(写真提供/谷保明洋(たにほ・あきひろ))
10月5日(月) 7:00
過疎化や住民の高齢化により、全国各地で増え続ける商店街の空き店舗。しかし、北海道幕別町の「本町(ほんちょう)エリア」を歩くと、空き店舗というまちの「余白」を活かした、新しい暮らしの鼓動が聞こえてきます。倉庫を改修して生まれたイベントスペース「マクラショーケース」を起点に、若い世代の起業や事業承継などが次々と生まれ、なんとここ数年で18店舗ものお店が新たにオープンしているのです。今回は、まちに新しい風を吹き込むキーマンや個性豊かな4店舗の店主の声とともに、2026年10月10日(土)に開催される「街の小さな旅マルシェ」に見るこれからのまちづくりの姿に迫ります。
北海道で3番目に人口が多い町、幕別町。でもエリアをひも解くと課題が北海道幕別町。道東の玄関口・十勝地方にある帯広市のすぐ東に隣接するこのまちは、パークゴルフ発祥の地として知られています。実は「町」としては北海道で3番目に人口が多く(約25,000人)、道内の全179市町村の中でも25位前後にランクインしています。「過疎化とは無縁なのでは?」と思うかもしれません。しかし問題は、町全体の人口が多いことではなく、その人の流れや暮らしの重心が一部のエリアに偏り、かつての中心市街地である本町エリアのにぎわいが失われつつあることにあります。
幕別町は大きく3つのエリアに分かれています。まず、帯広市に近く、買い物施設も充実し若い世帯も多い住宅街が広がる「札内エリア」。幕別町の人口の約8割がこのエリアに暮らしています。次に、のどかな郊外で、ナウマン象が発掘されたことで有名な「忠類エリア」。そして、今回ご紹介する「本町エリア」です。「本町エリア」にはJR幕別駅や町役場があり、かつては個人商店が立ち並び、大いににぎわいました。統計データが残る昭和43年には、11,000人を超える人口だったそう。しかし、暮らしや買い物の場が札内方面へ移るなかで、本町エリアの人口は現在、半減以下の約4,900人まで減少。日常的に歩く人や商いの担い手が減り、駅も一部時間を除き無人化されるなど、かつて大きな人の流れがあった中心地は、空き店舗や空き倉庫が目立つエリアへと変わってきています。
この本町エリアで、空き施設活用を牽引しているのが、幕別町地域プロジェクトマネージャーの谷保明洋さんです。もともとは国家公務員の建築職として活躍していましたが、十勝エリアに赴任した際に幕別町の可能性を感じ、国道38号線沿いの古い倉庫を取得しました。ご自身の設計で、この倉庫をイベントスペース「マクラショーケース」へと生まれ変わらせたのです。
「幕別」の「倉庫」を略して「マクラ(幕倉)」。古い外観はそのままに、内部はさまざまな箱(ショーケース)を自由にデザインできる空間になっています。ここを拠点に多様なイベントを開催し、少しずつですが、着実に人とモノの往来を生み出し、地域の方々の熱量の高まりを感じられるようになり、まちに増えてきていた空き施設再生の可能性を感じられるようになってきました。谷保さんは、その後、国家公務員を早期退職。幕別町地域おこし協力隊に着任し、「空き施設利用サポートセンター」業務に従事。本町エリアの空き施設の「ハコ探し」と地元の「協力者探し」に奔走しました。
足で稼いで信頼を勝ち取っていった谷保さんは、もともとあった空間や外観を上手に活用しながら、変えるべきところはしっかり変える「身の丈に合ったリノベーション」を一つ一つ丁寧に重ね、地元とのコミュニケーションも積み上げていっています。
今回、谷保さんの案内で4つの店舗を訪ねました。
まずは、町議会議員で写真家の塚本逸彦(つかもと・いつひこ)さんがオープンさせた飲食店兼シェアキッチン&スペース「ふるさとキッチン ミナ」。1997年に移住した塚本さんが「気兼ねなくおしゃべりできる場」を目指し、菓子製造と飲食店営業許可を取得、営業可能なキッチン設備を備えたカフェとコワーキングスペースを兼ねた空間をつくり上げました。
塚本さんがいる間はカフェ・飲食店として営業。空き時間はレンタルキッチンや貸し切りでのパーティ、多世代間の居場所など、多彩な活用ができる設えになっています。
