心地よい暮らしには近隣との良い関係が大切です。日頃から挨拶などを意識していても、時には騒音や理不尽なトラブルなど、信じられない出来事に巻き込まれることがあります。
主婦の坂上美奈子さん(仮名・57歳)は、あることに頭を悩ませていたと言います。
「隣人が朝7時から夜19時までラジオを大音量で流すようになったんです」
家の中まで隣のラジオが聞こえてきて
数日前から大音量のラジオが朝から晩まで聞こえてくるようになり、ハッキリとは聞こえないけれど、誰かがボソボソと話す声がしたのだとか。最初はご近所で井戸端会議でもしているのかと思って外を見てみたが人気を感じなかったそう。
「どうやら隣の大山さん(仮名・70歳)のうちからラジオが聞こえているようでした。大山さんの奥さんは先日亡くなられたばかり。奥さんはとても明るい人で畑をやっており、収穫したものをよくおすそ分けしてくれていて。そのお返しでうちも出かけた先で買ったお土産をよく持って行っていたんです。しっかりとコミュニケーションが取れていたのですが、旦那さんとは挨拶しか交わしたことがありません」
奥さんが亡くなってから騒音がするように
ある日、ゴミ捨て場で大山さんの反対隣りに住む中川さん(仮名・29歳)とばったり会ったと言います。やはり「ラジオの音がうるさい」という話になり、彼女が「子どもがお昼寝をするからラジオの音量を下げてください」とお願いに行くと「俺が好きで聞いているのだから関係ないだろ」と突っぱねられたのだとか。「奥さんがいなくなって寂しいんでしょ、困ったものね」と話し合ったそう。
「家にいてもラジオの音が耳障りなので、大山さん宅の方の雨戸を閉めっ放しにしたら、陽の光が入らず部屋の雰囲気が暗くなった上に、ラジオの音もまだかすかに聞える状態で。耳栓を買ってきてするとさすがにラジオの音は聞こえなくなったものの、テレビを見ても内容がわからなくなりました」
話し合いに行くと…
意を決して大山さんのうちへ行って「ラジオの音が家の中まで聞こえてくるのでボリュームを下げてもらえませんか?」と下手にでたところ「ラジオをどう聞こうが俺の勝手だろう」と追い返されてしまったと言います。
「翌朝、会社に行く夫を車で最寄り駅まで送って家に帰ると玄関先に大山さんが立っていたんです。車を降りると近づいてきて『いつも6時30分頃、車庫のシャッターを開けるだろう。俺はその音がうるさくて目が覚めるんだよ』『音のことで人のこと言えないだろう』と怒鳴られたので、とっさに『すみませんでした』と謝りました」
「騒音だ」と言いがかりをつけられて
家に入ってよくよく考えてみるともう10年以上前からシャッターの開け閉めをしているので、この前の苦情に対する言いがかりだと思ったのだとか。かと言って夫を車で送るのはやめられないので、そっとシャッターを開けるようになったそう。
「数日後インターホンが鳴り、モニターを見ると大山さんが立っていたんです。ドアを開けると玄関先に落ち葉が山になっていて。すると、大山さんは『お宅の木の枝がうちまで伸びていて、こんなにたくさん葉っぱが庭に落ちるんだよ、迷惑だからどうにかしてくれ』と怒鳴られたので『すぐに枝を切ります。すみませんでした』と謝罪しました」
美奈子さんは物事が悪い方向へ流れていると感じたと言います。コミュニケーション不足も原因のひとつではないかと考えて、奥さんがいた頃のようにとまではいかなくても、健全なご近所付き合いは必要だと思い返したのだとか。
以前のような近所づきあいをしたいと思って…
「次の日曜日に外出したのでそこで買ったお土産を持って大山さん宅を訪れました。『毎朝シャッターの音がうるさくてすみません。なるべくそっと開け閉めします。庭の木の枝も短く切ったのでもう落ち葉でご迷惑をおかけすることもなくなると思います』と伝えて、最後に『ちょっと出かけてきたのでお土産を持って来ました』と手渡して。
すると大山さんは『丁寧にありがとう』と意外な反応を見せました」
相変わらずラジオの音がするものの、その音は日に日に小さくなっていったそう。ゴミ捨て場で大山さんと顔を合わせたので、いつも通り「おはようございます」と挨拶をして、ひと言「今日は寒いですね、寒暖差が激しいから体調を崩さないようお互い気をつけましょうね」と声をかけたと言います。すると大山さんは「そうだね」と言って笑ったそう。
「大山さんは『いつも家で1人だからこうして会話できるのはとても嬉しい』と話し、『家に一人だと静かすぎるんだよ。ラジオをつけていると、人がいるような気がしてね。妻がいないのはやっぱり寂しいから』と語ったのです。その日以来、ラジオの音が聞こえることはなくなりました」
それからというもの、大山さんは「庭の栗がたくさん取れたから」とおすそ分けをしてくれたり、美奈子さんからもお土産を持って行ったりしてご近所づきあいが上手くいくようになったと言います。
ご近所づきあいは有事の備えとして重要ですが、一歩間違えるとトラブルに発展し、住みやすい環境を台無しにするリスクもあります。だからこそ、お互いに踏み込みすぎず、かといって疎遠にもならない「つかず離れず」の適切な距離感を保つことが大切です。
<取材・文/菜花明芽>
【菜花明芽】
ライター。ゾッとする実録記事を中心に執筆中。カフェでのんびり過ごすことが好き。
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