「たのピクに拒絶反応を示すのは、身の安全に差し障りがあるからなんです!」
そう語気を荒らげて語ってくれたのは、2児の母であり会社員の葉山絵美さん(仮名・40歳)だ。
「たのピク」とは、「たのしいピクニック」と題字の入った、10年以上前が初出のイラストに描かれた女性のことである。このところ、作者のかふん氏からはすっかり離れたところで、再度喧々囂々の“議論”がXにて巻き起こっている。
地域のこども会、初参加がピクニックだった
簡単に“たのピク”のイラストに描かれた内容を説明しておこう。のほほんとした雰囲気でニコニコと笑う女性が“たのしいピクニック”をしているのだが、その随所に「不快な要素」が多分に含まれていることが明示されている——というものだ。
Xでよくあるミソジニーとミサンドリーの正面衝突の現場が、今はそこにあるだけだと思いきや、葉山さんは全力で否定する。
「たんにちょっと気が利かないだけ、空気が読めないだけ、ダサいだけ……であれば、こんなことは言いませんよ。そうではなくて、本当に危ない目に合いかけたことがあって、それがまさに“たのピク”系というのがドンピシャだから、躍起になってしまうんです」
一体なにがあったのだろう?
「上の子が小学校に入学し、地域のこども会みたいなものに参加するようになったばかりのことです。春なので、ピクニック日和ですよね。最初に参加できた行事がまさにピクニックでした。
地区からそう遠くない川辺に親子が集まり、レジャーシートを敷いてお弁当を食べたり自然の中で少し遊ぶという、いたってよくある、ちょっとした遠足のようなもの。
子の入学とともに転居したので、私も子もまだ知り合ったばかりの人たちしかおらず、親子ともどもやや緊張しながらその日を迎えました」
微妙な雰囲気の両親と元気すぎる子
だが、子供の順応力は高いもの。あっという間に友達と盛り上がる。
「それは楽しそうで、参加してよかったなと思いました。特に仲良さそうにしている子のお母さんに話しかけると、和やかに話してくれたので、私も私で安心したんです」
まさに“たのしいピクニック”ではないか。
「到着してから1時間ほどですかね、そろそろお弁当にしましょうとなりました。2〜3組ごとに親子がシートを寄せ合って食べるような感じだったので、自然の成り行きでその親子と一緒にお弁当を囲んだんです」
その家族を仮に稲羽家と呼ぶ。
「稲羽さん宅は、ご両親そろっておいででした。ただ、仲が良さそうというわけでもなく、お父さんのほうはあまり会話が成立せず、やや気まずい思いをしました。お母さんのほうは相変わらず柔和なんですが、うちの子と同い年のお子さんは元気が有り余った調子。やや人見知りのあるうちの子を引っ張ってくれているようで、いいバランスに見えました」
と思った矢先、ひとつ目の事件が起きる。
自分が食べたくないものを無理やり…
「稲羽さん宅のお弁当のなかに、豆腐ハンバーグのようなものがあったんです。ただ、お子さんはそのメニューが嫌いだったようで、『これ俺きらーい!絶対食べたくねー!』と駄々をこねはじめてしまって。でもお母さんは食べなさい、と言うじゃないですか。すると、『(葉山さんのお子さん)くんが食べるなら食う!ねえ一緒に食ってよ!』と、うちの子に無理やり食べさせたんです。幸いにも息子に食品アレルギーはないので、まあいいかと流したんですが、食べた直後に俯いて涙目になってしまって……」
なんとも気まずい展開である。
「うちでは豆腐ハンバーグを出したことがなかったので慌てて、『食べたことがないからびっくりしちゃったのかもしれないです、ごめんなさい!』などと言ってその場は誤魔化しました。はっきり言ってお弁当は見た目にもあまりおいしそうには見えなかったのですが、だからといって強く止められるわけでもないじゃないですか。でも、その判断がすでに誤りだったんですよね」
どう誤りだったかは後から書くとして、時系列で話を進めよう。
「食後、稲羽さんのお子さんが先立って、川がカーブした向こう側へと3人の子供と遊びに行こうとしました。あとの1人は(こども会の)会長の下のお子さんでした。それで会長が『稲羽さんのお父さん、子供たちを見ておいてもらえますか?」と、見守りをお願いされていたので、つい任せてしまいました。というのも、帰り際にするレクリエーションのちょっとした準備も必要で、私はそちらに参加することになっていたんです」
そう、ここで事件その2が起きる。
子どもが怪我した際の対応に疑問符