2階は写真家ならではの視点が光るギャラリースペースと、塚本さんが趣味や作業もできるような素敵な空間になっています。
以前は司法書士事務所だった建物なので、内装には数多くの書棚や古い建具が残っており、それらを上手に再利用しています。こだわったのは、外から店内の雰囲気が分かるようにと大きく開けたFIX窓。「明るく、人の存在も感じられる施設にしたかった」と塚本さん。リノベーションの費用としては、キッチン以外ではこの窓に最もお金をかけたそうです。ただし、元来器用な塚本さんは、かなりの部分をDIYで仕上げたのだとか。
次に向かったのは、「山眠る 菓子とガレット」。洋菓子会社で企画開発に従事されていた飯嶋太朗(いいじま・もとあき)さん、札幌の有名店で腕を磨かれたなつみさんご夫妻が、Uターンで開いたお店です。
故郷である帯広市ではなく幕別町を選んだのは、創業支援策の魅力に加え、以前イベントで訪れた「マクラショーケース」では、帯広市内からの来場者も多く、商圏としてあり得るんだなという感触を得たこと、町役場や銀行、郵便局といった利便施設が近くにあり、自分たちの条件に合致する物件が見つかったことが決め手だったそう。
集客については、開店時は帯広市内からの客を主に想定していたそうです。ところが、ガレットをメインに据えたお店は周辺では珍しく、「ここで食べたい」と目的地として選ばれやすいこともあり、帯広市などの十勝エリアに限らず、釧路市や白糠町などかなり遠方から足を運ぶお客様も多いとか。素敵な調度品はもちろん、ゆったりとした音楽が流れる店内でいただくスイーツは、時を忘れさせてくれる一品でした。
さらに、1929年(昭和4年)創業の老舗菓子店「杉野菓子店」の看板と味を受け継いだ「TOKACHI BARON」へ。東京で25年以上ビジネスを行ってきた韓国出身の梁泰植(ヤン・テシク)さんが事業承継し、幕別町へ移住。名物菓子「ねこの座布団」を復活させました。このお菓子は、杉野菓子店2代目の杉野国男(すぎの・くにお)さんが考案して以来、地域のソウルフードとして親しまれてきたもの。さらに、韓国・天安の名物菓子「ホドカジャ」を十勝産小豆100%の手作りこし餡と香ばしいクルミで丁寧に焼き上げています。お菓子のおいしさはもちろんですが、店内のイートインスペースでは、無料の韓国茶が用意されており、店主の趣味の楽器たちも並べられ、ゆったりとした時間を過ごすこともできます。
最後は、現在マクラショーケースを運営する「ギャラリーカフェ Carita(カリタ)」です。店主の刈田順也(かりた・じゅんや)さんは、ダンサーや彫刻家としても活動する多彩な方。1階は本格的なスパイスカレー、発酵スムージー、スパイスケーキや熟成コーヒーが楽しめるカフェ兼ギャラリーとして運営され、2階ではパートナーの中村沙織(なかむら・さおり)さんがさまざまな手法を取り入れ、身体と心の不調を多角的に紐解いていく完全予約制プライベートサロン「therapy salon iyashidoko.」を運営。アートと日常が交差する素敵な空間です。
もともと札幌で活動していた刈田さんは、一度、帯広市内に移住し、その後、偶然この幕別町のマクラショーケースを知ることになりました。谷保さんと意気投合し、イベントスペースだったマクラショーケースの運営自体を刈田さんが担うことで、さらなる発展を目指したそうです。
現在は、さまざまなアーティストが個展を開くスペースとして活用しながら、その合間にご自身のアートを展示したり、多彩なイベントを仕掛けたりしています。郊外に位置する本町エリアで、アートと触れ合える機会は貴重ですし、カフェスペースもあるため子連れでも訪れやすいのが魅力。美術館やギャラリーのような凛とした雰囲気ではない空間で、子どもたちもアートと触れ合えるチャンスは、とても貴重だなと感じました。
