込めたくありません。選挙後こそ県民の所得、暮らし、基地負担のそれぞれについて新知事が何を実行するか見届けますよ。

――すると、また波乱がありそうですね。

佐藤 ただここで、玉城デニーさんを評価しなければならない点があります。

デニーさんの支持者には過激なグループがいます。デニーさんはそれを全部押し下げて、暴動とか火付けとかが起きないように抑えていました。要するに、法の枠組みの中で沖縄の思いを解決したんです。

翁長雄志(おなが・たけし)元知事は夫婦で座り込みをするとか、法を超えて解決すると言ったわけです。ところが、デニーさんは最後まで法の枠の中にありました。だから、取る手がなくなって行き詰まってしまったわけですが、その先に実力行使しろなどとは言わないで、全部、法の枠の中に収めたんです。

これは、やはり彼が沖縄を愛する人だからですよ。だから、彼も日本との間に沖縄を繋ぎ留めておきたかったはずです。だから、絶対に暴力沙汰を起こしてはいけないと過激なグループを抑え、戦っていたんです。

――すると、次はもしかしたら法の枠外のことが起きてしまう可能性がある?

佐藤 下手なやり方をすると、そういう可能性もありました。今後もそういう事態が生じるリスクは十分ありますようね。沖縄に対する日本全体の構造化された差別が残っているのですから。火が付けば燃え広がる可能性が潜在しています。

次回へ続く。次回の配信は2026年10月16日(金)予定です。

取材・文/小峯隆生

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