F1第16戦バーレーンGPレビュー(後編)
◆レビュー前編>>
タイヤ選択に失敗してしまったアストンマーティンのドライバーは、対照的な決断をする。
ランス・ストロールはスタンディングスタートを迎える直前にピットに戻り、ミディアムタイヤからインターミディエイト(浅溝)に履き替えた。ピットレーンスタートにはなったものの、1周でドライタイヤ勢を抜いて13位まで挽回。臨機応変な対応で、ダメージを最小限に留めることができた。
一方のフェルナンド・アロンソは、ミディアムタイヤのままステイアウトするギャンブルを採った。その結果、5周でトップから80秒もの遅れを背負うことになってしまった。
アロンソは18位から8位までジャンプアップを果たしたphoto by BOOZY
「コンディションがわからなかったけど、最初はスリックタイヤに賭けることにした。結果的にベストな選択とは言えなかったけど、なんとかマシンをコース上に留めて、あの時点ではフェラーリよりも速く走ることもできたので、なんとかステイアウトを続けたんだ」(アロンソ)
ドライタイヤ勢のなかでは、マクラーレンのランド・ノリスとアロンソだけが何秒も速いペースで走り、卓越したドライビングスキルを見せた。そして路面が乾き、インターミディエイト勢とペースが同等になってきたところで、ドライタイヤを履いていたバルテリ・ボッタス(キャデラック)がスピンを喫してしまう。
ボッタスがグラベルにストップしたため、セーフティカーが導入。この出来事によって大きく流れが変わったことで、アロンソは救われた。
各車がピットインしてスリックタイヤに交換する間に、アロンソに課せられた80秒のギャップはなくなってリセット。スタートタイヤの選択ミスは帳消しになった。とはいえ、18位まで後退したことに変わりはない。
しかし、混乱のなかで何台かのマシンが自滅していくのを尻目に、アロンソはハードタイヤで好ペースを維持。アウディのニコ・ヒュルケンベルグをアンダーカット、レーシングブルズのアービッド・リンドブラッドとハースのエステバン・オコンをコース上でオーバーテイクし、自力で10位まで浮上してみせた。
【ピットガレージは歓喜に包まれた】雨の恩恵にあずかる必要もなく、ドライコンディションでもアストンマーティン・ホンダは、中団グループのなかで上位を争うだけの速さを見せた。さらにジョージ・ラッセル(メルセデスAMG)のリタイアとノリスのコースオフによって、アロンソは8位まで浮上する。
終盤に再びセーフティカーが入って、ラスト4周はスプリントレースとなった。後方からはノリスが猛攻を仕掛けてくるが、アロンソはこれを見事に振り切って8位でチェッカーフラッグ。今季3度目の入賞を果たした。
その瞬間、小さく右手を挙げて人差し指を立てたアロンソは、無線でチームに語りかけた。
「すごく難しいレースだった。レース序盤もセーフティカーも難しかったし、エンジンのレスポンスがよくない時もあったけど、僕らはやれる限りのことはやった。みんな、よくやったよ」
ピットガレージは歓喜に包まれ、アストンマーティンとホンダのエンジニアやメカニックたちが抱き合って喜んだ。
セパンにはAMR26が得意とするコーナーが多く、パワー差で失うロスを取り戻せるという意味で、マシンに合っていた。さらに、タイヤに厳しい路面がアストンマーティンに味方した部分もあった。
マイク・クラックCTO(チーフトラックサイドオフィサー)によると、マシンのどこにどんな優位性があってこうした結果につながったのか、ライバルたちとの相対的な性能差の分析はまだ十分にできていないという。しかし、このセパンでの予想以上の競争力が、過去3戦の惨敗で下がっていたチームの士気を大いに高めたことは確かだ。
「なぜこれだけコンペティティブだったのか、しっかりと分析する必要がある。そして、その分析結果から得られるものを次につなげて、前を向いていくべきだ。ただ、まったく戦うことができなかった3週間前のマドリード(第14戦スペインGP)や1週間前のバクー(第15戦アゼルバイジャンGP)の状況を忘れるべきではない。地に足を着けて進んでいく必要がある」
レース前に語っていたとおり、やれる限りのことをやってポイントを獲りにいくレースができ、それがこの8位入賞という結果につながった。
【獲りにいったポイントを獲れた自信】マシンパッケージの競争力を考えれば、アストンマーティン・ホンダにとって入賞圏を争えるチャンスはそれほど多くない。しかし、そのチャンスがある時には、必ずつかみ獲りにいかなければならない。
これまでの2回の入賞(第6戦モナコGP=10位、第12戦オランダGP=9位)とは違い、今回は獲りにいってつかんだ入賞だ。それをつかみ取ることができたのは大きかった。
ホンダの折原伸太郎トラックサイド・ゼネラルマネジャー兼チーフエンジニア(GM)は、こう振り返った。
「オランダGPの時はスペック2を投入し、いろんな流れがあったなかでの入賞だったので、ホッとしたという気持ちでした。だけど、今回はFP1から調子がよさそうで、ポイントを獲りにいこうという姿勢で臨んだレースでした。
最後はセーフティカーによって(ノリスとの)ギャップが縮まってしまいましたけど、チームと協力しながらエネマネ(エネルギーマネジメント)を駆使し、逃げきることができました。勝負して8位でフィニッシュできたので、そこでポイントが獲れたという意味では、ホッとしたよりもやりきったという思いです。
クルーもみんなすごく喜んでいました。獲りにいったポイントを獲れたのは、過去3戦の厳しい状況のなかでがんばってくれたトラックサイドのメンバーやファクトリーメンバーのことを考えると、すごくよかったと思います」
当初のスタート時間からは3時間半が経過し、西の空に傾いた夕陽がメインストレートを美しく照らしていた。
わずかな時間で、空模様はこんなにも大きく移り変わる。F1の勢力図も同じように、あっという間に塗り変わる。
しかしF1の勢力図は、自ら塗り替えにいかなければ、自分たちのほしい色にはならない。1週間後のシンガポールでは、さらに自分たちの色に染めるべく邁進するのみだ。
米家峰起●取材・文text by Mineoki Yoneya
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