ここ数年で、こうした個性豊かな18店舗の店主たちが、かつて商店や倉庫だった建物に新たな息吹を吹きこんでいます。どの店舗も、既存の空間を活かして外観などに大きな手を加えず、コストを抑えながら昔ながらの風景を生かし、魅力的な場をつくり出している。まさに「身の丈にあった再生」を行っているのが特徴だと感じました。
10月10日、まち全体が「ひとつのモール」になるマルシェマクラショーケースから始まったこの動きが、いよいよまち全体を巻き込みます。2026年10月10日(土)には、これら18店舗を基軸とした「街の小さな旅マルシェ」が開催されます。
既存店の余白や空きスペースにポップアップ店舗が立ち並び、総勢50店舗以上が出店、まち全体が「ひとつのモール」になる壮大な企画になっています。一般的に50店舗も参加するようなイベントであれば、ひとつの大きな建物内で行われることが多いと思いますが、今回のこの取り組みは、町に点在する新たな息吹をあげた店舗の余剰スペースに数店舗ずつが出店することで、町中に様々な店舗が点在することとなります。昭和の時代、数多くの個人商店がまちのなかにたくさんあり、人々が行き交っていた光景が再現されるかもしれません。
この熱量は幕別町にとどまらず、2027年は芽室町、2028年は音更町と、十勝の3町を巡るプロジェクトとして展開されることがすでに決まっているそう。単なる一つの町のイベント、ということではなく、町々の生活を感じてもらえるような街を回遊できるような仕組みを考えているそうです。
小さな店舗から漏れ出る笑い声や活気が、まちの息遣いを取り戻していく。こうしたまち全体を使ったマルシェは、訪れる人にとっても、地域の魅力を歩きながら肌で感じられる貴重な機会になるはずです。ぜひ18店舗はもちろんのこと、ポップアップの店舗も楽しめるこの機会に、幕別町本町エリアを訪れてはいかがでしょうか。
谷保さんいわく、一般的な地域のリノベーションプロジェクトは、大半が地域外からの新たな出店者によるケースが多いものの、本町エリアは「シェアキッチンミナ」の塚本さんのように、地元の方々が自ら行動しているケースが7割以上。空き施設再生とともに、元々本町エリアで暮らす地元の方々の熱量も上がってきているのを肌で感じているそうです。「マクラショーケース」から進めてきた地元との融合がしっかり身を結んできていると言ってもいいのではないでしょうか。谷保さんや今回訪れたお店のみなさんのお話を伺い、幕別町本町エリアでは、古きよきものを地元プレイヤーと移住者たちがうまく融合させて使いこなし、新しいけれど懐かしい雰囲気を醸成していることを実感しました。
最近では地方部の商工組合青年部員(45歳未満の会員)は減少の一途をたどることが多いそう。そんななか、令和7年度には新規加入者数が7名と北海道の町村の中で最大となり、表彰されるなど、若い担い手が増加するとともに、知名度も大きく上がり、行政や大学からの視察も急増しているそうです。今後は、訪れた人が日帰りで立ち寄るだけでなく、じっくりまちを味わえるよう、宿泊施設の計画も進んでいるとのこと。たとえば、「シェアキッチンミナ」で地元食材を使った食事会を開き、そのまま本町エリアに泊まる。そんな滞在型の楽しみ方が生まれれば、まちに落ちる時間もお金も増え、空き店舗を活用した再生の動きがさらに広がっていくかもしれません。
1店舗から始まった小さな挑戦は、18店舗へと広がり、現在もオープンに向けた改修や再生の検討など複数の案件が進んでいっているそう。10月に実施されるマルシェでは50店舗まで拡大された風景が見られます。その小さな再生のつながりは、これから十勝全体へと伝播していきます。地方ならではの「身の丈に合ったまち再生」のモデルとして、これからの動きにも要注目です。
●取材協力・参考サイト
ふるさとキッチンミナ
山眠る菓子とガレット
株式会社TOKACHI BARON
【
Instagram
】
ギャラリーカフェCarita
therapy salon iyashidoko.
【
instagram
】
MACKWORKS
街のちいさな旅マルシェ
全国まちづくり会議2026
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