「稲羽さんのお父さんが、『会長の娘さんがいなくなった』と、一人で言いに来ました。大人の膝下程度しかない川辺とはいえ、その子はまだ幼稚園児。大慌てで会長と私ともう一人の親御さんとで向かいました。結果としてはすでに娘さんは3人の子供と合流しており、ほっと一息ついたのですが……うちの子が膝から派手に流血していたんです」
なにがあったのか。
「どうも、ちょっとした岩場から岩場へとジャンプするような遊びをみんなでしていたようなんですね。そこで息子が足をすべらせて膝を怪我してしまい、どうしようかとお父さんがまごついたところで、会長の娘さんが絆創膏を私たちのもとへもらいに行こうとしたものの、反対方向に間違えて走ってしまったみたいで。子供の膝の怪我なんてよくあることなのでそれ自体はいいんです。
しかし、幼稚園児よりも判断が遅いこと、怪我に気を取られてほかの子から目を離すこと、ヘルプを呼びに来たときに手当てが必要な子供がいることを伝えないこと……。もうそれは大人としての見守りが一切できていないよなと、内心腑が煮え繰り返っていました」
怪我は実際、「よくある子供の膝小僧の怪我」程度ではあったらしい。
「失踪も怪我も大したことはなかったものの、一騒ぎにはなったので、レクリエーションもそぞろに終わり、解散となりました。不幸中の幸いというべきか、会長とも面識が深まりましたから、それでよしとするか、なんてことを寝かしつけをしながら考えていたときのことです」
ここで事件その1に戻る。
息子が食中毒に。原因は…
「息子が盛大に戻してしまって……。一晩中上から下から、大騒ぎになったんです。♯7119に電話をし、朝イチ受診で問題なさそうとのことだったので、夜通し看病してやり過ごしました。
翌朝お医者さんに聞いたところ、おそらくは食中毒だろうとのことで。私を含めほかの家族は平気で、息子だけが食中毒ならば、あの稲羽家の豆腐ハンバーグ以外に原因はありません。
息子にあのときなんで泣いたのかと聞くと、『なんかすごい変な味がしたから……』とも言っていたので、そうに違いないと確信しました」
このピクニック事件は2019年のことらしい。
「そのため、稲羽さん宅となんとなしに距離を置こうとしたことも、その後のコロナ禍でかき消され、平穏無事に過ごせました。ただ、食中毒に怪我に子供の失踪未遂というのが一日で起きるのは、年月が経っても事件だと思いますし、あのとき抱いた警戒心は消えません。そうしたなかで“たのピク”を私も先日目にしたんです。『私の警戒アラートが鳴る親がまさにこのイラストの人物だ!』と、もはや感動さえ覚えましたよ」
“たのピク”支持はドン引きされる
葉山さんの持論は以下だ。
「“たのピク”女性が叩かれるのは、別に『おにぎりが昆布だけ』だからではないですよ。そうではなく、食べ物を扱う人のわりにツメが甘く、つまりは衛生面に不安があるからでしょう。バレンタインの友チョコ文化を過ごした世代の女性なら、特級呪物のような代物を錬成して渡してくるような人もいることを知っていますからね。そうした経験から、“たのピク”に対して恐怖するのだと思います。
そしてお弁当を用意するのが“たのピク”女子だとして、それを『よい!』と思う男性は、稲羽さんのお父さんみたいだとしか考えられないわけです。だって、レジャーシートを敷く場所は一緒に選べるのに、ゴツゴツした場所を避ける提案さえできないうどの大木ですよね。そうした人が父親になっても、すべて人任せで子供を守るための動きなんて何ひとつできるわけありませんよ。だから“たのピク”支持はドン引きされるんです」
たった一枚のイラストが巻き起こした論争。その内容に実があるかはさておき、一枚の絵としては、昨今のどんな風刺画よりも含蓄のある作品であることは間違いないのだろう。
<TEXT/鬼怒川庸二>
【鬼怒川庸二】
街角では知り合いに間違われ、飲み屋では酔客に話しかけられる性質を持つ。娑婆の声に耳を傾けているうちに、自然と副業ライターになった。本業もまた別ジャンルの書く仕事。ドッペルゲンガーの報告はこれまで30件超にのぼる
【関連記事】
・
「いい加減にせぇよ」電車で“口を押さえず咳をする”若者に、隣に座った“ヤカラっぽい男性”が放った見事な一言
・
余計な口を出し「返信が遅い」とブチ切れる…元コンサルの体育会系上司に現場は困惑「残業はむしろ増えた」
・
人気の料理アカウントを閉鎖した30代女性。誹謗中傷を繰り返す“犯人”と直接会ったら「身近な先輩」だった
・
“異臭を漂わせる”スタッフに苦しめられる、飲食店店長の嘆き「立て続けにバイトの子たちが辞めて…」それでもクビにできないワケ
・
「なんでこの店を選んだのか理解できない」デート相手の女性が「居酒屋のメニュー」を見た直後に激怒。軽率な“生”が命取りに