「4バックのやりやすさ」
試合後の森保ジャパンの選手たちは、そのことをそこはかとなく表現していた。ただ、現時点のメインは3バックであり、"4バックを称賛し、3バックをあしざまに言う"ことは立場を危うくする。たとえば上田綺世の言葉もプロフェッショナルだった。
「(4バックの長所短所は)明確に出てこないですが......蹴ってくる相手に対し、しっかりディフェンスラインが対応できていたと思います。特にピンチもなく、90分間、"蹴らせて回収"という再現性を持ってできました。細かい課題はいくつもあるでしょうけど、ポジティブな面のほうが多かったと思います」
4バックが構造的にロジカルなことは明白だった。この手立てを北中米ワールドカップに用意しなかったことは、森保一監督の失敗だろう。
ニュージーランド戦は右サイドバックで途中出場した伊東純也 photo by Masato Fujita
10月5日、国立競技場。森保監督率いるサッカー日本代表はニュージーランドを2-1で下した。エクアドルにPK戦で勝利して迎えたキリンカップ決勝で優勝を飾った。
そのニュージーランド戦で、日本は長年使ってきた3バックではなく、4バックを用いた。アジアカップを想定し、練習から4バックも試していたという。その試みは一定の成果を挙げていた。
日本はサイドアタッカーに豊富な人材を擁しており、堂安律や中村敬斗は水を得た魚のように躍動した。彼らは相手ゴール近くでこそ力を発揮する選手たちで、守備の負担を軽くしたほうが効率的と言える。そもそも、日本には高いレベルでウイングバックとしてプレーしている選手はひとりもいない。彼らサイドアタッカーをサイドバックがフォローし、力を発揮させるほうが道理に合っている。
今回の北中米ワールドカップでも、ベスト8進出国のうち、3バックを基本布陣にした国はひとつもない。世界のトップを目指す場合、3バックには無理があるのだろう。昨シーズンの欧州チャンピオンズリーグベスト8でも基本のフォーメーションとして使っていたチームはなく、ウイングバックは見当たらないのである。システムの有用性か、選手のトレンドか、ウイングバックの価値が低下しているのか......いずれにせよ結論は明白だ。
【不具合が凝縮されていた失点シーン】そして、日本が「ワールドカップベスト8以上」をお題目のように唱えるなら、システム変更は遅すぎた。ニュージーランド戦の4バックも、"今さら"の感は拭えず、場当たり的な印象も強かった。本気で4バックを用意するなら、なぜ長年クラブでサイドバックとしてプレーしている選手を招集しなかったのか。ニュージーランド戦で不具合があったとすれば、選手のミスではなく監督の問題だ。
たとえば、日本の失点シーンには不具合が凝縮されていた。見かけ上の責任はすべて前田大然にある。本人は猛省しているだろうが、アタッカーがバックパスを相手に渡すなど、あってはならないことだ。また、前田がスプリントで戻らなかった点も批判を避けられないだろう。
しかし、真の問題はサイドバックとの関係性にあった。左の鈴木淳之介はいつも前田と同じ位置にいて、カバーできなかった。同時に、失点シーンでは右サイドバックの中野就斗も高い位置に残ったままで戻るのが遅れたうえ、大外を上がってきたニュージーランドの選手に追い抜かれ、最後の一撃を食らっている。サイドバックではない選手がサイドバックをやろうとしたことによる破綻があった。
堂安は、個別のプレーに向けてではなく、チーム全体のズレをこう指摘していた。
「リスク管理は大事で。前半は(ボールを)失ったあと、選手の反応が遅かったところはありました。止まっちゃうというか、ファウルを取りに行っても剥がされるとか。アジアカップはこういう守りを固めた相手も多いと思うので......」
攻守のバランスに関しては、組み合わせのエラーも見逃せない。
たとえば前田はディフェンスの前に入る速さや推進力、神出鬼没さでは際立つが、ボールコントロールやキック、アイデアは他のサイドアタッカーと比べて凡庸で、あくまで縦や斜めに走り込むスプリントで生きる。そして、サイドバックの鈴木淳之介も縦を好む。その結果、前田とスペースを奪い合い、ノッキングしていた。ふたりが同じ高さでボールを失うことが多く、失点前にカウンターを浴びた場面でも、前田が縦パスを奪われた瞬間、鈴木が同じ高さにいたため、左サイドが穴になっていた。
【4バックが最も輝いた瞬間】
前田はサイドアタッカーというよりはストライカーで、サイドバックとの連係力が乏しい。別動隊のように、戦術の枠にとらわれないプレーでこそその持ち味を発揮できる。その彼を4バックのサイドアタッカーとして起用したこと自体がミスだと言える。
後半途中から入った中村は左サイドでテンポを作っていた。鈴木はそれを感じ、フォローに回った。本来的なサイドアタッカーが入ったことで自然に形ができ、それが決勝点につながった。相手のロングボールを鈴木がヘディングでクリア、そのボールを中村につなげた。中村はマークにつかれたが、1対1で相手を振りきってゴール前を横切るパスを出し、右サイドの堂安が押し込んだ。
4バックが最も輝いた瞬間だろう。
左右のサイドバックのどちらかひとりでも"純正"だったら、機能性はもっと高くなっていただろう。より多くクロスを入れられたし、パス出しでリズムを作ることもできた。中野にはいいクロスもあったが、やはりサイドバックとしては及第点を与えられない。そのポジション取りはウイングバックや3バックの右に近く、不慣れさが出た。
その不慣れさを強引に解決したのが、伊東純也だった。後半途中に右サイドバックで出場した伊東は、稲妻が走るような攻め上がりで攻撃をフォロー。「攻撃こそ防御なり」が間接的に得点にもつながった。
「昨日の練習で『4バックの可能性はある』と言われていました」
伊東はそう言って、右サイドバックでの出場を想定していたことを明かしていた。
「(同点でのサイドバック出場に)攻撃的に行くというところで、上がりたくて、うずうずはしていましたね。点を取ったあとは我慢で......。サイドバックは柏時代に2、3試合やっただけで、代表ではなかったと思います。(サイドバックで新境地という意味は)ないですね。しゃーなしにやったというか。やりたくもないです(笑)」
最後はリップサービスで笑いを誘ったが、隠しきれない"アタッカーとしての自負"が出たとも言える。
繰り返すが、4バックというシステムの合理性は一目瞭然だろう。しかし、その使い方はあまりに雑だった。4バックを想定しながら、純正サイドバックをひとりも招集しないなど、本来はあり得ない。
サイドバックは、サイドアタッカーといい関係性が作れたら共鳴し、高め合えるポジションだ。本来は日本人の特性にも合っている。そのサイドバックを無視してきたツケは今後、Jリーグや育成組織が払うことになる。それは森保監督の罪だ。
小宮良之●文 text by Yoshiyuki Komiya
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